【原神】璃月文字概要
この記事は、璃月地域に見られる架空文字(以下、「璃月文字」という。)について、その形体分析や解読の可能性等について論じたものである。
第一章 璃月文字とは
(一)璃月文字の定義
璃月文字について論じる前に、まず璃月文字とは何かを定義づけておく必要がある。璃月には漢字を元にしたと思われる架空文字、つまり璃月文字が何系統か存在する。主なものについていえば、
一、璃月港を中心とした璃月地域全体の看板等見られるもの。
二、秘境「伏龍の木」の入り口に見られるもの。
三、禁忌滅却の札に見られるもの。
の三系統である。
この記事では、これら全系統を含めて広く璃月文字と定義することとする。ただし、記事で主として取り扱うのは、最も広い範囲で使用されている一の系統の璃月文字である。残りの二と三については第四章で少し触れるつもりである。なお、七七の札や理水畳山真君の仙府入り口に見られるものは護符の類であるから、ここでは考慮しない。
ちなみに一の系統の璃月文字は他にも、璃月出身の一部のキャラクターの技発動時や、キャラクターイラスト等に至るまで、幅広く見られるものである。
(二)璃月文字の位置付け
テイワットには今のところ、国ごとに独自の架空文字が存在し、それぞれモンド文字、璃月文字、稲妻文字等と呼称されている。璃月文字はその名の通り璃月地域を代表する文字体系である。
上に挙げたもののうち、モンド文字、稲妻文字については、各文字がアルファベットと紐付けられることが判明し、解読されている。しかし璃月文字は未だに解読されておらず、そもそも「解読」なる行為が可能なのかどうかも不明である。これについては後に言及する。
第二章 璃月文字の字形
(一)字形の由来
璃月文字の字形は、漢字の古い字形が元になっているであろうことは広く知られている。
具体的には篆書体と呼ばれる字体が最も近い。篆書体は秦の時代頃に多く使われていた字体で、現在においても印鑑などの権威を求められる場において、なおも使用される儀礼的な字体である。
原神の世界に現代の漢字の字体を織り交ぜたのでは生々しく、テイワットという架空世界に溶け込まないため、古代の書体、それも資料が多く広く周知されている篆書体が選ばれたのだろう。主な資料としては、西暦100年に許慎が著した『説文解字』が有名である。
(二)字形の分析
筆画単位で見れば実在する篆書体に酷似しているものもあるが、文字単位で見ればやはり一部を除いて実在しないものである。個別の字についていくつか例を挙げ、実在の篆書との類似点についてそれぞれ検討する。なお、参考に引用する漢字の画像は、特に記載しない限りWebサイト「字統网」から引用した。
①文字の一部に、実在する篆書体と酷似する筆画を持つものの例
以下に例示するのは、部分部分で見ると似た筆画があるが、全体で見ると異なるという類のものである。上に璃月文字を大きく載せ、下に筆画を参考にした可能性のある篆書体と、それが何の漢字かを示す。
この璃月文字は、各パーツの形が、「邑」という字に似ているが、配置が異なり、下に横線が一つ加えられている。
この璃月文字は、上部の「廿」形のものをささげ持つような形が、「共」の字形と似ているが、下の筆画は実在しないものである。「恭」のように「共」の下に筆画のある字を想定しているかもしれない。
この璃月文字は、全体的に「楽」と似ているが、下が異なる。
この璃月文字は、全体的に「方」と似ているが、細部が異なる。
この璃月文字は、全体的な印象が「燕」と似ているが、細部がいくつか異なる。
この璃月文字は、右部が「福」等に含まれる「畐」に似ているが、左部は「務」の左側に似ている。
②実在する篆書体と全体を通してほぼ同形のものの例
以下に例示するのは、実在する篆書体と比べて、筆画や配置が著しく似ている類のものである。
ちなみにこの璃月文字に関しては、殷代(前16,17世紀頃〜前11世紀)の甲骨文字まで遡れば、「有」が最も似ている(下の画像参照)が、篆書体と時代が異なる上、おそらく偶然なのでここでは考慮しないが、一応示しておく。
以上に示した通り、璃月文字は実在する篆書体の筆画を一部にだけ取り入れているものと、字形全体が実在する篆書体とほぼ同じものとに大別される。ここに示していない璃月文字に関しても、篆書体から取り入れたと思われる筆画を基本的に有している。
これらの比較検証を踏まえても、璃月文字が篆書体を参考に創作された文字であると断言してよいだろう。実在する文字を部分的に再現し、その他を創作して補うことは、モンド文字や稲妻文字にも見られる現象である。
第三章 璃月文字の解読に関して
(一)璃月文字の字種について
璃月文字はそもそも何種類あるのか。例えば冒頭に示した画像の中には、既に26種類の璃月文字が見られる。
更にこの画像には含まれていない璃月文字が以下の箇所に見られる。
このうち重複しているものを除くと、11種類が新たに加わることとなり、合計で37種類となった。管見の限りこれ以上の文字種を見つけることができなかったため、とりあえず37種類と結論付けておく。
また、①に示した璃月文字は、他の一般的な字体と比べてやや装飾的であるのが分かる。若陀龍王周辺の地面にある璃月文字も同じように装飾的な字体になっているが、基本的な骨組みは同じであり、別の文字というわけではない。他には、例えば不卜廬にある掛け軸には、先ほど「邑」に似ていると言及した璃月文字が、かなり装飾化され、大きく描かれているのが分かる。
