「悲惨指数」から読み解く日本の実態経済と今後のIR戦略(前編)
唐突ですが読者の皆さんは「悲惨指数」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
悲惨指数(ミザリー・インデックス、Misery Index)とは、実態経済を表す指標の一つです。米国の経済学者アーサー・オークン氏が考案しました。失業率と消費者物価指数の上昇率を加算して算出されます。失業率と消費者物価指数の上昇率を加算して算出されます。一般的に悲惨指数が10%を超えると生活が圧迫されることで国民の不満が高まり、20%を超えると時の政権に影響を与えると言われています。(出所:野村證券)
悲惨指数=「消費者物価(CPI)上昇率」+「失業率」
で表されます。
悲惨指数という1つの指標をもとに、一般人の視点から思うところを書いてみようと思います。
悲惨指数の歴史的な推移を米国との比較を表したのが以下のグラフです。経済学者によると10%を越えてくると、国民が「悲惨だ」と感じるハイパーインフレの状態にあると評価できるとのこと。オレンジの米国では過去50年で何度かこの臨界点を突き抜けています。一方、青の日本がいかに安定して推移しているのかが一目瞭然です。
そして今度は世界の「悲惨指数スコアランキング」を見てみると、上位は南米などの国で占められていて、日本の姿は見当たりません。
次は2019年のデータで、2017年と2018年の「悲惨さの度合いが低い」国の順位の変動を比較したグラフです。日本は3位から変っていません。中国は2017年は10位でしたが、翌2018年には17位にまで下落しています。経済減速の兆候が見て取れると思います。
以下は2000年~2021年までの会社員の平均給与の推移です。
私見ですがこれらのデータを見ていると、日本の実態経済においては日本はそれほど悲惨な状況ではないように思えます。メディアでは連日のように「失われた30年」や円安脱却のことを取り上げています。では、実際の日本人の生活や気持ちはどんなものなんだろう、と考えてみました。私の印象は、2024年の日本の実態経済、日本の国民は、世界レベルでは悲惨さは最も低い度合いであるものの、強い自己肯定感や幸福感を感じているわけでもない、ということです。
ここで取り上げた統計を見ても、世界における日本の経済がいかに特殊な状況にあるかということが見て取れます。世界経済と日本経済の間には金利、為替、インフレ率、賃金などの様々なギャップがあります。そしてこのギャップの旨みを享受するために、世界のマネーは実際、日本市場へ流入しています。
さて、本題です。今後の資本市場やIR戦略を考える時、世界と日本を横一列に比較するのが適切かどうか、疑問を抱きます。例えばESGの指標にしても、欧州を中心とする環境団体や、国連などが定めた指標の達成を目標に設定している日本企業は多くあります。日本の上場企業は環境負荷の開示、賃金の値上げ、労働力不足などの課題への対処を迫られています。それらの欧州勢が決めた目標や指標を日本企業にそのまま当てはめて、本当に機能するのでしょうか。今一度考えるときに来ているかもしれません。この続きは後篇で書くことにしましょう。(大石)
参照:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-02-15/P46AIB6JTSE801