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劇団員インタビュー(3)ファックジャパン×大原渉平

9月某日 AKIKANにて

インタビュアー:大原渉平(劇団しようよ/「gate」ディレクター)

演劇界の大先輩・ファック ジャパンさんにお話を伺いました。僕が小劇場に触れた最初の頃からずっと存在を追いかけていた人だったので、緊張しながらいろいろお話を聞けました。[大原]


大原:インタビュー、始めていこうかと思います!

FJ:よろしくお願いします!

大原:もうね、今日は何を話そうかと思って、昨日からファックさんのことばっかり考えながら寝ましたからね、僕は。(笑)

FJ:ああ、それはすいません……(笑)

大原:まずなんですけどね。僕とファックさんとの思い出って何やろって考えたんですけど。

FJ:はい。

大原:僕がファックさんと関わりを持たせてもらうようになった最初の年に、ピンク地底人さんに客演させてもらったことがあったんですね。俳優として。

FJ:ああ、ありましたね。

大原:その時に、「会話劇がうまくいかないんですよね~」って、なにげなくミーティング終わりのファックさんに話しかけたことがあったなって思い出したんです。

FJ:ああ(笑)。確かに、そういう相談受けた気が…。

大原:そうなんです。ほんとに、お忙しい中やのに、急に話しかけただけやったのに、2時間くらい相談に乗っていただいて。

FJ:え、そんなに喋ってたっけ?

大原:いや、もう、たっぷり話して下さいましたよ。ほんと。だから、ファックさんが俳優されている姿を見る時、いつもその時のことを思い出すんですよね…。あの時はありがとうございました。

FJ:いえいえ。こちらこそ…。

20周年記念公演を終えて

大原:じゃあ、いろいろ聞いていこうと思うんですけれど。まず、20周年記念公演を終えられて、いかがですか?

FJ:今ですか?うーん…、まあ、何やろ。僕的なこといえば、僕自身は20周年やないからね。(笑)

大原:ああ、そっか!え、ファックさん的には何周年になるんですか?

FJ:えー……15か14周年…?になるかな。そう考えると、なんだか恐ろしいですよね。もう15年…。

大原:その、劇団衛星に入られた当初っていうのは、メンバーは何人くらいだったんですか?

FJ:衛星は…えーっと…。僕の入った時は、7〜8人くらいかな?

大原:なるほど。その頃に在籍しておられたのは、誰になるんですか?

FJ:えーと。(今は退団してる方々でいうと)田中遊さん、岡嶋(秀昭)さん。駒田(大輔)さん、橋本(裕介)さん、筒井(加寿子)さん、山本裕子さん。あと、奥田ワレタさん、チャックさん、根本(コースケ)くん。とかですかね。

大原:ああ、今も前線を走っておられる皆さんですよね。

FJ:何ていうか、僕は一番年下やったし、それまで演劇もしたことなかったし。

大原:じゃあ、この、ファックさんにとっての衛星での15周年っていうのは、ファックさんにとっての演劇歴でもあるってことですか?

FJ:まあ、そういうことですよね。別に、演劇をもともとやりたかったわけでもなかったんで(笑)。やり始めたらほめられて勘違いして…、で、今に至るって感じですね。

大原:今では、壁ノ花団さんの公演とか、ドラマとか出られたり。大活躍されてるわけですけれど。ファックさん自身の自分の売りって何だと思ってらっしゃるんですか?

FJ:え、見た目じゃないですか。

大原:見た目の、インパクトみたいな?

FJ:要するに、男前の逆やと思いますけどね。華がある人の逆というか。でも、何ていうか、功罪あると思うんです。その、見た目でカバーされて今まで突破してきたところがあって。中身が伴わないまま…(笑)。

大原:(笑)いや、どうなんでしょう、それは僕はわかんないですが…(笑)

FJ:でも、まあ、おかげで分不相応な場にも出させてもらうことができてるので、よかったです。

大原:僕、大学一回生の時に初めて小劇場に触れたんですけど。その時は滋賀県に住んでたんで、あんまり京都の小劇場のことはそこまで知らなかったんです。でも、その中で4人、名前を覚えていた俳優さんがいたんですよ。認識してた人が。その方が、山崎彬さん、ごまのはえさん、クールキャッツ高杉さん、そして、ファックジャパンさんやったんです。

FJ:えー、そうなんや。

大原:そうなんです。芸名ってやっぱりでかいですよね。山崎さんはついてないですけど。でも、それだけファックさんにしてもインパクトは大きかったですね。

FJ:それは、何かお芝居で知ったってこと?

