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大舞台を前に焦らずに準備をする方法

僕は先日、引っ越しをした。といっても、ハノーファー市内での引っ越しだったので、違う街でイチから色々な手続きに追われるわけではない。

ようやく新居にもなじんできた。先日、語学の勉強に使えるようなノートを探していたところ、以前に僕が想いを書き連ねたノートが出てきた。

そこには約3ページにわたって、僕が考えていたことが書かれていた。それを書いたのはロシアW杯までおよそ半年となった時期で、ヘルタ・ベルリンからフォルトゥナ・デュッセルドルフへレンタル移籍を果たす直前のものだった。

改めて読み返して感じたのは、当時の僕の焦りだ。焦る気持ちが強すぎて、色んなことに手を出そうとしすぎていた。つまり、気合いが空回りしている状況だ。

当時の僕は所属クラブで思うように試合に出られなかったから、それが半年後のW杯のメンバー入りに悪影響を及ぼすのではないかという怖さがあった。また、当時の日本代表も思うような成績を残せず、批判の声も強かった。

そういう状況が重なっていたから、僕は大きなプレッシャーを感じていた。だから、飛躍的にレベルアップしないといけない気がして、そのためにフィジカル面ではこういうことを、技術面ではああいうことを、メンタル面では……という風に考えてしまったのだと思う。

テストの直前になって、不安を覚え、色々な参考書や問題集に手を出してしまうような感覚に近いのかもしれない。

結局、そのノートに思いを書いた少し後の1月23日には、デュッセルドルフへの移籍が決まり、ほとんど試合に出られない状況は解消された。

しかし、移籍して3試合目で脳しんとうになってしまい、そこからおよそ1ヶ月戦列を離れることになった。

当時の僕はW杯へかける思いも強かったから、どうしても活躍しないといけない、と自分で自分にプレッシャーをかけていた。それは必ずしも悪いことはないが、焦りも生んでしまう。

そんな状況の僕にとって大きな意味を持っていたのが、パーソナルトレーナーをお願いしている谷川聡先生とのディスカッションだった。当時の僕の心境にふれた先生に、こう言われた。

「これまでやってきたことを、もう一度、丁寧にやるべきだよ」

その理由については、こう説明してくれた。

「元気はこの4年感、十分に質の高いトレーニングやコンディショニングをやってきたと思う。だから、もう一度、自分がやってきたことを一つ一つ丁寧にやっていけばいいよ」

先生の言うとおりだった。

先生の元でトレーニングを始めたときにはまだドイツに移籍する前で、日本代表に定着していたわけでもなかった。

そこから少しずつ成長して、ドイツでも試合に出られるようになり、日本代表でもたくさんの試合に出て、ゴールも決めた。ロシアW杯の出場権の獲得にも貢献した。そうした事実こそが、谷川先生と一緒に取り組んできたトレーニングの正しさを証明していた。

それに、先生とトレーニングを始めたときには、短期間の目標ではなく、その時点では4年以上先にあったロシアW杯をみすえて、目標を立てていた。だから、取り組んできたトレーニングの質を落とさずに、毎日、積み重ねることには確かな意味があったのだ。

谷川先生はプレッシャーのかかるオリンピックの舞台で、110mハードの当時の日本記録を更新した実績がある。そして、そこまでのトレーニングを通して先生との間には信頼関係もあった。だから、焦っていた僕の心にも、先生の話がストンと入ってきたのだと思う。

最終的に、ロシアW杯の自分のパフォーマンスが最高の結果だったかどうかはわからない。

ただ、あのときは初めての舞台を前に大きなプレッシャーもあったし、大会の直前に監督が代わるという予期せぬ出来事もあった。それでも最終的にはレギュラーポジションをつかみ、W杯の決勝トーナメントで日本人として初めてゴールを決めることができた。

大会を終えたときにはもっと成長したいと思ったけど、当時の自分の実力をある程度は出せたとは感じたのも事実だ。

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9月19日、僕の所属するハノーファーは2020-21シーズンの開幕戦を迎える。10年以上プロとしてやってきたけど、開幕戦の前にはやはりプレッシャーを感じる。その年によってプレッシャーの質や種類は違うけど、今年は1部昇格を目指すハノーファーにとって大きな意味を持つ一戦だし、その中心として僕も期待されている。

そんな大切な試合まで2週間を切ったけど、慌てることなく、このプレシーズン期間に取り組んできたものをもう一度見直して、丁寧にトレーニングをしていくつもりだ。

一見、僕が話してきた内容は当たり前のことのように感じるし、最後までいろいろもがいた方がいいのではないか?と思うかもしれない。でも、僕が経験してきた中では、それがプレッシャーのかかる試合で、自然体となり、良い結果を残すための最善の道だと感じている。

なお、最後にことわっておくが、プレッシャーのかかる舞台を前にして、それまでやってきたことに丁寧に取り組んで結果が残せるのは、それまでにきちんと努力をしてきた人だけだ。

計画性をもって努力をしてこなかった人が、本番前に丁寧に何かをやって結果が出るわけではない。そこだけは誤解しないでほしい。

最近はSNSなどで、プレッシャーがかかって力を上手く発揮できないときにどうしたら良いのかをたずねてきれてくれる人もいる。今回のnoteはそういう人たちのヒントにもなってくれたら嬉しい。

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1991年5月9日生まれ。 埼玉県熊谷市出身。ハノーファー96所属(ドイツ/2.ブンデスリーガ)。

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コメント (1)
原口さん
記事拝読させて頂きました。
国家試験を控え焦りの気持ちを抱えてた自分も参考にさせて頂きました。
ありがとうございます!
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