音の絵本の次回作

今回作っている「足止めの狛犬」が完成する前に次回作の構想が広がっている
音の絵本は子ども向きだけではありません。大人が楽しめるサウンドノベルです。深い愛情のお話であったりスリル溢れるお話だったりします。今度作ろうかな?と思っているのは、僕の生まれ故郷「長崎」の悲恋を描いてみようと思っています。それはこんなお話なんです。
長崎は坂道の多い町です。


「ピントコ坂」
長崎の小島町から枇杷で有名な茂木町に抜ける急な坂があります。
この坂を子供達が上り下りする時に「ピントコどっこいしょ・ピントコどっこいしょ」と掛け声をかけるのです。
この坂は「ピントコ坂」と言われています。

幼い頃長崎で育った僕には言葉は知っていてもその意味すら知りませんでした。
さてどうして「ピントコ坂」と呼ばれるようなったのでしょうか?

それは昔々のおはなしです。
時は寛永の頃 中国の杭州に「何旻徳(カ・ピントク)」という男が住んでいました。
男にはたいそう美しい「柳氏」と言う許婚がいました。
ところが、ある日のこと、美しい「柳氏」をみそめた時の太守が部下に命令して「柳氏」を奪われてしまいます。
「可 旻徳」は泣いて暮らしましたが、中国に居たのでは「柳氏」を忘れられないと貿易商をしている叔父に頼んで長崎に渡ることになりました。

そんなお正月のある日のこと長崎にある花街「丸山」の石畳を歩き「越後屋」に向かっている時でした。
ふと見た遊郭の格子の中に座っている女性を見て「あ!!」と驚きました。
あの・・恋焦がれた「柳氏」に瓜二つではありませんか。
その場から動けなくなるほどの衝撃を受けた「旻徳」さんは、その遊女と毎日のように会うことになるのです。
その遊女の名前は「阿登倭(おとわ)」。
たいそう美しい上に気立ても優しく、いつしか二人は永久の契りを結ぶことになります。

ところが貿易の盛んな時代の長崎では大変な事件が起きていました。
当時小判を銅座で作っていたのですが市内には大量の贋金が出回っていたのです。
それに心無いものの噂が噂を呼び唐人が贋金を作っているとなってしまったのです。
あるものは捕らえられ厳重に処分されたりしました。

そうして遂に「旻徳」も捕らえられる事と成りました、そして弁明の時間も与えられず、処刑されてしまいました。
知らせを受けた「阿登倭(おとわ)」は心から悲しみ「旻徳」の遺体を引き取りに奉行所に出向きました。
「旻徳」の生まれ故郷である中国が見えそうな高台まで長い坂道を背負って一生懸命登りました。
ピントクよいしょ、ピントクどっこいしょ、ピントクよいしょ、人目もはばからず泣きながら登ったそうです。
そして、中国が見えるほどの丘の上、愛する「旻徳」の傍で「阿登倭(おとわ)」も自害してしまいました。
現世では叶わない愛を永遠の絆に変えた長崎の悲しい物語です。

その後、偽の噂を流し「旻徳」を陥れたのは「阿登倭(おとわ)」に恋焦がれる下級役人であったのは後日わかったそうです。

今も長崎ピントコ坂の頂上には愛し合った二人を弔う石碑がひっそりと佇んでいます。

子供達が楽しそうに声をあげながら坂道を登っています。
「ピントコどっこいしょ・ピントコどっこいしょ・ピントコどっこいしょ」

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