冬の風鈴
原作:玄庵 写真:まちださん ※この写真を見てふと浮かんだお話
ぼくはおばあちゃんが大好きだった
夏休みになると田舎のおばあちゃんに毎年会いに行った。
いつも顔のしわが目なのか?しわなのか?判らないくらい笑って出迎えてくれた。
僕はママにもパパにも言えないことをおばあちゃんにだけは話せた。
おばあちゃんは「あぁ、そうかい、そうかい、お前は偉いねぇ」と言って聞いてくれた。
別段良いことをしていなくとも、何故か最後には「お前は偉いねぇ」と言って笑ってくれた。
おじいちゃんを早くに無くしてからはママを一生懸命にひとりで育ててくれたらしい。
おばあちゃんの手はしわしわでごつごつで少し曲がっていた。
でも僕の肩をぎゅぅって抱きしめる手は暖かくて、力強くて、触られていると、とぉっても安心した。
おばあちゃんと手を繋いで縁日に行った。おばあちゃんが「綿菓子食べるかい?」と聞いてくれた時、僕は何故かガラスの風鈴が欲しくなった。
「風鈴が欲しい!」
おばあちゃんはニッコリ笑って「そうかい、そうかい、お前は偉いねぇ」と買ってくれた。
僕は嬉しくって風鈴を右手に持って、ふぅぅぅぅぅっと息を吹きかけ「チリーン」と鳴らした。
それからは、おばあちゃんの家では、夕方の風が吹くと「チリーン」と涼やかな音をたてて毎日歌ってくれた。
夏休みは僕にとって天国のようなおばあちゃんとの時間だった。
そして、その年の冬休み急におばあちゃんの家に行くことになった。
満面の笑顔のおばあちゃんは居なかった。
そして、冬の風鈴がチリーンとなって「お前は偉いねぇ」と聞こえた。
僕は風鈴のほうに振り向いた。
ママが「おばあちゃんは煙になって遠いお空に帰っていったのよ」と言った。
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