劇作家女子会。のQuest 「Quest① 演劇の現場で使える、オープンソースのハラスメント防止のためのガイドラインをつくろう!」によせて


― 色んな劇団や団体が演劇の現場で自由に使える、そんなハラスメント防止のためのガイドラインをつくれないだろうか ―

劇作家女子会。のメンバーにそんな相談をしたのは、2019年3月。都内某所のお洒落カフェでの打ち合わせの席でした。
そもそものきっかけは、私が聴講したある報告会での出来事です。
舞台芸術界のセクハラや性暴力について考えようという趣旨で開かれたその報告会では、何名かの登壇者による発表が行われていましたが、そのなかである一人の登壇者から「演劇界にいてハラスメントの問題を知りつつ何の行動もしないのは、ハラスメントを容認していることと同じ。それは加害者の協力者になるという選択ではないか」という発言がありました。一字一句正確に覚えているわけではありませんが、その言葉に私はショックを受けました。
何故なら、私はその「何もしない」ことを選んだことのある人間だからです。

今から数年前。私は現在閉館している某劇場で演劇関係者からセクハラ被害を受け、その被害をBLOGで公表し、加害者への謝罪を求めました。その頃はまだ#Metoo運動等もなく、演劇の現場で起きたセクハラ被害への謝罪を求めるのも、被害を公にするのも、その頃はまだ珍しかったのかもしれません。BLOG公開後の反応は様々で、私のしたことを間違っていないと勇気づけ、力になってくれた人たちがいた一方、BLOG記事の取り下げを要求されたり、私が被害を訴えたせいでその地域の活動に支障がでると言われたり、助けを求めた相手に無視をされたり、「演劇の現場にいながらセクハラで騒ぐなんて馬鹿げている」と私を嘲笑う人がいると人づてに聞かされたりと、ネガティヴなことも数多くありました。
全くの想定外だったのは、演劇の現場から多くのハラスメント被害体験が私の元に寄せられたことです。その時私にメッセージをくれたのは皆女性で、主に俳優をしている方々でした。彼女達は私を励まし、応援してくれましたが、同時に被害を受けた時に声をあげられなかった、抵抗できなかった自分を今も責めている、苦しんでいるという辛い胸の内も打ち明けてくれていました。だけど当時の私は自分のことで精一杯で、そのような声に応える力がありませんでした。自分が被害者となった事件にかかりきりで余裕がなかったのも事実ですが、それを理由に私のもとに集まった声を結果的に無視してしまった、何もしないことを選んでしまったのもまた事実です。
だからこそ報告会での発言に、ずっと心の奥底に刺さっていた棘を暴かれたような気がしました。

そして今回は、何もしないことを選ぶのはやめようと思いました。

だけど自分1人で考えても答えはでず、何をしていいか、何が出来るかもわからない。
私1人の力はとても小さなものですが、とても幸せなことに、私には劇作家女子会。というチームがありました。

私は劇作家の一人として、舞台芸術というものには、一般とは異なる、時には相反する価値観を表現する機会や意義があると考えています。
その創造や創作の幅を狭めず、現場にいる人々の尊厳を守っていくこと。舞台芸術界で、ハラスメントで苦しむ人をうまないために何ができるのか。

劇作家女子会。のメンバーは、私の相談に耳をかたむけ、一緒に考え、行動することを選んでくれました。
私達はこれから、劇作家女子会。のQuestの1つとして、ハラスメント防止のためのガイドライン作りに取り組んでいきます。

Questという言葉には、探求や冒険といった意味があります。
決められた答えやゴールを目指すのではなく、何ができるのか、何をすればいいのかを探し求めていく冒険の過程には困難も多いと思います。

ですがこのQuestが、私達4人からもっと大勢のものになれば、よりよい演劇をつくっていこうという力はもっと大きなものになると思います。そのことを考えると、不安でドキドキするのと同じくらい、ワクワクもするのです。
このQuestは、舞台芸術に関わる人なら誰でも参加できるQuestです。

モスクワカヌ


☆次回より、劇作家女子会。のQuest 「Quest①  演劇の現場で使える、オープンソースのハラスメント防止のためのガイドラインをつくろう!」の連載が始まります。初めの掲載は11月13日(水)を予定しています。

劇作家女子会。は「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した、坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌによる劇作家チームです。 演劇公演やイベント、ワークショップ、noteで対談記事を公開する等の活動をしています。 私達をサポートして頂ければ幸いです!