七夕物語

           原作:古い中国のお話  脚色・脚本:森下進
はるかはるか昔のこと。
空の彼方にぽっかりと浮かぶ天空の国がありました。
時を司る天空の国の王は宇宙神(そらがみ)
宇宙神には、それはそれは美しいひとり娘がいました。
王女の名前は織姫と言いました。
宇宙神は遥か昔に妻を亡くしてしまいした。
妻の面影を宿す、美しく賢い織姫を心から可愛がっていました。

そんな織姫にはとても重要な任務がありました。
織姫のおる特別な布は天空の民には欠かせないものです。
この布で作った着物を着ないと時を司る民は時空を越えられないからです。
織姫がいないと時の流れも乱れてしまうのです。

この国のものはみな働き者です。
そのなかでも一番の働き者が牛飼いの彦星と言いました。彼は天空のすべての食事を賄うほど大事な仕事をしていました。時折、仕事の合間に天空城の窓に織姫を見ては仕事に精を出すのでした。

彦星は美しく賢い織姫を心から尊敬していました。
実は織姫も忙しい仕事の合間に窓から見える彦星の額に汗して働く姿を密かに好きになっていました。

ある日のこと織り上がった反物を持って宝物殿に出かけます。馬車に乗り城を出る織姫。宝物殿へと向かう長い道で蛇が飛び出し、馬は驚いて暴走します。恐ろしいほどのスピードで狭い道を駆け抜けていきます。ついに馬車の車輪が外れて崖下の泥濘の中に転落してしまいました。底なしの泥沼に落ちた馬車はずぶずぶと沈んでゆきます。

そこに偶然通りかかったのが牛飼いの彦星でした。
彦星は綱を取り出し勇敢に飛び降りて、馬車に結びつけ、牛に引かせました。力強い彦星の牛はぐいぐい、ぐいぐいと馬車を引き上げます。
馬車の扉を開けて彦星は織姫の手をとりました。
その時でした!繋いだ手と手の間に真っ白い稲妻が走りました。やけどしない熱さ心のなかの血が沸騰します。神さまが定めた出会い。

死んでも離れたくないほどのふたりは結婚を決意しました。そしてその気持ちは天空の国の王宇宙神(そらがみ)の心さえ動かしたのです。
娘の命の恩人であり、国一番の働き者の彦星との結婚を許したのです。

なんという奇跡!働き者の二人の結婚に天空の民も大歓迎でした。
そして幸せな日々が続くと思われたのですが・・・・
愛しすぎた二人は来る日も来る日も天の川の畔でデートをしています。
1分1秒も離れたくないふたりは働かなくなってしまったのです。
織姫の織る反物がないと時を司る天空の民は大事な仕事が出来ません。
彦星の作る食料が無いと民はみな飢え死にしてしまいます。
大事な民を困らせるふたりに宇宙神(そらがみ)はついに怒りました。
稲妻が走り落雷を起こし爆風で彦星を天の川の彼方に吹き飛ばしてしまいました。


そして離れ離れになった織姫は寂しさのあまり、来る日も来る日も泣き続けました。天の川の水が溢れるほどに泣き続けました。
可哀想な織姫をみて宇宙神(そらがみ)は織姫にこう告げました。
年に一度7月7日に逢うことを許す
それからの二人は1年に一度の逢瀬を楽しみに一生懸命働くのでした。

でも雨の多い7月7日は天の川が増水して渡ることが出来ません。
川の両岸で泣いている織姫と彦星を遠くで見ていて可哀想に思った鵲(かささぎ)の女王が仲間を沢山呼んで鵲橋(かささぎばし)を作ってあげたのです。鵲橋を走って渡りやっと二人は逢うことが出来ました。胸が苦しい程に言葉に出来ない程に嬉しくて震えました。鵲の女王にお礼を言いました、ニッコリ微笑んだ鵲の女王は思い出します。まだ人間だった頃、愛する宇宙神との間に女の子を授かった記憶を。そして織姫の成長を目を細めてみつめて来ました。そうです!鵲の女王は遥か昔に亡くなった母親の生まれ変わりだったのです。

それからというもの雨が降った七夕の日には、とおいとおい雲の向こうに幸せそうな織姫と彦星の笑顔があるのです。

時を司る天空の国、それは空の彼方に今もぽっかりと浮かんでいます。
おしまい

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