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一本のロウソク

これは本当にあったお話です。
5人の一見幸せそうな家族がいました。
旦那さんは会社に勤めていました。仕事の評価も高く安定していました。
奥様は何不自由なくそだったお嬢様でした。
ふたりは旅先で出会い遠距離恋愛を経て結ばれました。
子どもは男の子3人

仕事に燃えるご主人は周りからの声もあり独立することになりました。
業績も順調、たまの休日にもお付き合いのゴルフに出かけていました。
奥様も近所の方々とホテルのレストランで食事をしたりコンサートに出かけたりしていました。
子どもたちもゲームやテレビを与えられ何不自由なく育ってゆきました。
幸せな日々は一生続くものと思ってました。

しかしその家族には、段々と会話が無くなってゆきました。
子どもたちは子ども部屋に引きこもりぎみになり
旦那さんは仕事にゴルフに付き合いにと、帰るのは深夜だったり朝帰りだったりしました。ついには家族全員が一緒に食事もしなくなってしまいました。

そんなある日のこと珍しく旦那さんが家族に声をかけ全員を集めました。
家族は「なんなのよ急に」などと嫌々ながらも集まったのです。

旦那さんは家族の顔を愛おしげに見回してこう言いました。
「お父さんの会社が倒産しました。もうココには住むことも出来ません。」
家族には何が起こったのかすら分からなくなりました。
そして数日後には引越しをすることになりました。
理想の家を建てるために家族との時間を削って夢を捨てて頑張りました。
それが一瞬で霧のように消えてしまいました。

家族はボロボロのIKのアパートに住むことになりました。家財道具も売ったので布団も少なく家族で固まって寝ていました。
その年は特に寒くかったのですが灯油代にも事欠く有様で、家族の体温だけが唯一の暖房でした。


旦那さんは仕事を見つけてきました大手の軽自動車の工場でした。流れてくるコンベアーにドアの内張りを貼る仕事でした。慣れない仕事に社長だった人間が若い工員に怒鳴られる日々にちょっと疲れていました。でも家族の為にと土曜日と日曜日には古紙の廃品回収の仕事もしていました。
この仕事はどんなに頑張っても、車両費や燃料費を引かれると一日1500円ぐらいにしかなりません。子どもを乗せて回収に回っていると、時折お菓子を頂いたりして人々の優しさに涙したこともありました。

でも、ある日から子どもは乗りたがらなくなりました。それは学校で苛められたようでした、最初喜んで乗っていた赤い軽トラックがごみ拾いの車だとみんなから苛められたそうです。その日から無理には連れて行きませんでした。


そんな毎日で食費にも事欠くものですから、子どものおもちゃも大きなテレビも奥様のアクセサリーやバッグも遂には結婚指輪すら売ってしまいました。
ちいさなちいさな部屋の、まあるいテーブルに全員が集まって粗末なご飯を食べます。以前なら捨てていた大根の葉っぱすら立派なおかずになりました。
そして、みんなが「学校で苛められたこと」や「奥様がパートのレジで怒られたこと」等を話しました。そして「どうしたらいいんだろう」と家族全員が話すようになりました。

それは、ある寒い日でした。旦那さんは古紙の廃品回収に行ってきました。そして、いつものように1500円もらってケーキ屋さんに寄りました。
ちいさなちいさなケーキを一個だけ買いました。そうです今日は子どもの誕生日なんです。奥様はスーパーで唐揚げを買ってきました。
そして3人の子どもの誕生日パーティーが盛大に始まります。

倒産してからお祝いと言うものをしたことがなかったものですから、まとめてのお祝いに全員が大喜びでした。一本のロウソクを立てて火をつけます。まずは長男が消そうとすると。。。次男が横から消しました。もうそれだけで大騒ぎです。奥様から待ってなさいと言われてワクワクした顔で待つ次男。三男は何故か訳の分からない言葉を喋りながら、ぐるぐると走り回っています。
長男が「フッ」と消します。
「ありがとうね、お兄ちゃん苦労かけたね。おめでとう」
ワクワクして待ってた次男が「フッ」と消します。
「元気でいてね。弟を可愛がってね。おめでとう」
走り回って息が切れた三男がなかなか消せないでやっと「ブゥ~」と消しました。
「おおきくなったね。おめでとう」

すると奥様がポツリと言いました。
「あなた、天使のような子どもたちを授かって良かったですね」
そして旦那さんが言いました。
「みんなほんとうにごめん。テレビもゲームもみんな無くなってしまった。でも家族だけは取られなくて良かった」

以前であったら得られなかった幸福感で心が満たされ一杯になりました。
まるで美味しいご飯をおなか一杯食べた日のようです。

おなかはご飯を入れる袋ですが、心は愛を入れる袋です。
心にはひだが沢山あって、丸いものや四角いものでは埋められないのです。
愛と言う名前の清らかな水だけが心を満たすことが出来るんです。

古くても清潔な服を着られることはお母さんに感謝しよう
粗末でもご飯を食べられることはお父さんに感謝しよう
命を粗末にする、自殺をしないで生きていることを子どもたちに感謝しよう

全てをなくして全てを得た家族の物語でした。





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