小さい頃何になりたかった?の回

GUのメルマガ、モデルのお子さんがかわいい これも一瞬のこと/シロソウスキー


【これも】の【も】が、作者が他にも挙げられる(と、メルマガの画像を見たときに気づきもした)、絶対すぐに忘れるんだけどたしかにパチッと光る人生における無数の「なんか」をその背後に抱えた【も】…なのか、先行作品の

飼いもしない犬に名前をつけて呼び、名前も犬も一瞬のこと/吉田恭大『光と私語』

の結句を「お題」や「#も一瞬のこと」と捉えて差し出してくれた「シロソウスキーくんのこたえ」をしている【も】なのか、この2つが考えられて、評の文を書こうと読んでるもんだから頭でっかち状態の僕はこっちで読んだんですけど、結句の完全な一致…により「GUのメルマガ」と「飼いもしない犬」のそれぞれの語句の人気投票あらそいになり、「飼いもしない犬」に票が流れました。「GUのメルマガ」もこれからちょっと票集めていきそうですけどね。良い言い方ってある程度は早い者勝ちで、座れるのもその一人みたいなところがある。


星を野菜をあなたの言った名で呼んで言葉を知っているふりをしていた/いわまむかし


は、

呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる/穂村弘『シンジケート』
はじめてのたべものたべる おいしい とあなたがわらう これはうまいもの/斉藤斎藤『渡辺のわたし
子供用自転車とてもかわいいね、子供用自転車はよいもの/五島諭『緑の祠』

というような席に座ろうとした歌のように感じました。

ヘレン・ケラーの「Water」もの…と勝手に呼んでる傾向のやつなんですけど、一瞬真っ白、にした「わたし」を0から1にする瞬間を、それによってスパークする全存在や全時間をいったん一行で言ってみる表現、の緊張(に、作者が振ろうとしたのであれば、なんですが)のためには、【言葉を知っている/ふりをしていた】のような定型のたるみに足を引っ張らせてはいけないのだと思います。


子どもからお年寄りまで楽しめるなんて言葉にだまされんなよ/菊華堂


一読、「そうですよね。」と思いまして、そのせいで会話になってしまいました。短歌じゃなく。あともう「ですよねー」と僕が、勤務中の声のトーンで言うだけです。たぶん読んだ人に勤務中の声のトーンで返事させちゃいけないんです。定型に乗ってするすると入って来た=のどごしはいい ので、あとは一旦口にふくませてから「そう…」「か?」みたいに微妙に膨張したり、とんがったり、最悪毒でも短歌なら望むところなんです。


男子たち、いつから足の速そうな靴を履かなくなったのかしら/だや


小さいころ足の速い奴がなぜかモテた/SU(RIP SLYME「JOURNEY」)

とか、ちょっとツイート探せなかったんですけど「足の速い子から不良になっていった」(ダ・ヴィンチ恐山)だとかって、センスのある人がなぜか「足の速さ」の時期のこと〈だけ〉を言う、時間に生じる「いったん休憩」みたいな味のすごさに興味が行っちゃいました。ポン酢つけたらなんでも食えるみたいな。いろんな人にポン酢につけてほしい。コンテンツな気がしてきた。「足速いが価値の時期」を薄ーく「今のその人」で言ってもらう。というジャンル作品。

【男子たち~かしら】という口調で、立ち場を反転させてることにはなにか批評性や嗜虐がありそうではある。

ちなみにSUの歌詞はこの後【夢は才能持った者が叶えると思ってた】と続き、彼の場合は「言ってしまっている」マナーの悪さがあると思う。「さらにそこが良い」のが「JOURNEY」なんだけど。


卒論はスマホで書いてって聞いて、えー、でもタイピング、どうだろう、変?/平出奔


〈人気者にしか許されないしゃべり方〉ってあると思ってて…それを炸裂させてる派手な歌が一方にはあるとして、平出さんのこちらは、人気者になりたくてこういう言い方をしてる…歌のように僕には読めるんですね。それは何故なのかで考えてみると、

①一首が終わった時点で辿りついている「場所」や「場面」、「もしもこの状況に自分が置かれたらどう思うだろうか」がぼんやりしている → 芯がない

②完全に「見えてこない」なら見えてこないで、そういうボヤっとを楽しむこともできるんだけど(通りがかりに聞く他人の会話の断片の「そのあまりにも全体が分からなさ」はおもしろく思えたりするわけだから)、なんとなく「見えはする」、この見え度が微妙(不器用な(あるいはそれを克服しようとはしていないような)大学生が、友だちやゼミ仲間と話してる)

③荒い歌を、「この荒さのままの自分で受け入れてほしい」、ともすると「受け入れてもらう」つもり満々、というふうに感じて、そのイヤさ。そのうえで歌へ「おもしろさ」が付随されていれば読者にとっての取り分があるぶん説得されるんだけど、この「取り分」がない(加えると、作者がおもしろいと思ってる部分もわからない)(力点が見えない)

④早口で、他者に口を挟ませない主体(+、③の精神性)

