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逆転検事1&2のドット絵問題について

 およそ一か月前、『逆転検事』『逆転検事2』のリマスター版である『逆転検事1&2 御剣セレクション』が発表された。9月6日にリリースを控えており、「逆転」シリーズのX(旧Twitter)公式アカウントでもプロモーションに力を入れている。
 そんな中、公式アカウントの一つの投稿について、ある観点から問題となっている。それが、こちらの投稿だ。

 原作となる『逆転検事』『逆転検事2』は、それぞれ2009年、2011年にNintendo DSで発売されたゲームだ。そのため、今回のリマスター版では現代ハードの解像度に合わせ、原作ではドット絵で描かれていたフィールド上のキャラクターグラフィックを原作からデザイナーを担当している岩元辰郎氏を初めとする作画チームイチから描きなおしている。
 氏によって描かれた新規グラフィックは、公式サイトによると「オリジナル版のドット絵に切り替えが可能」だとしている。原作のドット絵が好きだったプレイヤーは、当時と変わらないグラフィックで遊べるというわけだ。この投稿は、その切り替え機能のプロモーションなのである。
 しかしながら、その“オリジナル版のドット絵”だが、「なんか、おかしくない?」という疑問の声が上げられている。そして、疑問を持ったのは主に、ドット絵に詳しく、思い入れのあるゲームユーザーが中心のようだ。
 その疑問は、主にドット絵の“描き方”について投げられている。まず、ドット絵と呼ばれている表現方法のグラフィックでは、同じ大きさの正方形、つまりドット(ピクセル)が均一に並べられて表現されるが基本だ。そのことを念頭に置いて上で、件の投稿で紹介されている“ドット絵”を見てみよう。

スクショなので解像度がアレなのはお許しください

 ドット絵に親しみがある人なら、少し違和感を感じたのではないか。そう、このグラフィックは、ドットそれぞれの大きさが不揃いなのだ。具体的には、グラフィックの輪郭部分には小さいドットが使われており、そうでない部分にはそれよりも大きいドットが使われている。髪の毛の部分などが特に分かりやすいだろうか。一応、すべて正方形によって構成されてはいるため、ドット絵の範疇に入らなくもないが、普通こういう描き方はなされないため、ドット絵にこだわりを持っていれば違和感を抱くだろう。また、特にかんざし部分が分かりやすいが、縁取りとして黒いアウトラインを細く追加する処理がなされており、こうした処理も本来的なドット絵的ではない(だが、このアウトラインは実際のトレーラーでは確認できないため、投稿に際しての都合によるものかもしれない)。
 こうした表現は、このグラフィックに限らず「クラシック」モードのキャラクターすべてで使われている。そのため、このドット絵のみならず、今回のリマスター全体、ひいては原作である「逆転検事」2作品の表現方法さえも疑問視されてしまっているのだ。

 さて、なぜこうした問題が起こってしまったのだろうか。それを追究するには、そもそも「検事」シリーズがどのように展開してきたのか、その歴史をたどる必要がある。
 まず、先述の通り「逆転検事」2作品は、Nintendo DSで発売されたゲームだ。そして、当リマスターの「クラシック」版のグラフィックは、この当時に描かれたものが大元である。ならば、このDS版の時から、こうした「似非ドット絵」的表現が採用されていたのか。そうではないのだ。こちらの画像を見ていただきたい。

DS版(原作)

 この画像は、原作『逆転検事2』のゲーム画面をキャプチャしたものだ。背景があるのでやや分かりづらいかもしれないが、先ほどのような“不揃いなドット”は無く、輪郭も含めひとつひとつのドットが均一に描写されているのが分かるだろう。DSの解像度は256×192と、お世辞にも高いとは言えるものでなく、そうした制限の中で良いグラフィックを表現するために、ドット絵という方法がまだ現役だったハードでもある。先ほどの投稿で「クラシック」のグラフィックを「ドット職人の手で作りこまれた~」としていることに対する批判もあったが、原作においてはまさに制限の中で良く魅せることに力を注いだ、職人芸だったわけだ。もちろん、初代『逆転検事』においても同様である。
 そして、先ほどの「クラシック」版のグラフィックは、この原作で使われたドット絵の、輪郭だけをより小さいドットで補正したものとなっている。   分かりやすいように、原作のグラフィックを再現したものを用意し、先ほどのグラフィックと比較した画像を掲載する。輪郭が細かくなっているのが分かるだろう。

※再現は目コピなのでズレている可能性あり!

