人魚姫
思い出すのはいつも横顔だった。
僕が君を見ると、
決まっていつも目が合うことはない。
多分正面切って話したことの方が、
少なかったかもしてない。
「何を考えているの?」
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「君のこと。」
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「たまには目を合わせてよ。」
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「だってさ…。」
僕は君の顔をはっきり思い出せない。
愛した人の顔を思い出せない。
浮かぶのはいつもぼやけた横顔だけ。
すごく綺麗だった。
僕の持つ言葉では表現しえない。
神秘すら感じた。
ぼんやりした記憶の中から、
僕は一つずつ組み立てていく。
君の声を。
君の歌を。
君の眼を。
君のやさしさを。
なんでだろう。
組み立てられたとたん、
それは波とともに記憶の海に流されていく。
綺麗だった。
ただひたすらに。
綺麗だった。
〇〇に逢いたい。
名前すら口から出てこない。
声にならない。
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・
・
貴方がいなくなってどれだけの時が経ったのか。
本当は今すぐ連れ出してほしい。
私の知らないところに。
貴方が生きる時に。
貴方が生きる場所に。
叶わないって分かってる。
ほんの少しで良い。
一瞬で良いから。
貴方の肌の熱さを感じていたい。
二人が結ばれる世界へ行きたいよ。
私はこのままずっと、
後悔して生きていくのかな。
君に触れずに死ぬその時が来てしまうのなら。
せめて、
綺麗な思い出と一緒に泡になって消えてしまいたい。
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