私の夢 貴方の夢

「あなたの夢はなんですか?」

「私の夢は――――」

―――――。

毎年恒例の名物実況というべきか、上半期最期のレースが行われる舞台で、聞き馴染みのあるセリフが今年も放たれる。

最近はある理由であまりこの場所には来ていなかったので、久しぶりに聞くいつもの言葉に若干の安堵と、これから始まる物事に対しての緊張が高まり、気持ちが高揚する。

普段通りならその言葉をしっかり聞き取れるはずなのだが、今回は焦っていたのか聞き逃す。しかし今回の私にはあまり関係のないことなので特に気にせずそのまま客席の後ろの方で座り込んだ。

空席だらけの客席が私の前に広がる。しばらくすれば殆どの席が埋まるようになるだろうが、ここまで空いているのは珍しいので少し眺める。26年前のあの日を少し思い出すが、あの日はこんな空席ではなかった。

そんなふうに思い出に浸っていると、大きなファンファーレが鳴り響く。人が少ない影響か、いつもより大きく聞こえたそれは、私に前を見ろと呼びかけているようだった。

出走するのは15頭、前回覇者も一番人気に推され参戦。今年も勝てば二連覇だが、最近のレースはどうも一番人気の勝ちが多くない。

昔とはかなり変わっているようで、私如きでは誰が勝つかなんて予想もつかなくなっている。二番人気は現在無敗、三番人気はかなりの連対率を誇る強者だ。

色々思っていると、いつの間にかゲートインが終わっており、もう始まる寸前だった。

私はレースが大好きだ。幼い頃両親に何故か連れてこられ見せられたレース。初めて見たのがこのレースだった。

強烈だった。物心ついて間もなかった私でも、会場の熱気に当てられ、その場で起こっていることの凄さを実感していた。

あの時から私は、レースに、この根性と根性のぶつかり合いに、魅入られていたんだろう。

おそらく私が見られるだろう最後のレース。始まる直前のこの感覚を味わえただけで、来られてよかったと心から思った。

―――――バンッ!

ゲートが開く大きな音がした。

その瞬間、一気に視界が暗転した。

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