 このような補正が、なぜリマスター版でなされているのだろうか。そのナゾを解く“証拠品”は、スマートフォンで遊べる「逆転検事」、つまり『逆転検事』および『逆転検事2』のスマホアプリ版にある。
 そう、「検事」シリーズの移植・リマスターは、今回の『御剣セレクション』が初ではない。2017年には、両作品がiOS/Androidでプレイできるようになっており、しかもキャラクターグラフィックが高解像度されている。

DS版(原作)
スマホアプリ版

 その”高解像度化”についてだが、原作のグラフィックをこのように高解像度化できるのは、原画の存在が大きい。GBA~DS時代の「逆転」シリーズはキャラクターの立ち絵を1からドットで打っていくのではなく、デザイナーが描いた原画をゲーム内に落とし込む方法でグラフィックを制作しているようで、基本的にすべての立ち絵に元となる原画が存在する。だからこそ、その原画を流量することで移植のときに高解像度化できるのだ。しかし「検事」シリーズには例外、つまり原画が無いグラフィックもある。それが件のフィールドグラフィックだ。そのため、バストアップの立ち絵と違って、原画を流用をすることができない。そのことを念頭に入れた上で、スマホアプリ版、そのフィールド画面を見てみよう。

スマホアプリ版

 やや分かりにくいが、よく見ると問題となっている投稿のグラフィックと同様に、スマホアプリ版でも輪郭線が不揃いなドットで表現されているのが分かる。このことから、「似非ドット絵」的表現は原作でも『御剣セレクション』でもなくスマホアプリ版から始まったことが分かる。
 なぜこうした表現を採用したのだろうか。ここから先は推測になるが、おそらくこういうことだ。アプリへの移植にあたって、フィールドの背景には元となる原画があり、それをそのままゲーム上に実装すればよかった(それでも手間はかかったと思うけど)。だが、高解像度化された背景に、キャラクターのドット絵をそのまま重ねてしまうと、あまりにもキャラたちが浮いてしまう。だから、せめてものの策として、キャラクターの輪郭を細かくして背景に多少なりとも馴染ませたのだ。手動でグラフィッカーが馴染ませた可能性もあるが、作業量を考えるとおそらくはドット絵を再スケーリングするアルゴリズムによって機械的に補正したのではなかろうか。

 まだ発売前であり、すべてが確認できるわけでは無いためなんとも言えないが、おそらく『御剣セレクション』における「クラシック版」のグラフィックはスマホアプリ版において補正された“ドット絵”グラフィックとほぼ同一である。おそらくは流用だろう。その理由は不明だが、スマホアプリ版をベースに制作したからなのかもしれないし、カプコン内で原作のデータがすぐに持ってこれなかったのかもしれないし、「いくらクラシックとは言ってもDSのやつじゃクラシックすぎるだろう」という判断だったのかもしれない。いずれにしても、『逆転検事』『逆転検事2』共に、原作で描かれたドット絵はきちんとドット絵の美学に沿って描かれたものだった。ドット表現にこだわりを持つ人間たちに、そのことさえ伝われば幸いである。

なんとなく感想など

 おわりにかえて、今回問題になった『御剣セレクション』のグラフィックについて感想を述べようと思う。そのため、ほとんどが主観的意見になるが、ご了承いただきたい。
 今回のリマスターのグラフィックについて、私はほとんど不満を感じていない。それどころか、「逆転」シリーズのリマスターとしてはデザイン面において過去一の出来だとも思う。その理由は、先述したグラフィックチームの描きおろしグラフィック、すなわち「モダン」版のキャラたちの出来がサイコーだからだ。バストアップの立ち絵と続けて表示されても違和感が無いように元ドットの表現と上手く折衷されていて、しかもかわいらしさが残っている。さらに膨大な量のモーションすべてが描き下ろしというすさまじい作業量であり、カプコンがこのシリーズにそこまでの労を払う価値があると認識していることが嬉しい。新しいUIもカッコいいです。
 それだけに、今回問題になった「クラシック」の表現は惜しいポイントだとも思う。わざわざ「クラシック」で遊ぶようなプレイヤーは、ドット絵にこだわりがある人が多いだろうし。宣伝方法もちょっと微妙。「ドット職人の手で作りこまれた」形そのままでは無いし、“オリジナル版”という表記は少し嘘が入ってるようにも思えるので。
 今回こういう形で話題になってしまったのは残念だが、「逆転検事」は1、2共に面白いアドベンチャーゲームだし、特に2はアドベンチャーゲーム全体で見ても有数の出来を誇るストーリーなので、グラフィックだけを判断理由に遊ばないのはもったいないくらいの作品だと思う。オススメです!みんなが買ってくれれば逆転裁判7が出るかもしれません!ぜひ!

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