大原:いや、というより、折込に入ってたチラシとかで見て、誰やろって調べていった結果、その人を認識したっていうか。あと、「とまる。」っていうフリーペーパー(※2008年〜第15号まで発行された京都の演劇情報フリーペーパー)の表紙を、ファックさんが飾っていた時あったじゃないですか。

FJ:ああ、あった!

大原:それもあって、ファックさんの印象は強く持っていました。あ、あと、あれ観に行きました、『三人姉妹』(※ぶんげいマスタピース工房、2008年上演)。ごまのはえさんの作品だっていうのだけで観に行きました。

FJ:ああ、ありました。ありました。

大原:今ではどんなお芝居やったかあんまり覚えていなんですけど…。劇中で、やたらファックさんが「ブ男」「ブ男」って言われていたのを覚えています。

FJ:ああ(笑)。ごまさんがキャスティングには自信があるって言うてはったからなあ。


稽古場での在り方

大原:いろんな団体に呼ばれる秘訣って、何かあるんですか?

FJ:ええ、そんな呼ばれてないけどなあ。

大原:でも、継続的に呼ばれている団体さんもありますもんね。

FJ:ありがたいことにね。あー、でも、何ですかね。あんまりよその劇団でも、自分の劇団でも、立ち位置は変わらならないようにしているような気がしてますけど…。

大原:立ち位置っていうのは?稽古場での居かた、みたいなものですか?それを聞いて思い出したんですけど。僕、以前一度、劇団衛星に出演させていただいたじゃないですか。

FJ:ああ、ありました。

大原:その時、衛星の稽古場の特殊さにびっくりしたというか。

FJ:(笑) でも、言うてもどこも特殊やなて思ったりするけどね。

大原:まあ、そうかもしれないですけど。でも、衛星の稽古場でファックさんが果たしている役割って、すごい大きいなって思ったりしました。

FJ:ああ。僕が衛星の稽古場でやっているポジションって、かつてはチャックさんや田中さんがやってたんですよ。で、その二人がいなくなって、どうしようってなってから、ついに自分がそのポジションをすることになったか!ってなって。

大原:あれ、かなり大変そうですけど。でも、それを見ていて気づいたんですよね。稽古場を進める人っていうか、稽古場の推進力って、演出家だけがすることじゃなくてもいいなって、思って。

FJ:そうそう。

大原:むしろ俳優が進めるほうがいいなって思いました。

FJ:それは、やってみて思いました。たとえば俳優っていう部門でもあると思うし。もっと俳優が動けることがあるなって思って。何か、それって健全やなって。

大原:そうですよね。俳優って個々で活動しがちなんですけど、本来は俳優部っていう役職ですもんね。

FJ:そうそう。やっぱり本来は、それぞれの部署の人がそれぞれの仕事をする中でおもしろいものができていくって思うし。

大原:そうですよね。ほんとに。そんな立ち位置でファックさんは衛星を支えていらっしゃるわけですが、今後、衛星ではどんな感じで攻めていかれますか?

FJ:えー、どうなんでしょう。でも、たとえば僕と蓮行さんって、だいぶ価値観が違うじゃないですか。何ていうか、それはそのままでいいかなっていうか。

大原:ああ、なるほど。なんかそれってすごい、わかる。っていうか、いいなって思うというか。

FJ:そうですか。

大原:価値観が違うって、言い切れること自体が、大事だなあって思ったりしましたけどね。たとえば、僕の劇団にしろ、いつも一緒にやってる若い俳優さんたちって、どうしても僕(演出家)の価値観を理解しようとしたり、近づこうとしたり、もっというと、僕の中の正解をめざして稽古場にいる感じがするっていうか。そういう関係をつくろうと努力される印象があるんです。

FJ:うんうん。

大原:でも結局、好きなこととかひとつとっても、演出家と俳優って違うはずじゃないですか。まずそこを認めて作品をつくるほうが、健全だなあって思ったりするんですけど。答え合わせみたいな稽古になってしまうのがおもしろくなくて…。

FJ:ああ!そうね。

大原:答えは何やろ…ってやるよりは、俳優が「AとBと用意しましたけど、どっちにしましょう?」って言って演出家が選ぶ、みたいな稽古場が、理想やと思うんです。だから、ファックさんと蓮行さんがそういう関係を持ててるんじゃないかってことが、ある種うらやましく思うっていうか。

FJ:いや、まあ。(演出家が)お客さんですよね。そういう感じで、僕のやることの種類の中から、蓮行さんに喜んでもらおうって思って、やってますね。 


これまでの風景、これからの風景

大原: 20年…、ファックさんにとっては15年ですが、京都の演劇界ってどんな風に変わっていったように見えていますか?良くなったとか。悪くなったこととか。

FJ:えー、何やろ。

大原:稽古場の環境ひとつとっても、だいぶ変わりましたもんね。いかがですか。この15年。

FJ:15年経って、か…。うーん、うーーん。まあ、でも、なんか、あんまり変わってないかもって思うかな。

大原:え、そうなんですか。そんなにあんまり変わってないんですか。

FJ:いや、もちろん形は変わってるんやけど。作品もつくりやすい環境にしてもらってるなって思うし。京都芸術センターができたりとか。

大原:あれ、京都芸術センターって、いつくらいにできたんでしたっけ?

