神戸の電車男?No.5

救命病棟24時風
 私を乗せた救急車は5分ほどでN救命救急センターに到着した。
「大丈夫ですか~?病院ですよ~!」 「意識ありますか~?」
 あれこれ周囲から聞かれる。
「はい、はい」
 とそれらの問に答えている間にも私の体はストレッチャーから検査用の台の上へと移された。
「1,2,3!」
 なんてかけ声で先生方の息もばっちりだ。
(わ~、救命病棟24時みたいやな~。江口洋介とか松嶋菜々子おらへんかな?)
 なんて、あり得ないことを考えてみたりした。
 これで除細動器でも登場して
「心停止です!除細動200でチャージします!」 「
先生チャージできました!」
「よし!離れて!」
 ……、ボン!なんてストーリーにでもなれば、完璧に救命病棟24時だ。
幸いに私の意識はクリアだったので、こんなあり得ない空想もできたのだが…。
 そして、あっという間に心電図や点滴の管が装着され、採血や外傷の検査が行われた。
「上下肢の擦過傷、摩滅部を確認して消毒ね~」
(げげっ!摩滅っちゅうと摩擦の摩に滅びるの滅って書くんか?俺の体のどこかが摩擦で失われとるっちゅうことか?)
 なんとも痛そうな摩滅という単語をなんとなく人事のように分析していた。
 それから、気になったのが「ログロール」という語だ。
「つぎ、右にログロール。」
とか
「つぎは左ログロール、せいのっ!1,2,3!」
とか先生方が言っている。
どうやらログロールとは体を仰臥位から側臥位に体位変更する意味らしいことが理解できた。
 体位変更をされたり、検査台から移動させられたりする度に、骨折部に鈍痛が走り、太股の肉の中で折れた骨がグニョリと動く不愉快な感覚がした。
 レントゲン撮影やCTの検査が次々こなされた。
レントゲンは何度も経験したことがあるが、CTは生まれて初めての経験だ。
 改めて考えるまでも無いことだが、私はこの日、多くの「初体験」をした。
ホームからの転落・列車に引きずられる大事故・骨折・救急車での搬送・CT、それから…。
「Gentaさん、レントゲンとCTの検査したんですが、大腿骨と背骨が折れてます。これから全身麻酔で大腿骨の手術しますね~。Gentaさんは目がご不自由だから、手術の承諾書は後でご家族が来られた時に代筆で書いてもらいますね。Gentaさんには、今から口答で手術の内容とか承諾書の内容をご説明します」
 大腿骨が折れ、骨が太股の皮膚を突き破って外に出ている。
背骨、詳しくは第12胸椎が上下から押しつぶされたように骨折している。
大腿骨の骨折に対し、髄内釘という金属で骨を繋ぐ手術をする。
手術に当たっては全身麻酔の副作用や輸血の可能性とその際のリスクがあること、等が医師から説明された。
 私が手術に同意すると私の体は手術室へと運ばれた。
 口に全身麻酔用のマスクが装着され、麻酔のガスが注入される。
「大きくゆっくり息してください」  
そう言われてゆっくり呼吸しながら、どこまで自分の意識を保っていられるか?チャレンジしてみたが……、私の努力の甲斐もなく、先生方の声が徐々に遠ざかり、大腿骨のオペが開始されたようである。
 ぜひとも 「メス」  だとか 「吸飲」  だとか 「電気メス」 だとか、ドラマに出てくるようなドクターのてきぱきした声なんかを耳の端っこにでも留めてみたかったのだが…。
--------------------------------------------------------------------------------

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?