神戸の電車男?No.4

搬送
 右足が太股部分で折れている。
ズボンに触れるとぐっしょり濡れていてなま暖かい。
(わっ!こんなに出血してるんか?)
 それとあちこちがじんじん痛いから擦り傷が多数。
「あの、すみません!せっかく助けてもろたけど、こっこの出血大丈夫っすか?俺出血多量で死んだりしないっすよね~?」
「大丈夫や!それより意識はある?」
「はい、あります。」
「名前は?」
「Genta」
「Gentaさん、今救急車呼んでるから大丈夫やから!」
駅員の方たちとそんな会話をしながら救急車を待った。
「なんで落ちたの?」
「ドアと連結部分の隙間を勘違いした。落ちてしもたんは俺のミスです。」
「突き落とされたとかとはちゃうんやね?」 「ぜったい違います。俺が落ちました。」
住所だとか年齢だとかいろんなことを聞かれ答えた。
「あの、俺の職場に連絡してください。電話番号は06-6789-○○○○、電話交換手のYさんが電話に出られますから、Yさんにこのことを話してください。それからM課長に電話繋いでもらって、課長にも連絡してください!」
 こんな大けがをしてしまったのだから、職場には多大な迷惑をかけてしまう。
だから一刻も早く連絡したかった。
「分かったよ。後で連絡するから。ちゃんとするからね。」
 そのうちに救急隊員の方たちが到着。
「大丈夫?」
「あっあの、右足折れてて、めっちゃ血が出てるんでとりあえず止血してください!せっかく助かったのに出血多量で死にたくないですわ!」
「見せてもらうね~。ズボンとかシャツとかぼろぼろやから切るよ~」
 あっと言う間に衣服が切られて私は素っ裸になった。
「外傷は大腿骨解放骨折と…それから~…全身の擦過傷。」
 手早く止血や大腿骨の固定が施され、毛布にくるまれて私の全身はバックボードに固定された。
首はネックカラーで、頭部はヘットイモビライザーでしっかりとバックボード上に固定されている。
まるで発泡スチロール製のケースに梱包された人形のようだ。
「運ぶよ。せいのっ、1,2,3!」
 救急隊の方は声を掛け合いながら私を固定したバックボードをできるだけ水平に保ちつつ階段を下りた。
私の頭側から階段を下りている、
寝たまま階段を下りるなんて不思議な気持ちだった。
(そう言えば、ここには車椅子用のエレベーター無かったよな~!)
 階段を下ろされながらふとそんなことを考えた。
「あっ、あの…俺これから子供を保育所に迎えに行くとこやったんです。」
「迎えには行かれへんな~」
「迎えに行かれへんのは分かってます。俺の嫁さんの職場に連絡してもらえませんか?!あっ、なんならおれ携帯持ってるんで今から俺が連絡して良いっすか?」
「分かった分かった。ちゃんと連絡するから。Gentaさんは安静にしといた方がええから電話せえへんで良いよ。」
 救急隊の方とこんな会話をしつつ、私は救急車へと運ばれたのだった。
「え~、33歳目の不自由な男性。列車のドアと連結部分を勘違いし、連結部に転落。列車に引きずられた模様。え~、外傷は大腿骨の開放性骨折と全身の擦過傷。特に背部に20cmくらいの大きな擦り傷があり、傷が黒いインクのような物で汚れています。列車による轢断痕はありません。え~、緊急な処置の必要性からN救命救急センターを選択しました。」
 救急隊の方は私の外傷や血圧・脈拍や意識レベル等を各所に報告しつつ、私を乗せたストレッチャーを救急車の車内へ固定した。
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