呂布カルマとMOL53



【SPOTLIGHT 2018】のDVDを観終わって、RAWAXXX戦の呂布カルマ、これよく勝てたなー!となっている。

過去にも【戦極MCバトル】12章のPONY、 Kz戦でやっていて、これは発明だ!くらいに思った「相手のラップ中に自分のマイクをスタンドに戻す」という同じ動作も、RAWAXXXからの「お前それ裏取れんの」「(俺に膨大な借金があるということを)誰から聞いたのか言えよ」という追及から逃げ出そうとする…ためのそれに見えてしまったように思う。

ROUND3のバトルビート「合法的トビ方ノススメ」に対しても、途中で音が一瞬抜けるやりにくそうな曲だったとは言え、自分のバースを余らせてる場面があったりと、会話の「バトル」のみならずノり心地・聴き心地においても危ういところは多く感じられた。でもDVDの最後「REAL GOLD」に乗せてウィンニングラップをしているのは呂布カルマで、ジャッジの際の雰囲気を見てみたいと思った。自分だったら声はどこで出てしまったのだろう、と。やはり現場で観るべきだ。もう取り返しがつかない。

……とは言っても、耳に気持ちの良い箇所は呂布のほうに多い。最終盤の「昨年は裂固(れっこ)相手にエラそうなことぶち抜いていたが 俺の前じゃボロはがれすぎ 嘘ばっかのMC 結果出ねぇ」「鉄の心臓 見てるとこ 別のとこ お前はいつまでもここ」と駆け抜けるところなんかは聴いててほんとうにスリリングだった。

これはべつに呂布の即興からのみ受けとれる快感というわけではないけど(というかこのゾーンに肉声が達するための手続きや祈りとしてラップバトルはあると思ってる)、思考や感情を、韻やフロウにまでがんばって「こしらえて」出てきたのが今のラップなんだな、と感じることが呂布の即興にはほとんど無い。上に太字で引用した箇所に顕著だけど、歩こうとした海が割れていくように、言葉 言葉が言ってみたその先で勝手に韻になってくれたような気持ちよさが呂布のラップにはある。

こういう〈ぜんぜんがんばってないように見えるすごいこと〉にはたいていその枠(わく)、そのジャンルに捧げられた膨大な時間があるものだけど、これを試しに「努力」と呼んでみると違ってしまう、ところにも呂布カルマの魅力はある。ラップへの愛、とかだともっとズレそうだ。らっぷへのあい ですかとなる。「自分は初めからラップが上手かった」という呂布カルマの発言を僕は鵜呑みにしてみている。


その中で遊びつづけると着いてしまうだだっ広い場所のこと。


それぞれの従事先のジャンルにおける「自由」のこと。


上に貼りつけた動画はROUND1のもので、DVDではこの後 生々しいぶつかり合いのROUND2を経て、3ROUND目に続く。その最終盤、(借金の件を誰から聞いたのか言えと言われ、言わない)呂布の「自分の胸に手を当てて考えればいいだろ」のところでカメラアングルが2人の足元から2人を見上げるものに切り替わるんですけど、そのときのRAWAXXXが呂布へ指をさす一瞬の「二人が生きてる」感がすごくて泣きそうになるので、ぜひぜひ確認されたい。


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引き続き、【UMB(Ultimate MC Battle)】の2016を観る。何回も観てしまうDVDだ。この大会でもMOL53(RAWAXXX)はヤングたかじん(呂布カルマ)と当たっているのだが、この前 豊洲であったKOKの決勝までも含め、このカードはどうも毎回パキッとしない後味を残して終わるなぁ…と思う。好きなMCどうしだから、それが気になる。

お互いへあたるまでに、

ふぁんく戦
(サイファー、ギャグラップの否定(ってか「一蹴」っていうか)によるラップの「楽しい」「明るい」要素への冷や水)

ストライダー戦
(過去戦の自分のバースのセルフサンプリング(「誰やねん、お前」)によりローコストに格好いい「賢さ」の提示)

BOBO戦
(人前で言うのがはばかられること(性器の名称)も軽く言える自分のプレゼン)

MAC-T戦
(相手のレペゼンしている地元ごと「岐阜のシーン、誰も興味ねえ」と断ち切る残酷性の提示)(これはふぁんく戦においての「サイファーを楽しむ人たち=ジャンルの裾野の人たち」へのそれ、ともニュアンスを共にする)

という戦況を重ねてMOL53と相対したヤングたかじん(呂布カルマ)と比べ、ヤングたかじん戦までのMOL53がMAVEL → BoZ →ウジミツ→Siva と劣った試合を重ねていたとは思わない。(後述するが、むしろその逆だと思う)

