【原神】謎翻訳語の真意
原神において、謎翻訳の台詞がたびたびネタにされるのは周知のことですが、この記事ではキャラクターボイスの中から代表的なものをいくつか取り上げ、それらが本来どういう意味なのかを紐解いていきます。また、もし自然に訳すとしたらどのような候補が考えられるか、まで言及したいと思います。
先に言っておくと、私自身はこれから挙げる謎翻訳語は大好きです。なので、翻訳を変更してほしいという気持ちは全くなく、あくまでその真意を探ることが目的です。所々に、筆者個人の解釈が含まれていることは言うまでもないので言いません。
隙を見せるのは誰か?
トップバッターは、みんな大好きタルタリヤの元素爆発ボイス「隙を見せるのは、ほんの一瞬だ!」です。謎翻訳の代表格として、いまだにその地位を譲りません。
さて、「隙を見せる」とありますが、その主語は誰でしょうか。タルタリヤが、大技(元素爆発)を撃つ時の隙が一瞬しか生じないことを誇っているのでしょうか。それとも敵が見せる隙ということでしょうか。とにかく、原文を見てみましょう。
原文は「破绽,稍纵即逝」と書かれています。「破绽」が「隙」に当たる表現です。「稍纵即逝」は成語で、「(時間や機会が)長続きしない」「少し油断していると、すぐに過ぎ去ってしまう」という意味です。
ひとまずこれらを合わせて直訳すると、「隙は、油断してると一瞬で過ぎ去ってしまうよ!」という意味に解釈できます。原文でも「誰の」隙かは明言されていません。敵と自分の二通りの解釈が出来て、それぞれ「敵の隙は油断してると一瞬で過ぎ去ってしまうよ!」と「俺の隙は一瞬だ、それを突けるかな?(挑発)」です。個人的に後者は前者に比べて幾分か自然さが劣ると考えているので、「隙を見せる」のは「敵」であると解釈するのが自然でしょう。
もう少しくどく説明すると、敵が隙を見せているという状況、それは一瞬で、ややもすればすぐに過ぎ去ってしまうのだから、その絶好のチャンスを見逃してはならない、ということです。まるでタルタリヤが、自身を操作しているプレイヤー側に語りかけるようなメタ的な内容にも受け取れるので、それが翻訳の不自然さに繋がってしまった可能性はあります。
余談ですが、原神にはこの類の台詞がちょいちょいあって、例えば夜蘭の「急がなくてもいいのよ」や、ガイアの「お前って本当にせっかちだな」ですが、これは誰に言っているのかと考えた時、画面の前にいる我々に言っている演出なのか、それとも共に冒険しているという体で旅人に言っているのか、いまいち分からない。
閑話休題、以上を踏まえれば、どっちの隙かがはっきりして、かつ敵に言い放つような文章にすることで、不自然さを払拭できるかもしれません。原文に寄せるとどうしても日本語としてこなれない印象になってしまいますので、意訳して「一瞬の隙も見逃さないよ!」とかにすると、スッキリしますね。オリジナルには敵いませんが。
岩 の 重 さ
お次はノエルの元素スキルボイスを見てみましょう。
意味は分かるけど意味が分かりません。原文カモン。
直訳すると「岩の重さは人を安心させる(落ち着かせる)」となります。んん?そんなに日本語訳間違ってない…となりますが、違う箇所は、「人」の部分が無くなっていること、「〜させる」という使役表現の「令」が、日本語だと「〜できます」という表現になっていること、この二つです。
元素スキルでノエルはバリアを展開しますが、それにより「岩元素に守られているという安心感(安定感)」が得られます。「岩の重さ」というのは、バリアによる揺るぎない安心感を、重量に準えた比喩でしょう。
原文で「私」ではなく「人」を安心させると言っているのは、ノエル特有の過剰な献身的性格の表れだと解釈できます。日本語だとこの部分が表現し切れておらず、「自分だけ安心できる」という意味合いに取られかねません。
以上を踏まえて自然に意訳するならば、「皆様に岩の御加護を」とか、何ならもうシンプルに「これで安心ですね」でもいいかもしれません。行秋の「断!」が「この剣は分かるかい!」に超翻訳されるくらいなんですから、怖いものなしです。
おさわりの破壊力
甘雨には元素スキル、元素爆発ボイスそれぞれに気になるものがあります。まずはスキルから。
とりあえず原文を。
「禁止接触」、説明不要なほど、そのままの意味です。日本語訳については、ただ言い方の問題であって、意味には問題はないようです。
「おさわり」という独特な言い方に関しては、「特定の言葉に特定の状況下で『お』をつけると、その語感に官能的な印象が加わることがある」ということを知っていた翻訳班の癖による産物の可能性があるものの、実際のところは分かりません。
違和感を無くすなら、「触らないで下さい」「近寄らないで」「お引き取りを」とかになるでしょう。
排除するべきですね!
もう一つ、元素爆発にこんなボイスがあります。
言いたいことは何となく分かるけども…、といった感じではないでしょうか。原文を召喚します。
前半の「这项工作」が「この仕事」です。「这」が「この」、「项」は量詞と呼ばれるもので、訳す必要はありません。「工作」が「仕事」。
後半の「该〜了」は、「そろそろ〜しなくては」「〜すべき時間だ」というニュアンス。「划掉」は線を引いて削除する、という意味です。仕事内容が紙に羅列されていて、終わったものから線を引いて消していく光景を思い浮かべて下さい。なのでここでは「線を引いて削除する→仕事を片付ける」という意味合いになります。
以上を踏まえて直訳すると、「そろそろこの仕事を片付ける時だ」となり、ここでいう仕事というのは、目前の敵と戦うことを意味すると捉えて差し支えないでしょう。
日本語版では「划掉」が「排除」と訳されており、ここだけだとまあ問題ないのですが、「仕事」を「排除」するというのは、意味は分かるものの、言葉の相性的に(コロケーション的に)あまり良くなく、不自然になってしまいます。仕事に対しては、「終わらせる」とか「片付ける」という表現の方が相性が良いです。
なので自然に訳すなら、「この仕事を終わらせる時ですね!」「そろそろ終いにしましょう!」となるでしょうか。
試合したがり屋さん
最後はアンバーで締めるとしましょう。彼女はダッシュをする時、こんなことを言います。
いきなり何の試合?って思うかもしれません。ちなみに、現在はこうして戦闘・動作の各ボイスをテキストで確認できますが、元々この機能は無かったので、初期においては「何て言ってるか分からない」となった方も多いのではないでしょうか。原文、ここにあり。
この中で「比赛」が「試合」と訳されているのが問題です。確かに「比赛」には「試合・競技」という意味があるので間違ってはいませんが、ただ状況が状況なだけに、もっと概念の範疇を絞るべきです。ダッシュ時のボイスなので、彼女は「競争」したがっていると見てまず間違いありません。なので、「競争」とか「かけっこ」と訳すべき箇所です。ちなみに英語では「I'll race you there!」で、的確です。
というわけで、「かけっこしよ〜!」「競争しよ〜!」とすればより自然になります。「かけっこしましょう!」にすると香菱と被るのでダメです。
おわりに
いかがでしたか?(クソ浅い記事の締め言葉)
今回挙げたものは全て、実装以来一度も変更されたことのない猛者たちです。鍾離の「花を買い、酒を持ち〜」は2回ほど修正されたり、香菱は「グゥオパァー」の発音が修正されたりと、たまにボイス修正を挟むミホヨですが、今回のものが修正される気配は今のところありません。全部好きなのでこのままでお願いします。