⑤最後「変?」ときいてしまっていることで「主体の不安」と「作者の不安」が顔をのぞかせてしまっていることで、さめる(狂うなら狂いきってほしい)

のような要素が歌から拾えるからだと思いました。


本日のメインディッシュを切りながらちんこの言い方が盛り上がる/懶い河獺


「ちんこ」に名前が近い食材…で考えて浮かばなかったので、シンプルに雑談のなかで、性器を単語で連呼しながらおもしろい言い方を「探す」みたいな時間を過ごしてる二人~複数、が浮かびました。「本日のメインディッシュ」は、レストランの黒板に書いてある的なのではなくて、自炊の料理を「本日の~」ってチョケて言ってる感じかと。そこでちんこちんこ言い合ってる。

まぁでも、ひとりで盛り上がることだってありえるかな。名前が、じゃなくて見た目が近い食材を見て、なのかもしれないですし。そういうのを言い合えるし「おもしろ」を試し合える関係性と、たっぷり無駄な時間を過ごせる人生の季節、くらいまでは読んでも読み過ぎてないと思う。矢野号って芸人さんは「ちんちん」を良い言い方するんです。最初の「ちん」と次の「ちん」を全く音(おん)で言うんですけど。これをすると何回も言いたくなる響きになって。


だってほら猫も寝ている 甲板で 小さい頃何になりたかった?/宇都宮ぱる子


いったん【だってほら】は前にかかる情報の欠損で読めないため、読まず、【猫も寝ている】(ほかにも寝てる生き物を、なんの生き物か具体的に思わなくてもいいけどばくぜんと人型のシルエット…のようなものでも一首の視界のどこかに置いておいて読むべき『猫「も」』…)【甲板】(船、サンジがクソお世話になりましたって土下座してたスペース、その先の大洋、大空、「猫」がさっき寝れてたくらい静かだからエンジンを切ってぼんやりと漂ってるのかもしれない時間の「そこ」を想像してもいい…)、から、【小さい頃何になりたかった?】(という「声」…もしくはそう自分で思った、(声)でこの響きを【甲板】で鳴らしてみる)(ゆったりとした気持ちになる)

【小さい頃何になりたかった?】という文字列や響きは、ほぼほぼ〈今は「それ」とくらべてしょぼくない?〉を思わせてくるものの具にされるんだけど、

(「藤岡拓太郎作品集 夏が止まらない」藤岡拓太郎 より)

【甲板】で「寝てる猫」という配置のあとにこの言葉が来ることによって、浮かぶ「小さい頃」と「何になりたかった?」がフレッシュな絵柄なそれになっていることに驚きがありました。この未来はこの未来でよかったんじゃない、の声か(声)が、大洋の時間に無理なく響く感じ。ひるがえって、冒頭の【だってほら】がそういった気分を分厚く肯定してくれてもいる。


腰痛の蔓延によりロボットが力仕事を任されました/涸れ井戸


「AIに仕事を奪われる」みたいな言説のある時代の空気をそのまま…短歌の着想になだれこませて作ってあるんですけど、「ロボットが」の位置のためか言い方がちょっとガコッと変になってますね。いい悪いでいうと良い・・・ほうの違和感ですかね。一瞬、人間&ロボットの世界、でなくロボットしかいない世界での序列みたいな書き方になってる。なんか水分の無い言い方すると、知識労働と肉体労働のちがい、みたいなね。


お祭りの準備で余ったパンの耳沢山もらって柵の中です/おいしいピーマン


「です」にちょっと時間が余っての苦肉の策、を感じました。なんか動物にあげてる、感じにとったんですけど。最後の「です」抜きで、お祭り→大量のパン→柵の中 的な「パンはずっと無言で、今柵の中にある」みたいな冷たさに振ったほうがこの顛末には映えるのかも…という感想です。

つぎつぎに産まれてヒナがつづら折りになっている 「もう一度見る」押す/沢茱萸


こちらも

飛行機がふたつに折れる 巻き戻し ひとつに戻る スロー再生 / 木下龍也

の「飛行機」と「つづら折りのヒナ」とで人気投票が行われた結果「飛行機のほうがいいな」と思いました。「スターウォーズとダウンタウン両方が好きな人はいない」「だいたいどっちかに疎い」という好きな言い回しがあるんですけど、「鳥のヒナ」と「折れる飛行機」同じくらい好きな人って短歌にいるのかな、とちょっと気まずくなりました。これは、この二つだけの問題じゃなく、沢さんのような作者に、たいへんな徒労をさせているだけのような気がしてきた。引き続き、どうしよう。


今回もフォーム送信をありがとうございました。


・月の末日までに届いたどれかへ1首評を書き、翌月の3日にこちらのnoteへアップいたします。

・引用された短歌は既発表作扱いとなります。
(新人賞応募作品等に組み込めなくなります)

・投稿歌・投稿者に関して、文章以外の形で喧伝・口外することはありません。

・短歌内の「 」(半角スペース)は適宜 全角スペースに変更します。(半角のほうがいいかたは、名前の欄に()で記載してください。)

伊舎堂 仁(TWi ID:@hito_genom)