観客が勝敗を決めるトーナメントにおいて、ジャッジのための歓声は勝敗の決定という「批評」を飛び越えて次の試合もあなたを見たい…という「欲望」も時に呼び込んでしまうという点において、穴が多い方法だと思う。ざっくり二種類に分けて「おもしろいことを言う」か「聴き心地がいいラップをする」ことで観客をリピーター化させたMCは本当に負けなくなる。そこを念頭に置いて振り返ると、

MAVEL  戦
(先攻での「今年は俺にまかせな」の大見得、より今大会における自身の主人公化の成功)(前年に姿を消していたMOL53(※1)にとって、今大会は復帰戦のニュアンスを纏わされるものでもあったはずだ)

 BoZ 戦
(洒脱なオフィスカジュアルに身を包むサラリーマンラッパー、というBoZのキャラクター性への「このマイク持つ意味 こいつとは違ぇ 人生賭けてる なめんじゃねぇ」という咆哮(の成功)による、「HIPHOP 以外に逃げ場のある者」の価値を認めない、というテーマ設定(の成功))

ウジミツ 戦
(闇金ウシジマくんの格好でバトルをする というアイディア、それがアリにしていたファンタジー性の無効化(ウジミツ「ア~イ 勝手に殺してください 俺は死体になったあとウジがわきウジミツとなり復活しますから そしてあなたの首 掻っ切りますから」MOL53死んだらお前は終わり 人生はそこまで くだらねぇ、その話」)。BoZ 戦から続くテーマ設定(の結実) )

と戦ってきたこの大会のMOL53には、【ローコストに格好よく】【冷えた】【残酷性】で勝ってきた呂布カルマには無い「熱量」があって本当に強く見えた。

熱量。

バイブス。

これを意地悪く「がんばってる感じ」と言い換えてみる。ラップバトルを追いかけていると、この「がんばってる感じ」と「それ以外の方法論をとる者」のバーサスに立ち会うことが多い、と思う。

前者のタイプの筆頭に晋平太が、後者のグループにカリスマ性の呂布カルマ・アイディアのMC松島・奇襲攻撃のハハノシキュウがいると一旦分類するとして、後者のグル―プのラッパーがこういった大きな規模の大会でトップになることの難しさにはその都度歯がゆい思いを持つ。今語っているUMBだって「がんばってる感じ」の極北であり、その絶頂期にあったNAIKA MCが呂布カルマを負かして王者になる回なのだ。

熱量に、バイブスに、「がんばってる感じ」に説得されたくないなぁと思う。

「自分がおもしろいと思う芸人のお笑いが、自分のできるタイプのお笑い」という島田紳助の言葉を多ジャンルから拝借し、半ば強引に結びつけるとすれば、バトル中のラッパーの「がんばってる感じ」に観客が心を動かされるときそこに見ているのは、「自分は」こう生きれるか、自分の人生を善きものへ運ぶためには「こう」すればよいのか‥‥のロールモデルなのではないかと思うことがある。

才能やアイディア、奇襲を人生に組み込まずとも、

真面目に働いて 朝から汗水を垂らして マイクも掴んでる おめぇみてえにラップで食えてねぇ 家族も養えてる だからこそリスペクトをしっかりと送るぜ うらやましい人生だと思うよ 好きなこともやれて そのうえで音源も売れて 有名にもなれて テレビにも出れて まだ先 だからこそ言えることがあると俺は信じてるぜ 

(「GOTIT vs 呂布カルマLABMCBATTLE 2016.12.29」GOTITのバース)

と人前で言えるだけで凄いと思う。自分なら言えないし。でもどこかがやっぱり引っかかる。異形、としてのラッパーが、それだけではクリアできない対象へ「がんばってる感じ」「バイブス」「熱量」を掛け算し、さらに奇形化していく状態(※2)とはまた違った「がんばっている」の駆動するステージをおぞましいと思う。


…MOL53はどう違ったか。

イキっててもお前の目ぇ見りゃ分かるよザコだってことがなUMB2016 お待ちどうさん まぁ今年は俺に任せな all fire spit! このライムに間違いなし ずっと100% 俺が直送するぜ 沖縄代表?誰だか知らねぇ 
音楽性で俺に勝てねぇから 昨年パクられたことをネタに俺に勝とうとしてやがるぜくそマリオネット興味ねぇぇぇぇ 燃やしてしまってゴミ箱行きだぜ まぁ、一回戦 ザコは踏んじまってしょうがねぇ 他にいるやつと何も変わらねえ 俺は個性 オリジナル 底無しだ 

