第2回内科専門医/第214問(血液)/2022

第2回内科専門医試験
2022年度予想

67歳の女性。咳嗽を主訴に来院した。1か月前から、夕方から夜にかけて咳嗽が出現し、近医で鎮咳薬の投与を受けたが改善しない。喫煙20本/日を40年間。意識は清明。身長156cm、体重45kg。体温36.5℃。脈拍64/分、整。血圧128/98mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球348万、白血球5,300、血小板38万。血清生化学所見:AST 31U/L、ALT 24U/L。CRP 0.8mg/dL。入院後の精査で扁平上皮癌と診断されたが、胸郭外病変はない。全身状態良好であり、シスプラチン含有レジメンでの化学療法を本日より開始した。
なお、このレジメンの発熱性好中球減少症発症率(FN発症率)は、22 %である。

(問題1)
がん薬物療法における制吐薬として、現時点(2022年時点)で承認されていない薬剤を1つ選べ。
a. プロクロルペラジン
b. オランザピン
c. デキサメタゾン
d. アプレピタント(NK1 受容体拮抗薬)
e. グラニセトロン(5-HT3 受容体拮抗薬)

(問題2)
本日化学療法開始しday1 投与行った。今後の顆粒球コロニー形成刺激因子製剤(G-CSF)の投与スケジュールと製剤種類について、正しいものを1つ選べ。
a. 持続型G-CSF 製剤をday1 に1 回投与する。
b. 持続型G-CSF 製剤をday2 から連日投与する。
c. 持続型G-CSF 製剤をday3 に 1 回投与する。
d. 従来の連日投与型G-CSF 製剤をday2 から連日投与する。
e. 投与は行う必要なく、血液検査の推移をみながら経過観察する。

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解答

(問題1)a
(問題2)c
発熱性好中球減少症( febrile neutropenia ; FN )

FNの試験でのポイント

✔︎ まずはFN の定義をおさえる。
✔︎ 予防的投与、治療的投与の定義をおさえる。
✔︎ FN発症者への治療投与は一般的に推奨されておらず、予防投与を検討する。
✔︎ FN発症率が20%以上のレジメンを使用する場合にG-CSF製剤の一次予防的投与が推奨されていることを覚える。
✔︎ 持続型G-CSF製剤の投与方法を覚える。抗がん剤投与同日には投与できない

FNの定義

「好中球数が 500 /μL未満、あるいは 1000/μL未満で 48時間以内に 500/μL未満に減少すると予測される状態で、腋窩温 37.5℃以上(または口腔内温 38℃以上)の発熱を生じた場合」とする。

問題1の解説

がん薬物療法における基本的な制吐薬として、NK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンの3 剤があり、これらを催吐性リスクによって使い分けていく。プロクロルペラジンやクロルプロマジンはフェノチアジン系抗精神病薬であるが、本邦では承認されておらず、誤り。

問題 2 の解説

本邦の医療現場では、FN発症予防というG-CSFの本来の目的での使用ではなく、好中球数が下がったとき、あるいは、FNが生じたときに、好中球数を増加させるための「治療投与」が広く行われてきた歴史がある。「予防投与」は浸透していなかった。ガイドラインではあくまで、G-CSFの使用法として確立しているのは、治療投与ではなく「一次予防投与」である。
G-CSFの種類においても、従来のG-CSF製剤(フィルグラスチム、ナルトグラスチム、レノグラスチム) は多くのがん種でFNの予防投与が認められていなかった。また、血中半減期が短いため、好中球が回復するまでに連日の投与が必要であり、外来通院するうえで障壁となっていた。血中半減期の長い持続型G-CSFが登場したことで、入院期間の短縮や、外来受診回数の減少、治癒を目指して治療強度を上げたレジメンの投与など多くのベネフィットが期待されるようになった。

本問は、すでに化学療法day 1 投与後ではあるが、FN発症リスク>20%であることから、持続型G-CSFによる一次予防投与を行う。G-CSF製剤は、抗がん剤投与後は同日に投与することはできず、投与後1~3日以内に投与する。

参考文献

G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂第2版 日本癌治療学会

発熱性好中球減少症(FN) 診療ガイドライン(改訂第2版)

ジーラスタ添付文書

G―CSF 製剤の歴史〔Drug Delivery System 32―2, 2017〕

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