田島君のこと

 田島君はいつも突然に訪れる。すっかり忘れかけている頃に来るものだから、いつも「失礼ですけど?」という冗談のようなやり取りから僕たちの交友関係は再開されるのだ。
 『新潟の美味しいものキャンペーン』に応募して一等賞の新之助60kgが当たったのであった。届けられたその米俵を見ながら、僕は少し困っていた。ひとり暮らしの僕のアパートには炊飯器がない。そもそも自炊することなど念頭にないので、鍋とか皿とか、包丁まな板、そういったものが一切ないのだ。当たるとしたら日本酒のセットの方がよかったなあ、高級なお米だとしてもさすがに生のままでは食えないだろうし、そもそもこんなにたくさん、一体どうすればいいのだろう。
「やあ、これはおいしそうなお米だな」
 そう言いながら、ちょっとスティーヴ・ペリーに似た顔立ちの小柄なおじさんが米俵の陰から顔を出す。
「えーと、失礼ですけど、あなたは?」
「あー、これはこれは、何度でも言いますけど、田島です、友達ですよ、もう30年くらいずっとね」
と、田島君は背負っていた巨大なリュックを床に下した。
「飯盒あるからさ、大丈夫だよ」
 ごそごそと年季の入ったキャンプ用品、名前は分からないけど、多分アウトドアグッズなんだろうなというものを次々に取り出す。

 小さめなおにぎりを軽く焼いて、熱々のそれを僕にくれる田島君、
「本当は%4%434#q2"E味噌があるとおいしいんだけどね」
と言いながら、かたずけ始める
「せっかくだからあなたも食べれば」
「た、じ、ま! 忘れないで。友達なんだよ」
 焼きおにぎりを一口食べてみた。外側がかりっと香ばしくて、中の方のご飯は柔らかくもっちりとして、少し甘い味がした。
「おいしい」、僕が言うと、
「%4%434#q2"E味噌があるともっとおいしいんだ」
 リュックを背負うと、「じゃ、またね」と帰って行く。
 まだまだたくさんお米があるなと、やはり僕は少し困っている。

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