神戸の電車男?No.6

再会
 目覚めると妻と息子、それから従姉夫婦が来てくれていた。
 妻や従姉夫婦が来てくれていたことも嬉しかったことは言うまでもないが、真夜中なのに息子が寝ずに待っていてくれたことが、とても嬉しかった。
 息子の小さな手を握りながら、家族や友達のいてくれる場所に帰って来れたことを再認識した。
 家族と再会したことで、自分が生きていることを心から嬉しく感じた。
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リプレイ
 手術後家族が帰って静かな病室の中で、私は何度も事故の瞬間を思い出していた。
 転落の瞬間のこと、自分が列車に引きずられる時の感覚や轟音……、それらが何度も何度も繰り返し頭に浮かんだ。
 恐怖では無く
(なんでこんなことになったんや!)
 と言う後悔と、事故の瞬間に失った物(職場での仕事上の日程が立たなくなり迷惑をかけてしまうであろうこと、受講中の通信制大学の単位取得を諦めなければならないこと、地域のイベントで作曲を依頼されていたのにできなくなってしまったこと、友達の結婚式の二次会の運営を頼まれていたのに断念せねばならなくなったこと、趣味の1つだったテニスができなくなったこと…)への悲しみのような残念さのような複雑な気持ちが心を満たした。
 命が助かったのだからその他に失ったことなど、どうと言うことでは無いのだろうが、冷静にそう思うには途方もない時間がかかりそうに思えた。
 そんな悶々とした気持ちを巡らせている時、病室のドアが開いた。
「Gentaさん、大丈夫ですか?」
 看護士さんだ。
私が大丈夫であることを告げると、彼女は続けた。
「私のこと、覚えてるかな~?高校生の頃に一緒に遊んだんやけど……」
(え?俺は確かにお姉ちゃんは好きやけど、若い頃にこんなお姉ちゃんと出会ってたかな?どんな遊びをしたんや?)
 私は、過去の女性遍歴をかき集めてみた。
「K~です。学生の頃に、海行ったり、カラオケしたりしたでしょ?」
 名乗ってもらって、やっと思い出すことができた。
私が、按摩、マッサージ、鍼、灸の専門学生だった頃に交流のあった看護女子校の子だ。
「おぉぉ!思い出した!めっちゃ懐かしいな~。ってかこんな所で出会えるなんてな~」
「カルテを見たら珍しい名前やったから、ひょっとしたら?って思って……」
 4人部屋で、他の患者さんの睡眠を妨げるわけにもいかず、彼女の仕事の邪魔をするわけにもいかなかったので、少しの間、過去の思い出話をして、Kさんが病室から出て行くのを見送った。
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