まったく迷惑な話だ。

まったく迷惑な話だ。

大学漫研の先輩が急逝した。
何かにつけてマウント取りたがる人で、一年生のときの飲み会で粘着するような口調で「わしゃのぅ、ええかげんなヤツは好かんのじゃ。中途半端なことやるヤツはこうじゃ」と言って目の前でお猪口を握り割った。
もちろんわしが彼に何か言ったりやったりしたわけではない。何の脈絡もなく、だ。
「何でこいつオレば威嚇しとっちゃろ?」(←この頃は福岡弁)
と呆れたものだ。一番嫌いなタイプだ。

卒業して漫画家になった後もマウント取ろうとしてきた。
それまでは「はぁ」「そうですねぇ」とか流してたけど、どうしても許せんことがあった。

怒りの意思を表明したところ電話がかかって来た。
てっきり釈明なり謝罪なりあるものだと思ったら、何年も前のことを持ち出して
「わしゃあのときのことを許しとらんけぇの!」と逆に謝罪を要求して来た。
意地でもマウントを取らないと気がすまんのだろう。
「あのとき貸したものを返せ。あれはお前にやったんじゃないけぇの。まさか無くしとりゃせんじゃろうの?」
と(絶対もう持ってないと思いこんだ上で)言って来たので、
「わかりました。送り返します。長い間ありがとうございました。」
と送り返してやった。

もうこいつとは二度と会いたくないと思った。

が、よりにもよって後輩の晴れの舞台で予期せず顔を合わせることになった。

露骨に無表情になったわしに、先輩は何事もなかったかのように普通に話しかけてくる。
わしは無表情のまま「はぁ」「そうですねー」と空返事を返す。

それから10年くらい経ったろうか?
昨年マツダスタジアムの野球観戦で一緒になった。カープは負けるし。

その後の飲み会でわしは面と向かって当時の怒りの気持ちをぶつけた。
先輩は覚えてるのか覚えてないのか
「そんなこともあったかのぅ。」とはぐらかした。
謝罪の言葉はやっぱりなかった気がするが、
言いたいことは言ったからまぁいいか…
と、気が和らいだ。

そんな折にこの訃報である。
訳あってこの2週間、東京から実家のある広島県福山市まで車で帰省していた。
仕事もたまってこれ以上の滞在は無理!
ということでまた車で帰京した。
休憩入れつつ12時間かけて東京に戻ったのが昨日の午前3時過ぎ。
訃報を聞いたのは爆睡から目覚めたお昼頃である。何てタイミングだ!

通夜は翌日。告別式は翌々日だという。
斎場は広島県の真ん中辺り。
微妙に日帰りが難しい場所だ。

まったく迷惑な話だ。

そして今日わしはまた福山市の実家に戻ってきた。明日の告別式に参列するためだ。
疲れてるけど、仕事もたまってるけど、意地でも参列してやるのだ。
「おまえわしの葬式に来んかったじゃろ」
とあの世でマウント取られるなんて真っ平御免だ。


明日もひと言文句を言ってやろうと思ったけど、ここに書いてスッキリしたのもあるし、去年会って直接思いの丈をぶつける機会があったのは本当によかった。
思い残すことはない。ご冥福の言葉だけ言いに行こう。

【まとめ】
(1)若い頃腹が立ったことなんて大したことじゃないね。
(2)生きとる間に思いの丈を言えてよかったわ。
(3)みんな長生きしてくれーや。
(4)新幹線速ぇえ。

そうだ。漫研時代「コロコロに戸田が好きそうな漫画が載っとるで」と、
Moo.念平さんの「おてんば転校生」を教えてくれたことだけはお礼を言っておこう。

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