n「彼、もしくは彼女の」作・うまいもんだなあ

こんばんは!大阪芸短文芸部です。
早速、noteテーマの作品が届きました!
遅筆の管理人からすると、うまいもんだなあって早筆ですごいなあ、と思いますね。
しかも、全部面白いんですよ!
ぜひ今回の作品もお楽しみください!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝9時に出社する。
夜20時に帰宅して、24時に就寝。
そして朝7時に目覚め、出社する。

僕は5年前にこの生活が始まり、これから30年、40年先も変わることのないルーティンがつづくだろう。仮に結婚して、子供が生まれたって基本変わらないんだろう。
疑問は抱かないし、不満もない。思う暇すらなく仕事をし、カップラーメンを流し込んで疲れ切って風呂に入り、寝る。
極稀にこれからも変わらないなどと考えてみるが、とんだ妄想厨だと鼻で笑う。

そして朝8時、電車に乗る。

ガコンッ

聞き覚えのない音と揺れがした。なんだろう、電車が止まった。緊急停止?

―只今、人身事故のため車両を一時停止しております。お客様にご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。

よく聞く、あのアナウンスが流れてきた。困るんだよなあ。会社、電話入れとくか。

「チッ」

その舌打ちをついたのは自分だった。別に初めてではない。人身事故はよくあることだし、いつも悩まされている。ただ、今日は動揺してしまった。
人身事故ということは人が電車に巻き込まれたということ。しかも自分の車両は揺れた。おそらくこの下に死んだ人間がいるということだろうか。おそらく自殺の。

そこまでわかっておいて、理由はどうあれ、人が一人亡くなっているかもしれないのに舌打ちをした。

最近、ニュースでは自殺者が増えていると話題にし、自殺を防ぐためのちらしやCMが増えている。でも、今日の彼、もしくは彼女は僕の中での死と、僕の舌打ちはどんなメディアよりもある事実を僕に見せた。

僕は考える暇がないんじゃない。考えることすらできない物体だ。電車に揺られるだけの、人の死に舌打ちするほどの無感情に近い物体だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
テーマの「みせる」を「見せる」と取りました。優れた広告よりも、伝える力があるものは日常にある気がします。放送される人身事故が全て人が亡くなっているとは言いませんが、迷惑だと思うのは少し寂しいです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

このように、noteテーマ作品も随時お届け予定です!
どうぞ今後の展開もお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?