藝大生の作るプレイリスト〜"本質"編〜

専攻:美術研究科グローバルアートプラクティス
学年:修士1年
名前:内田拓海


プレイリスト

楽曲紹介


Perspective / 坂本龍一「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020」
オリジナルはYMO「SERVICE」に収録された作品で、坂本さんのボーカルでシンプルな日常の所作が淡々と歌われ続ける曲です。私は昔からなぜかこの曲が大好きで、理由はわからないのですが、シンプルな音楽の奥に何か普遍的なものがあるように感じています。

死那个石家庄人 / 万能青年旅店「万能青年旅店」
中国のロックバンド「万能青年旅店」の代表曲です。静かにはじまり、次第に確信へ迫っていく音楽。文化に根ざした深い歌詞を読むと、私たちの社会、そしてあり方ついて考えざるを得ません。

Piano Quintet Op. 42 I. Poco lento - Moderato / Louis Vierne
TRIO WANDERER「César Franck: Violin Sonata, Piano Trio No. 1 & Piano Quintet - Vierne: Piano Quintet」
ヴィエルヌはフランクの弟子で、師譲りの半音階的な和声の世界を、限界まで推し進めたような音楽を作曲しています。調性でここまでの表現ができるのか、と思ってしまうような、分厚く、重厚な和声の世界です。

Dawn / Chouchou「Vinculum」
「Dawn」と題されたこの曲は、聴くたびになんて美しく、儚い音楽なんだろう思います。触れるだけで壊れてしまうような、硝子細工のように繊細な作品です。

Eagle fly free / Helloween「Keeper of the Seven Keys, Pt. II (Expanded Edition)」
ドイツのメタルバンド「Helloween」の生み出した名曲。空を無尽に飛んでいく鷲を象徴に、自分自身の道を切り拓いて生きていくこと、その大切さが歌われます。

In The Bleak Midwinter / Jacob Collier「Pure Imagination -the hit covers collection-」
私は「天才」という言葉があまり好きではありません。自分も芸術を学び続けてきた身として、表現にどれだけの責任と努力が求められるか、わかっているからです。。それでも、ジェイコブ・コリアーだけには「天才」という言葉を使いたいと思っています。彼の織りなす音楽は、どこまでもピュアで喜びに満ち溢れていて、そして人の心に深く届くものだと思っています。

Piano Sonata No.5 / Alexander Scriabin
Vladimir Ashkenazy「SCRIABIN,A Piano Sonatas Nos. 3, 4, 5, 9」
スクリャービンの作風の過渡期に書かれたピアノソナタで、この作品も限界まで拡張された調性が用いられています。この曲を聴くたびに、たったピアノ一台でここまでの表現まで到達したことに感服せざる得ません。ここにもはや楽器の制約はなく、完全に自由な、響きの世界があります。

死せる乙女その手には水月 -Παρθενος- / Sound Horizon「Moria」
正直に言えば、サウンドホライズンのアルバムから曲を一つ選ぶことは不可能だと思います。なぜならアルバム全体に大きな流れがあり、モチーフやハーモニーを、時にはアルバムすら超えて共有しているからです。しかしこの曲は、仮に単独で聴いたとしても、サンホラの魅力を最大限に味わうことのできる一曲です。ある種の徹底した抒情性や、音楽のクリシェを聴くことのできる作品です。

Piano Concerto No. 1 / 松村禎三
オーケストラ・ニッポニカ「松村禎三交響作品集」
現代音楽の世界は本当に表現の幅が広く、創作へ対する思想一つとっても、誰ひとりとして同じ着眼点を持たない世界です。その現代曲の中で、私が最も深く感動した作品として、松村禎三の「Piano Concerto No. 1」を挙げたいと思います。誰よりも重たく、芯のある音楽で、この作品を言葉で形容すると、軽くなってしまう、そんなふうにすら感じさせる名曲です。

Be My Love / Keith Jarrett「The Melody At Night, With You」
キース・ジャレットが、慢性疲労症候群の闘病中に録音した楽曲です。自身の闘病生活を支えた妻、ローズに捧げられています。曲の最後で、主題をもう一度ゆっくりと慈しむように弾く箇所は、私は世界で一番深い愛情に溢れたピアノソロだと思っています。

東風 / YELLOW MAGIC ORCHESTRA「YELLOW MAGIC ORCHESTRA」
実は「東風」ほどの傑作を、私はほとんど知りません。それほどこの曲は伝説そのものだと思っています。非常に知的なコードワーク、引き締まったリズム、そしてつい口ずさんでしまう、不思議な魅力を持ったメロディ。この曲に出会わなければ、私は音楽を始めなかったと思います。

インタビュー

・簡単な自己紹介をお願いいたします

大学院美術研究科グローバルアートプラクティス(GAP)専攻修士一年の内田拓海と申します。学部は藝大の音楽学部作曲科で、現在は美術と音楽の両方の視点からアートを学んでいます。

・美術側で学ぶにあたって、学部で培った、また教師として勤められた際に養った音楽的観点はどのように活かされていますか?

