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クィア・スタディーズとは?

 近年LGBTQ+と呼ばれるセクシャルマイノリティが社会的に注目され、クィア・スタディーズという言葉をよく見聞きするようになりました。Genesisでは、「ジェンダー・セクシャリティに関わらず、誰もが価値を認められる社会」をVisionに活動しています。

今までGenesisのツイートなどからは、あまりLGBTQ+への言及がなされてきませんでしたが、メンバーで東京レインボーパレードに行くなど、少しずつLGBTQ+に対する行動も始めてきています。今回は簡単にクィアスタディーズについてまとめてみました!

  クィア・スタディーズとは、性の多様性を扱うための比較的新しい学問領域のことです。しかし、この学問が生まれた理由や根底にはどのような発想があるのかなどをを詳しく知っている人は数少ないのではないでしょうか。

 そこで今回は森山至貴著『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』を参考にしながら「クィア・スタディーズ」とはどのような学問なのかについて述べていきます。


クィア・スタディーズの成立

まず簡単にLGBTQ+についての説明をしておきます。
L:レズビアン
G:ゲイ
B:バイセクシャル
T:トランスジェンダー
Q:クィア/クエスチョニング
+:様々なセクシャリティがあることを示す

この表記以外にも LGBTQs といったのもありますが、どちらもすべての性を優しく包括している表現です。それぞれの単語が分からない場合は以下のサイトをクリックしてください。

http://jobrainbow.net/what-is-lgbt

それでは本題に入ります。


そもそもクィア・スタディーズ、または学問に限定せずクィアという視座が必要となった最も大きな原因はAIDSの問題です。この問題がセクシャルマイノリティについての研究や社会運動を大きく変化させることになりました。AIDSが世の中に知れ渡ったとき、AIDSはゲイ同士の性行為によって移る病気とされ、アメリカ社会においてゲイは迫害を受けることになります。しかしAIDSはゲイだけでなく、セックスワーカーなどのの社会的弱者にも影響を及ぼしたことでマイノリティに結束を促しました。その一方で自分たちがどれだけゲイであることを誇ってもそれだけではどうしようもないことがあることを浮き彫りにしました。
1960年代後半以降にできたポスト構造主義からも影響を受けています。構造主義とは、その言葉の通り「post(~の後に)構造主義」のことです。ではそもそもの構造主義の説明を引用します。

ポスト構造主義の言う「構造」とは、社会を構成する仕組みのようなものです。
文化人類学者レヴィ=ストロースの言う「構造」とは、部族間の婚姻システムといった文化的な「構造」を指します。
フーコーの場合、それは言説の歴史的な構築のことです。
アルチュセールのマルクス主義の場合は、資本制のシステムでしょう。
ラカンの精神分析の場合は、人間の心理の構造です。
(九州大学付属図書館 20190831
https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=774904&p=5559772)

ではポスト構造主義とはの説明をします。ポスト構造主義の代表的な思想家は何人もいますが、その中でもジャック・デリタの思想である「脱構築」が有名であるため、その説明を引用したいと思います。

 デリダの思想の代名詞となっているのが「脱構築」です。
それは、構造主義の言う「構造」を内部から破壊するための方法のことです。

例えば、男性/女性という二項対立があり、男性のほうが社会の中で強い位置にあったとします。
この二項対立を脱構築するためには、「男性」という概念そのものが「女性」なしでは、成り立たないことを指摘すればよいのです。
あるシステムにおいて、排除されたり、抑圧されたりするものがあったとしても、その抑圧されるものなくしては、システムが成り立たないことを示すことで、システムを内部から自壊に追い込むのです。
つまり、あるシステムの矛盾を突くことで、システムを破壊するのですが、それだけでは脱構築にはなりません。
脱構築とは、システムによって否定されたものを「肯定」する思想なのです。
社会の中で抑圧されたものを肯定することで、あり得るかもしれない「もう一つの可能性」を提示すること。
(九州大学附属図書館20190831
https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=774904&p=5559772)