(1回戦 MAVEL戦 MOL53バース)

ok, はじけとんだバブル 炭酸みたいにお前は消えてなくなったよ 興味ねぇな どこ代表? リーマン? さっさとがんばって働いてくれよ このマイクを持つおれのジョブの理由 お前とは違う それが自由 マイクを持ってる 誰が基準 俺が塗り替えてやるぜ今日じゅう 
あっそう おまえはタイタニック 沈んで終わりさ R.I.P このマイクを持つ意味 お前とは違ぇ 人生賭けてるなめんじゃねぇリーマンだろ?営業、頭を下げてりゃええほう 俺はメイクマニー マイカフォン マス対コア 今日はこれを狙うぞ 

(2回戦 BoZ戦 MOL53バース)

首につながったチェーン 誰かに飼われてるドッグには興味がねえ、俺は俺だけ 自分の道のりを信じてマイクをつかんだぜ sky the limit, あいつが教えてくれたマイクの持ち方 こいつの殺しかた誰が相手でも変わらねえ俺は俺のままでぶつかるだけ 
死んだらお前は終わり 人生はそこまでくだらねぇ その話 こういう奴が勝ち上がるMCバトルはくたばりなおれはそいつをブチ壊してぇ お前みたいなザコが踏み台だぜ hiphopのカルチャーを汚すんじゃねぇ 
わかった お前はおれの影になれ でもお前のラップじゃ 俺は踊れねえ でも逆に言うとお前は俺の影になって一切俺には追いつけねぇ 草の話とか ドラッグの話とか もううんざりだ それでしかおめぇは俺をディスれねぇ 死んだほうがマシだぜ 
は、 ウシジマくんだもんな くだらねぇギャグ スニーカーも汚れてねぇ ストリートを知らねえやつ そういうやつがマイクを持って何を喋る 俺には伝わらん 客をアゲることに必死になって お前はスタンスに躍らせれてるだけ 見えない糸が釣り上がってるみたいで (???聞き取れず  ハサミで糸を切るジェスチャーをするMOL53)そいつをちょん切ってやるぜ

(3回戦 MAVEL戦 MOL53バース)


書き起こしながらつくづく感じるのは、「怒り続ける」ことの凄みと、比喩表現の「おみやげ」感だ。ステージ上での即興=なんでも言ってしまえる というわけではなく、むしろ強く「自分」から離れられないやりとりの言葉に混じる「はじけとんだバブル」「炭酸みたいに消えてなくなったよ」の開放感といったら。「今ここ」から遠いもの/言葉、として冒頭の呂布カルマは「RAWAXXXの借金」を、MAVEL・ウジミツは「MOL53の警察沙汰」を持ち込んだわけだが、「攻撃」としてはあまりに正しいそれらの選択に、意味内容としては「お前は下らないことを言っている」と怒る…という反撃だけでここまで魅せられる、ことに感動してしまう。

各試合において、観客へのおみやげ…的に提示される「賢さ」と「残酷性」のわかりやすいヤングたかじん(呂布カルマ)のふぁんく→ストライダー→MAC-T戦と違って、53は愚直なまでに「怒り」だけで熱さをキープし続け、そしてそれが呂布の試合内容を印象として上回っているということに純粋な驚きがある。

ラスト1本 お前は消えた 山手線 各駅停車 俺は快速 お前を抜いていく 鈍行MC くたばれ Mother fucker! やりたいこと 無いやつはこれを握ってみろ(マイクを叩く)一夜でヒーローになれるぞ 俺が塗り替えるだろ

(4回戦 Siva戦 MOL53バース)

この試合においてもはや怒りは後景化し、電車、を比喩表現の具に「速さ」という快感へ繋げたあと、ラッパーというロールモデルの分かりやすい提示まで観客にしてくれているわけで、ここまで見事に主人公として振舞えたラッパーが、どうして次のヤングたかじん戦においては「もっとあなたを見たい」の歓声を得ることができなかったのか…と首をかしげながら、その「見事さ」こそが敗退の理由となったのかもしれない、とも思う。きっとあまりにも決勝でやるような試合を、ひとあし早い段階で見せてしまったのがこの年のMOL53だったのだ、と結論づけている。