音楽を学んだことで「時間」に関する感覚がすごく鋭くなったと思います。時間というのは体感と密接な関係があって、実際に過ぎている時間が1分でも、どのようなパルスを与えるかによって体感が変わってきます。また、作曲の学習を通して、作品の文脈をよく考えるようになったことも、美術作品を鑑賞する上で役に立っています。

・言葉に焦点をあてた作品を作り始めた動機は何ですか

もともと本を読むのが好きだったのですが、大学に入学してからしばらく本と遠ざかっていました。しかし、大学3年生(2020年)の時にコロナの流行がはじまって、色々な規制もあって音楽活動ができなくなってしまったんです。その時に、ふと自分の好きだった本を再び読み始めて、そのまま自然な流れで言葉を使った創作にも挑戦するようになりました。

・藝大ならではの音校と美校の一番大きい違いは何だと感じますか

どちらも熱意のある人がいるのは事実ですが、一番大きな違いは「文化」だと思います。正直、両方で学んでいる身として音校と美校の人たちの、物の捉え方から価値観まですべてが違います。美術側はほとんどの人が自分自身の作品を作るのに対し、音楽側で創作をしているのが作曲と音環ぐらいということも大きいと思うのですが、自分の作品を作り込むことと、他人の作品を丁寧に読み解いていく(演奏する)ことはまったく違うことで、その影響も大きいだろうと思っています。

・このプレイリストのテーマを教えてください

このプレイリストのテーマは「本質」です。自分が聴いてきた膨大な音楽のなかから、深い芯のようなものを見い出せる曲を11個選びました。結果的に選んだ各曲のジャンルはさまざまで、有名なものもあれば、比較的マイナーなものもありますが、どれも素晴らしい作品であると言い切れるものを選びました。

・このプレイリストにある曲は、ご自身がどんな感情の時に、どんな場面で聞いていますか

実際のところ、この質問は答えるのが難しいです。というのも私は作曲を創作活動の主軸にしている関係上、自分が作業している時は音楽が聴けません。また休憩時間や移動時間なども、なるべく耳を休めていたいので、あまり音楽を聴かないんです。ただ、そのどちらでもない、たとえば何かに悩んでいる時などに聴いたりしています。

・日本中国ドイツ、、と幅広い国の曲をいれてくださっていますが、新たな音楽を探す時に国を意識することは多いですか?

特に深い意識はありませんが、色々な音楽が好きであれば自然と国を跨いで聴くことになると思います。また現在通っている大学院のGAPは、留学生が定員の約半数ほどいるので、彼らから教えてもらうこともあります。「万能青年旅店」は中国人の友人から教えてもらいました。

・現代音楽の着眼点について述べてくださっていますが、聴く時に何か気を付けていることはありますか?

私自身の着眼点、というところになると「この音楽は何を探求しているのか? それはどのような手法で行われているのか? 結果的にそれはうまくいってるのか?」ということには気をつけるようにしています。特に自分の「あまり好きではないタイプ」の音楽を聴くときは、自分の好き嫌いではなくて、作者が何を意図しているのかを考えるようにしています。

・現代音楽を好きになったきっかけのような曲があれば教えてください。

プレイリストにも入っている松村禎三の「ピアノ協奏曲第一番」そして、もう一つ挙げるとすれば、吉松隆の「ピアノ協奏曲メモ・フローラ」を挙げたいと思います。この曲ははステレオタイプな現代音楽らしさはどこにもなくて、とても聴きやすく瑞々しい音楽なのですが、現代音楽としての意義も持ち合わせた作品だと思っています。

・今年の藝祭のテーマが「いま、ここに」なのですが、学部も経ていま藝大で学び続けることにどのような誇りを持っていますか?

この質問もまた答えるのが難しいですね。正直、藝大にはとても複雑な思いがあって、手放しで素晴らしい母校だと誇ることはできません。ただ、一つなにか誇れることがあるとすれば、素晴らしい仲間たちを得たこと、そしてその人たちと共に悩み、考える時間を過ごすことができることだと思っています。

藝祭に向けてのPRをお願いします!
「Neoteny Poiesis -この「かたち」のままで [ 成 / 生 / 為 / 鳴 / 倣 ] る- 」 ミュージックインスタレーション
9/1~3 @美術校舎 絵画棟1Fアートスペース

第5回専攻外吹奏楽演奏会 / 指揮
9/1 @音楽校舎 第6ホール 10:55開場 11:10開演

藝大生×又吉直樹トークショー / パネリスト
9/1 @美術校舎 野外ステージ 13:30

GENESIS AND PLUTONIUM / キーボード
9/3 @美術校舎 野外ステージ 13:00

藝祭2023

開催日時:9/1~9/3
開催場所:東京藝術大学上野キャンパス
公式サイト:https://geisai.geidai.ac.jp/2023/index.html

プロフィール

作曲家・アーティスト。神奈川県藤沢市出身。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、現在同大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻に在籍。

小中学校の9年間をホームスクーラーとして学校へ通わずに過ごす。孤独のなかで育った生育体験を出発点とし、かなしみや儚さをテーマに、音楽と言葉の両方を用いた創作活動を行なっている。

主な受賞歴として、第4回ハンナ作曲賞ピアノソロ部門・自由作曲の部優秀賞、奏楽堂日本歌曲コンクール第29回作曲部門第3位など。

HP:https://www.takumiuchida.com

X:https://twitter.com/TakumiUchidaArt

Instagram:https://www.instagram.com/takumiuchidaart/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?