n「赤い口紅」作・聖辺


まさかの連続3作!
管理人、めちゃくちゃ驚いております。
noteでは初投稿となる、聖辺から小説作品が届きました。
お楽しみください。

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艶やかな金髪に真っ赤な口紅、爪先まで洗礼された美しさ。誰もが美しいと認める彼女が、私は気持ち悪くて仕方ない。
赤い口紅なんて下品だし、まるで男に媚を売るみたいにおしゃれしては街に繰り出してる様は、見てて痛々しい。あの金髪だって偽物で、本来は私みたいに墨みたいな黒髪だったはず。化粧で塗り固められた顔だって偽物で、化粧を落としたら全くの別人かもしれない。あの女の全てが癪に触って、あの女に魅せられた馬鹿な奴らも、みんなみんな気持ち悪い。
なのに、何故か金髪女はいくら突き放しても、毎日のように飽きもせずに私の元へ来て、一方的に話しかけてくる。

「あ!またそんな辛気臭い顔してる。ずっとそんな顔してたら、いつかカビ生えできちゃうよ?」

頭に響く甲高い声に、苛立ちが増す。どうしたらそんなにもバカ丸出しな喋り方が出来るんだろう。ああもう、本当にイライラする。

「話しかけないでくそ金髪。会いに来るな死ねって、昨日も一昨日も言ったはずだけど。」

「まーたそんな事言う。そんなんじゃ、いつか周りに人がいなくなっちゃうよ?ただでさえ友達少ないのに。」

「余計なお世話!あんたこそ、私に構ってないで財布代わりにしてる男の所にでも行ったら?今頃あんたを思って自分を慰めてるよ。」

「財布代わりなんて人聞き悪い。私から頼んだ事なんてないし、好意で色々奢ってくれてるだけだよ。」

「好意に漬け込んで、奢らせてるんでしょ。あんたなんかに貢ぐ男の気が知れない。人を振り回すだけ振り回して、飽きたらゴミみたいに捨てるくせに。」

「ひどいなぁ。」

口ではそう言うが、実際は1ミリも気にしてない。たとえ私が語彙の限りを尽くして罵倒しても、この金髪女はケロッとしてる。それどころか、私が喉を痛めながら暴言を吐いても、いつもと変わらない涼しい笑顔を向けてくる。そういう女だ、こいつは。

「振り回してるつもりなんか無いし、飽きたら捨てるなんて事しない。私は私を好きでいてくれてる人みーんな大好きなだけ。家族も、友達も、彼氏も。そして、あなた。」

「……は?なんでそこに私が入るわけ?」

「あなた、私の事どれくらい嫌い?」

「存在自体が気持ち悪い早く視界から消えてほしいぐらい。」

「ほら、私のこと好きじゃない。」

今手元に鈍器があったなら、すかさずこの女の頭をぶん殴っていただろう。私がこの女を好き?脳の代わりにマシュマロでも詰まってるの?そう割と真剣に考えるぐらい、突拍子も無く最低最悪な事を言われた。
絶句して何も言えない私を見ると、赤く彩られた口で愉快そうに言葉を続ける。

「知ってた?好きの反対って、無関心なんだよ。」

イタズラが成功した子供のような笑顔で、目の前の女は私を嘲笑う。違う、そんなはずない、私はこの女が嫌いで嫌いで嫌いで仕方なくて、この女の存在が許せなくて、あれ?なんで私この人の事こんなに嫌いなんだっけ。

「私が羨ましいなら素直にそう言えばいいのに。」

耳元で囁かれた言葉が、頭から離れない。

「あなたにだって赤い口紅が似合うよ。ほら、綺麗な黒髪に映えてる。」

いつの間にか塗られた口紅の嫌な味が口に広がる。今すぐにでも口を拭って、この女を罵らなきゃ。いつもの私ならそうするはずだし、そうでなければならない。けど、いつもはよく動く口は役に立たず、ただ目の前の女から目を離せない。

「どうして毎日会いに来るのかって言ってたよね。私はね、私を好きな人が好きなの。また明日、会いに来るから。」

呆気にとられる私を残して、振り返りもせず女は去っていった。微かに残る香水の匂いだけが、あの女がここへいた事を示す。
ふと、ガラスに映る自分と目が合う。黒い髪、白い肌、パッとしない顔、そしてその口には不釣り合いなほど彩やかな赤い口紅。その赤を見た瞬間、今まで感じた事の無いぐらい心が満たされていくのを感じた。赤く彩られた口角が上がっていく。
そして私はようやく気づいた。私も、あの女に魅せられた馬鹿な奴らの一人なのだと。

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あとがき
今回のテーマの「みせる」を私は魅せるで解釈してみました。テーマ考えてくれた副部長ありがとう!!

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管理人、実は副部長でした。
この良い流れ、止めたくないですね!
それでは次の更新もお楽しみに。

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