ヤングたかじん(呂布カルマ): まぁざっと見渡してみたところで俺の相手つとまりそうなのお前ぐらい でもみんな言うよな 大麻の話題 しかたない もう開けたのかよ執行猶予は 悪いことすんなとは言わねえがせめて上手くやろうぜ ラップと一緒だよ しみたれったツラしてんじゃねぇ、お前いつまで経ったってアングラ 
MOL53: やっぱお前何回聞いてもヤバい …とか言わせないしクソださいし説教くさい お前の言葉聞いても俺は ここのこと踊れない a-ha? beats & rhyme、分かる? お前のメッセージしつこくない? だって揚げ足ばっか取るだけ それしか出来ねぇザコは消えとけ 
ヤングたかじん: 一回いっても伝わんねえから何回も言うんだろ おめぇもたいがい学ばねぇやつ いつまでも泥 啜ってやってんのかヒップホップ バトルもたいがい来るとこまで来た その先を見せねぇとしょうがねえ アングラおおいにけっこう それ勝手にやってろ ここから先の世界にお前は必要ない 
MOL53:あ、そうですか そうですわねー 俺はテレビに出ない お前はテレビに出てチェケラそれ笑えない アングラは語らせない これ汚させない …いやいやいや、ほんとなんすよ 四大要素はお前から感じねぇ なんだよその古着屋で買ったみてぇな安っぽい服 それでタレント気取ってる  笑わせんじゃねぇ 
ヤングたかじん: かんべんしてくれよ 毛玉だらけのトレーナー着てるやつに言われたかないぜ つま先からつむじまでなってねぇ お前アングラ勝手にやってろ 俺も10何年もう飽きるくらいやってきたよアングラ 本物のMCはラップする場所を選ばない テレビだろうが武道館だろうが何処でだってやってやるよ お前は下水道でやってろ 
MOL53: (?聞き取れず)ってるからな、お前は客に目線を合わせてるだけ 「呂布カルマ!」「呂布カルマ!」「呂布カルマ!」 宗教みたいでMother fucker  …いやいや、そうなんすよ?お前は目線を合わせてカルマを演じる 俺は自分自身 化けの皮を剥がす ヤングたかじんここで終わり 
ヤングたかじん:しつけーな、 そうだよ「ヤングたかじん」、誰も「呂布カルマ!」とか言ってねぇから お前、燃えるゴミ いつまで経っても燃え残ってる 俺が低温で骨からじっくり焼いてやる 灰にしてフッと吹いてやる お前Highになんの好きだろ 現実逃避してろ 俺は現実も手ばなさねぇ 無くすもんもねぇ 全部つかむんだよ
 MOL53: 無くすもんがねぇのか 俺は無くすものがありすぎて大事にやりすぎちゃったなこれは心臓に行く(?)ゲームじゃねぇんだ 綱渡りだ あ?こっち見んなよ 小言がうるせえな こういう小言を使って俺に勝つそして前の試合でライムを考える こっちに来い? お前がこっちを見てる その時点でお前の負け確定してる

(5回戦 ヤングたかじん vs MOL53  全バース)


「大麻の話題」に前置く「でもみんな言うよな 」と、直後の「しかたない」で、訊かざるをえなさ…をニュアンスとして立ち上げて「ベタな話題選択の本意でなさ」を言う冒頭から、呂布の戦いの上手さが出ていると思う。しかもこれによって、MAVEL戦・ウジミツ戦では「怒り」で跳ね返すことで得られていたMOL53の主人公感、をもう一回「やり直させる」。(※3)

観客を自分の信者化させることによって得ている勝ちがあり、お前の人気は実質を伴っていない…と攻撃したMOL53に対して4バース目の「そうだよ」が「呂布カルマ!とは呼ばれていない」と気づき、嬉しそうな言い方になってしまったあたりに呂布の一瞬の揺れが見えたような気がする‥‥うえで、観客の歓声はヤングたかじんを勝者にする。

かくして決勝では、めちゃくちゃ決勝戦っぽいNAIKA MCvsヤングたかじんが行われる。そちらはそちらで、ここではちっとも引用しないので、各自自力で確認されたい。僕は一番、繰り返し観たバトルかもしれないです。




※1

このnoteで触れる大会中における対戦相手の発言や、https://twitter.com/sengokumc/status/680285376099962881 などの公式ツイートからの推測により2015年のMOL53氏へ法的機関による何らかの介入があった、という前提・推定で本noteは書かれています。

※2
年末のR-指定 vs 呂布カルマのこの一幕も興味深い。ラッパーが作り上げた方法論のみでは勝てない相手に対する、「奇形化」という充実

「フリースタイルダンジョン」2代目モンスター就任後の呂布カルマのスタイルの多様化を考えるヒントにあたるバースと考えます

※3

この「同じ話題を何度も立ち上げる」という戦法は、呂布カルマ自身も後に「フリースタイルダンジョン」のチャレンジャーとして登場した回において、(おそらくDOTAMAの作戦により)「言葉の重み」という過去の発言の揶揄、への反論、をT-pablow→DOTAMA→R-指定と立て続けに「やり直し」させられる、という形で喰らっている