FJ:えっとね。僕が入った時くらいにできました。

大原:芸術センターがあるかないかだけでもだいぶ違いますもんね。

FJ:京都の人って、あんまり出て行かないっていうか…。ずっと、京都で活動、京都に拠点を、っていうことが多いじゃないですか。だから、昔からの先輩方との距離感が変わらない感じがするんですよね。今でもその当時みたいな距離感で接してもらえるし。それが、あんまり昔と今とで変わらないって思う理由かなって思いますね。

大原:なるほど…。それは面白いですね。ファックさんは、ちなみに、東京とかってどう捉えてらっしゃるんですか?行ってみたかった、とか思いますか?結局15年、京都で演劇をつくるってことを選んでおられると思うんですけど。

FJ:うーん。まあ、でも、東京行く人って、目標があって行く人やと思うし。僕には東京に行く目的がなかったんじゃないですかね(笑)。

大原:目的。目的ですか。じゃあ、今のファックさんの目的って何なんですか?

FJ:え~(照れる)…。はずかしい…。

大原:いやいや、そういうこと聞く場所ですから!(笑)

探究心

大原:とにかく最後に聞きたかったのは、「なんで今、演劇を選んでますか?どうして続けてこれましたか?」ってことなんです。

FJ:うーん、まあ、なんていうんでしょう。もっとうまくなれるんじゃないかって思ってるんじゃないですかね。

大原:ああー!

FJ:今でも演劇に対して、自分が向いてないな、って思ったりするんやけど。でも、何か少しずつ「できること」が増えていっているようにも思うんです。それで、増えれば増えるほど、自分が「できてないこと」も多く発見されていってて、みたいな…。なんだこれって。

大原:ああ。進めば進むほど、道があることに気づかされる、みたいなことですかね。

FJ:まあ、道って言ったら希望やけど(笑)。

大原:もうちょっとネガティブなことなんですかね(笑)。

FJ:そうそう。「もう、こんなんでけへんわ!!」みたいな。

大原:その克服が、ファックさんにとっての目的になりうるんですか?

FJ:うーん。以前、「マレビトの会」に出させてもらった時に、あるお芝居の通し稽古があったんですけど。その中で僕がたまたまセリフを忘れちゃったんですね、その時。そのセリフを言わないと次のシーンにいけないのに。まあ、プロンプ(※セリフを忘れた役者に陰からそっとセリフを教えること)で入れてもらったりしたんですけど。そしたらその時に、なんか体は盛り上がってて、でも頭が「なんやったっけ?」ってなってて。体は次の段取りに行ってるのに、脳みそが置いてかれるみたいな状況になったんですね。そしたらその時、初めて、俯瞰で見れたんですよ、自分を。操作できたんです。もう、それがすげー楽しかったっていうのがあって。えも言われぬ感覚っていうんですか。

大原:ほお~

FJ:みんな、こんなことやってんのか!って思った(笑)。演出家の人が言ってた難しいことって、全部ほんまや!って思えて。比喩じゃなかったって思えたんですよね。

大原:ああ、だから、そこの部分を知りたいっていうか、その舞台で演技するっていうことへの探究心が、15年間続けられた原動力ってことだったんですかね。

FJ:うーん。そうですね。まあ探究心っていうもんでもないかもやけど(笑)。でも、さっき言ったみたいな経験をできたから、もっと考えていけば、もっと知れるんかなって。すごいなって思った。

大原:なるほど。じゃあ、ほんとにほんとに、最後の質問なんですけど。次の10年、20年、ファックさんは、あるいは劇団衛星は、どうしましょうか。

FJ:えー(笑)。まあ、でもー…。どこへ行っても通用できる俳優になりたいですね。今は結構、環境と適正と、いろんなもんが折り合って通用してる感じがしてるので。バッターボックスがまわってきたらヒットが打てる。そんな俳優になりたいですね。今はまだ全然、運によるところが大きいと思ってます。実力者になりたいと思っています。

大原:うーん…!実に、なんていうんですか謙虚というか。その探究心に、強く心を打たれます。わかりました。今後のファックさんのご活躍を楽しみにしています。応援しています!

FJ:ありがとうございます!がんばります。

劇団衛星の活動継続と公演の実現に向けて、みなさんのサポートを、ありがたく受け取っております。応援ありがとうございます。