このAIDSの問題とポスト構造主義の発想に共通する3つのポイントがクィア・スタディーズの基本的視座に受け継がれていきます。


クィア・スタディーズ創成の背景

1つ目のポイントは「多様性と連帯の接続」です。

AIDSの問題は、ゲイだけでなくセックスワーカーなどの多様な社会的弱者の問題ともなり、マイノリティが協力する必要性を浮き彫りにしました。

また、ポスト構造主義は、多様な要素は1つの「構造」に組み込まれていることを示しました。


2つ目のポイントは「差別への抵抗の契機の探求」です。
AIDSの問題は、繰り返される根強いゲイや女性への差別の存在を明らかにしました。

またポスト構造主義は既存の構造=「仕組み」の中にこそ「仕組み」を壊すきっかけがあると考察しました。


3つ目のポイントは「アイデンティティの両義性への着目」です。

確かに少数者トしてのアイデンティティの確立は、レズビアンやゲイ、トランスジェンダーの社会運動を下支えする意義を持っています。しかし、AIDSの問題はアイデンティティに基づく社会運動の限界をゲイコミュニティに突き付けました。つまり、どれだけゲイとしての自覚や誇りを持っていても、そのこと自体がHIVの感染やエイズの発症を予防することはできないということです。

また、ポスト構造主義は、西洋人文学の基礎となる「主体」概念の暴力性を暴露しました。
「主体」とは、自分のことが(他人からの客観的な眼を通して)何者であるかを理解している。それは道徳的であり、また合理的で、自分で自分をコントロールできることです。つまり自分が何者であるかを他人の目を受けて決定するということです。ここには「見る側」と「見られる側」が発生しています。そこに自分の意志に関係なく他人によって自分がどのような人間であるかを決められてしまうという暴力性があるのです。またこの「主体」概念は男性優位が組み込まれており、フェミニズム運動でも問題として取り上げられました。

これらの問題意識を引き受ける形で、1990年代にクィア・スタディーズは生まれました。


クィア・スタディーズの視座


それではクィア・スタディーズとはどのような学問かという問いの答えを述べていきます。

1つ目は「差異に基づく連帯の志向」です。
クィア・スタディーズは、多様なセクシャルマイノリティを、それらの差異を隠蔽することなく関連づけて考察することを目指します。つまり、ゲイに関する研究や記述をもってセクシャルマイノリティ一般を代表させてしまうようなゲイ中心主義は批判の対象となり、そのような性の在り方に優劣を決めるようなことがセクシャルマイノリティの研究に入り込んではなりません。

2つ目は「否定的な価値づけの積極的な引き受けによる価値転倒」です。
もともと「クィア」という言葉は、男性同性愛者やトランスジェンダー女性に対する暴力的な侮辱語として英語圏で使われていた言葉でした。しかし、あえて否定的なニュアンスをもって、そもそもイメージを抑圧者から決められているのはおかしいということを示すために当事者を指す言葉として「クィア」が使われるようになったのです。
つまり、クィア・スタディーズは他から与えられた否定的なものが、そう決められたからこそ肯定的なものとして変えることができる契機を注意深く探る学問なのです。

3つ目は「アイデンティティの両義性や流動性に対する着目」です。
これまでのセクシャルマイノリティについての学問は、マイノリティはそれぞ一貫したアイデンティティを持つべきであり、それによって政治運動が可能になると考えられていました。


しかし、アイデンティティは一貫しているべきという発想の弊害やそうあるべきと押し付けられることによる功罪を考えるベきだと考えられるようになりました。

最後に森山がクィア・スタディーズについて述べた部分を引用します。

 何をもってクィア・スタディーズかを明確に定めることはできませんが、「ほとんどの場合セクシャルマイノリティを、あるいは少なくとも性に関する何らかの現象を、差異に基づく連帯・否定的な価値の転倒・アイデンティティへの疑義といった視座に基づいて分析・考察する学問」がクィア・スタディーズの最大公約数的な説明となります。

クィア・スタディーズとという言葉は聞いたことがあるけど、具体的にどのような学問なのか分かっていなかったという人の役に立てたのなら幸いです。

参考文献:森山至貴『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』(筑摩書房 2017年)

Job rainbow(2019.8.25 http://jobrainbow.net/what-is-lgbt)
文責:古城晴菜