(二)解読の可能性
他国の文字が、個々がアルファベットに対応していると判明したことにより解読されている事実に照らして、ひとまず「アルファベット等の実在する文字との対応関係を明らかにする」ことを「解読」と定義付けておくこととする。
璃月はリリース当初からあるため、もちろん璃月文字もリリース当初から存在し、多くのプレイヤーの目に触れてきているはずである。にもかかわらず、未だに解読されていない謎の文字である。先ほど字種を数えたが、アルファベットの字数26種類を大きく上回っており、他国の文字と同じくアルファベットに対応させることはできない。
もう少し事例を収集してみよう。璃月文字が最も多く見られる璃月港の街中で、璃月文字が使われている看板等を調査し、簡易にまとめたものを以下に示す。
こうしてみると、街中で使われる字種は、かなり限定されていることが分かる。先ほど番号を振った中の2,11,22,23,24の5種が特に多く使われており、他が使われるのはまれである。また、それら字の順番もかなり前後している。このことは、璃月文字が、現実世界にある文字と結び付いて何かを表記していると仮定した場合、かなり不自然ではないだろうか。
これは璃月総務司の前にある掲示板である。こちらは看板とは違い、多くの文字種で綴られている。ただよく見ると、左上の紙面は、右下の紙面の文字を縦書きのまま一部使い回しており、右上の紙面は、左上の紙面から横列単位で抜き取ったものであることが分かる。璃月文字が別の文字と結び付いて何かを表記しているとするならば、まるでパズルのように恣意的に文字が羅列されているこの現象は、不自然と言わざるを得ない。
また、同章(一)で示した②の画像のように、特定の箇所にしか見られない字種も存在する。この点もまた不自然である。
加えて、運営が実際の事物と遊び心(?)で関連付けたと思われるものが2種ある。
上は煙緋の重撃の際に出現する印鑑だが、印鑑の「印」の字そのものである。下は万民堂ののぼりのため、「民」の字に酷似した璃月文字がデザインされている。このように、その場に合わせてデザインされたような字種が、前後の字と合わさって全体で何らかの意味を表しているとは考えにくい。
また、璃月文字には単体で出現するものがある。
これは一例で、他には鍾離のガチャイラストや、魔神任務間章第二幕の酔う秘境で登場したもの、璃月の街中に見られるものなどがある。このようにそこかしこに単体で出現するという特性は、他国の文字にはあまり見られない現象であり、一文字一文字が何らかの意味を表しているというよりは、雰囲気作りと捉えるのが妥当である。
(三)結論
以上を考慮すれば、璃月文字を他国の文字と同じく、別の文字と結び付いていると解釈するのには、あまりに不自然な点が多すぎるのである。ここから導き出される結論として私が妥当だと思うのは、
「璃月文字は、実在する篆書体を元に造られた架空文字であり、中国をモチーフとした璃月の雰囲気を創出するための単なる記号である可能性が高い。」
ということである。解読という行為はそれらの文字が意味を持っていてはじめて成立するものであるから、この結論の前に立てば、解読は不必要であり不可能である。(そもそも他の解読可能な文字が、有志の考察者により全て解読されている中、なお解読されないこと自体が不自然だと言える。)
第四章 その他の璃月文字
(一)伏龍の木
前章まで、最も広く使われている璃月文字について述べた。この章では、冒頭に言及した他の系統の璃月文字について述べる。
伏龍の木の入り口には、その週の若陀龍王がどの属性をまとうのかが璃月文字でもって示されているが、これらは前章までで取り上げてきた璃月文字とは別系統である。この文字も同じく篆書体を元にしているが、より忠実に再現されていることが分かる。
今週の属性をプレイヤーへ教えるという観点から、より伝わりやすい字形にしたのだろう。火と氷に至っては、篆書をそのまま再現したかのようである。水はやや手が加えられ、雷は下部の「畾」が装飾的に改変されている。
これらは、デザイン元の篆書体の漢字が表す意味がそのまま引き継がれていると断言できるものであり、一の系統の璃月文字とは性質が異なる。他の場所ではこの璃月文字は見られない。
(二)禁忌滅却の札
かなり限定的ではあるが、禁忌滅却の札にも璃月文字が見られる。
上部は護符のようにデザインされており複雑だが、下の二字は「通」「非」の篆書体に似ている。
以上の二系統の璃月文字は、今回の記事の主題ではないが、篆書体を元に作られたと思われる点は共通しており、並べて取り上げた。
あとがき
今回は今までの記事に比べて圧倒的に画像の比率が高くなったような気がします。「文字」という目で見てなんぼのものについて書いたのですから、当然と言えば当然ですが。解読についてはこんな結論になってしまいましたが、今後あっさりと「解読されました」とかなろうものなら私が慚死してしまうので、一生未解読で終わることを切に願っています。
[参考文献]
阿辻哲次『漢字の歴史』, 大修館書店, 1989
大西克也、宮本徹『アジアと漢字文化』, 放送大学教育振興会, 2009
[参考Webページ]
「字統网」(https://zi.tools)←超お世話になりました
「漢典」(https://www.zdic.net)
「原神 Wiki | Fandom」(https://genshin-impact.fandom.com/ja/wiki/璃月言語)