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僕が考える最適なオンとオフ

今回は日本とドイツにおける、サッカー選手の気持ちのスイッチのオンとオフについてまとめていきたいと思う。

2014年にドイツへやってきて、もっとも驚いたことの一つが、選手たちのオンとオフの切り替えについてだった。

例えば、練習の時には「こんなテンションでプレーしていて、試合でうまく戦えるのかな?」と不安になることもあった。ところが、試合当日になると、みんなの目の色が変わった。試合が始まる前から表情や態度は、鬼気迫るものがあったし、実際に試合になると練習とは見違えるような良いプレーも見せていた。

戦う気持ちや集中力を切った「オフ」の状態から、それらの入った「オン」の状態へと切り替える強度に驚いたし、ドイツで長く戦っていくためには参考にしないといけない。当時はそう考えたことをよく覚えている。

そんな「オン」と「オフ」の切り替えは、試合だけではなくて、練習の1日の中にも存在した。

それに気づいたのも、ドイツでの最初のシーズンのことだ。ゲーム形式の練習で、僕はスタメン組でプレーしていた。すると、サブ組にいたベーレンスという選手からかなり激しいタックルをくらった。いわゆる“削る”プレーだ。彼もサブ組にいて、フラストレーションがたまっていたからだと思う。

ただ、そのままにしていたら気持ちの弱い選手だと判断されてしまうかもしれない。そもそも、レギュラー争いのライバルにやられたままではダメだ。しばらくして、今度は僕が激しいスライディングをやり返した。

すると、ベーレンスも頭にきたのだろう。そこからは取っ組み合いのケンカのようなものに発展し、チームメイトが仲裁に入ることになった。

負けたくないから、あのときの僕はやり返したものの、「今後はしばらく気まずくなりそうだなぁ」と感じていた。それは日本での経験があったからだ。

日本でプレーしていたときにもゲーム形式の練習中などに、熱くなって口論をすることがよくあった。日本でも試合中には年齢は関係なく、プレーしないといけない。だから、練習のなかでも、試合を想定して、僕はプレーしていた。

そのなかで、先輩にも文句を言ったり、はむかうようなことも僕にはあった。ただ、それはサッカーに関することがテーマのときだけで、チームとして、個人として良いプレーができるようになるためのアクションだった。

でも、練習でそういうことがあると、しばらくの間は口を利いてもらえなかったり、陰で色々と言われたりすることもあった。一つの衝突が、長く尾を引くのだ。

そんな苦い思い出があったから、あのときの練習でも僕は気まずいなと思っていたのだが……。

すべてのメニューの最後に監督の話があり、練習が終わったときだった。ベーレンスが僕のところにきて「さっきはゴメンな!」と声をかけてくれた。だから、僕も「いや、こちらこそゴメンな!」と返して、その場はおさまった。

そのあとのロッカルームでも、次の日の練習でも、彼と僕との間に気まずい空気など一切なかった。

サッカーをしているときには、いわゆる「オン」の状態だから、熱くなって、激しいスライディングをしかけることもある。

でも、練習や試合が終われば、すぐに「オフ」に切り替えて、「オン」のときのことは水に流す。

それは僕らだけではなくて、ドイツでは普通のことだ。練習中に取っ組み合いのケンカになることはしょっちゅうある。でも、基本的には翌日にはその選手同士が握手をしたり、笑顔で肩を組んでクラブのSNSに写ったりする。お互いに「オン」のときに起こったことは、「オフ」になった瞬間に水に流すから、そういうことができるのだ。

そんなドイツの文化を知ったときに僕は「オン」と「オフ」をハッキリと切り替えられる、とても良い文化だなと感じた。そして、僕も真似しようと思うようになったのだ。

それは、自分のプレーにも良い影響を与えてくれた。

例えば、日本にいたときにはある週末の試合で良いプレーができないと、試合の後のオフの日をすぎて、翌週の練習のときにも悪いイメージやモヤモヤした気持ちを引きずってしまうことがよくあった。当然ながら、試合が終わればまた次の試合にむけて、気持ちを切り替えてやっていかないといけない。

ただ、ドイツに来て時間がたつにつれて、少しずつそうしたことはなくなっていった。その理由の一つには、ドイツのチームの方針もあると思う。ミーティングなどで試合を振り返って反省点を指摘したりすることもあるのだが、そういうのはたいていの場合には試合翌日に行なわれる。日本だと次の週の頭に行なうことも多いのだが。

ドイツでは試合翌日に、前日の試合の分析と反省をしてから、オフに入る。そして、翌週の練習からは、その週に控える試合にむけての準備に取りかかるのだ。そうしたやり方は個人的にも参考になった。

だから、僕はこういうルールを自分に課した。前の試合についての振り返りや分析はしっかりするけれど、前の試合の「感情」は家に持ち込まないとというものだ。

以前の僕は試合で良いプレーができなければ、家に帰ってもイライラしていたことがあった。でも、今は、家では家族との時間を大事にして、心を穏やかにして、過ごす。

もちろん、家にいるときにも、スペイン人の個人分析官とのディスカッションをしたり、トレーニングや身体のケアをすることはある。ただ、そこに前の試合の感情などは一切持ち込まない。

そうすることで、オフ明けには前の週の試合がどうであっても、それに引きずられることなく、次の試合に向けての最善の準備をできるようになった。

ここまでを読めば、僕がドイツの素晴らしさにすっかり染まっているように感じるかもしれない。でも、ドイツのやり方の全てが正解だと感じているわけではない。むしろ、日本人だからこそ、日本流の良さも感じている。

例えば、僕はチームメイトからよく、こんなことを言われる。

「ゲンキは、いつも一番早くクラブハウスに来て、最後まで残ってトレーニングしているよな。日本人はそんなに働くのが好きなのか?」

勤勉すぎるのは良くないと言いたいのだろうが、そんな彼らにも課題はあると思う。「オン」と「オフ」の切り替えををすごく上手にするからこそ、練習ではそこそこの力でやって、試合になれば本気を出せば良い、と考えてしまう選手が多いのだ。特に、身体能力の高い選手や抜群のセンスやテクニックを持っている選手に、そういう傾向が強い。

試合の時に一気にスイッチを「オン」にするのは正しい。

でも、それは試合以外の場面で全力を尽くさなでもよい、ということではないのだ。

「オン」の状態を大切にするあまりに、試合以外で努力をしない言い訳として「オフ」の存在を持ち出しているのだ。これまでにも「こいつはすごいポテンシャルを持っているから、普段から努力をすればすごい選手になれそうなのに」と感じるような選手を何人も見てきた。

その点でいえば、日本人は「オン」と「オフ」の切り替えはドイツ人ほど上手くはないかも知れないけれど、常に、コツコツと努力をできるという良さもあると思うのだ。

だから、日本人としてドイツで戦う僕は、「オン」と「オフ」の切り替えについての両方の人たちの特性を知った上で、その良いとこを取り入れて、成長したい。そう考えて、毎日を過ごしている。

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