「拍手すら、ためらわれる空間があった」

劇団なみはな「ダリアの帯」の観劇記録です。
役者が前に出て、お辞儀をしたときの、なぜか胸に来すぎて拍手すらためらわれるような、そんな「人の人生」を魅せられる、お芝居。

劇団なみはなは、日本で唯一の義足の殺陣師戸沼氏が主催する、千葉館山を拠点に活動する団体だ。

その2018年公演である「ダリアの帯」私はこの劇団の舞台作品を初めて見た。

劇団のエチュードをもとに作品の物語を作るのを得意とするなみはなであるが、本作は、大島氏の漫画が原作となっている。

油断した。今年見たお芝居の中で確実に3本の指に入る。

それは1組の夫婦を中心にしてた群像劇。会場は田舎の小さなビルの一室で、そこにあるのは白い布で覆われた背景と、7つの白い箱、そして役者だけ。これだけで、役者はあらゆる場所、心の動き、人物の関係、月日の流れを表現していく。
妻の流産をきっかけに変化していく夫婦の半生を、暖かくちょっとユーモラスな演出、そして丁寧で生々しい演技で魅せていく。

ほとんどが夫婦2人だけで進行していくのだが、この夫婦役を演じているのは、なんと、実際の夫婦だった。

とにかく、この2人の演技が、圧巻なのである。
この二人が実際の夫婦だから、ではない。役者としてのこの二人のとてつもない力を感じざるを得ない。

観客のたった1メートル先で行われる芝居、壮大な装置が動くことも、感動的な劇中歌を歌ったりも、目を見張るダンスをしたりもしない。なんなら大声で泣いたり笑ったりもしない。ただ、その二人の男女が、そこで、生きている。たった私の1メートル先で。

50分間で、彼らの30年分くらいの人生を覗き見るのだ。

そのあまりにリアルな芝居にふと挟まる、それを助長するモーション。固唾を飲んで食い入るように見る。

息を飲みながら1ページ1ページ紙をめくっていくような、両親の過去を雲の上から見守っているような、そんな気持ちになっていた。

そんな誠感動作である本作、なんとこれが、

観客、10人。

土地柄しょうがないという思いもなくはないのだけれど……

たった観客10人の密室で濃密な芝居が見れたのはとっても贅沢なことではあるのだが...。こんなとんでもない芝居が10人にしか見られていないのは...

由々しい!もったいない!

10人で消化するような作品ではない!

次のスピーチ大会レポートに続きます。

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