チンさん



■短期の仕事の社員寮はレオパレスで、水道と寮費が無料らしい。お湯を浴槽に張り放題だ。座り仕事なので嬉しい

電気+ガス代のみ、自分で支払い。あとあと投函される明細をこのローソン



に持っていく。

お風呂場の照明ボタンの横に換気スイッチがあり、ゆうべ生まれて初めて浴室乾燥をした。千原せいじがやってたやつ。浴室乾燥。部屋の窓枠に干してたら臭くなってきたから、それが続くよりかはまだ‥‥くらいでやってみたらちゃんと乾いてて感動している。


レオパレスは退去の時めちゃくちゃクリーニング代をとられることで有名なのに、投函されていた「ブランド品 買います」のミニチラシが夜 ビショビショになって朝 凍る、を繰り返す玄関ドアの結露にがっちり貼りついていてシールタトゥーみたいになってる。こすってもこすっても、爪の間がカラフルになるだけ。そのうち口笛 吹きながらスカッチブライトでこするつもりなんだけど、これで落ちなかったら不愉快だ。その会社の電話番号が書いてないか、こびりついてるチラシの部分に探す。 無い

■2/5に山梨の寮に入り、9日に一回 国分寺の部屋に戻ってきた。向こうが出ていくらしくてチンさんとの同居が終わるから、でかいゴミとか捨てられてないかを見に来たんだけど(ウォンさんのときは布団が捨てられてた)、退去は前日の2/8だったとのことで、トイレの、窓の外から手を入れたら取れるところに鍵が置いてあった。トランクケースとボストンバッグを三和土に放って向こうの部屋に一直線に向かうと、色と型の全てちがうハンガーが大量に。
向こうの食器が一枚も減ってなく。
壊れてる黒い扇風機が。
で布団一式の置かれたままだった。

あとあいてる砂糖の袋とかがけっこうくる。カッチカチで

ウォンさんの布団のときはLINEアカウント「王」に〈もうしわけないけど捨ててください の一言くらいないのか〉〈お前〉と送って、そしたらウォンさんじゃなく義姉から着信があった。一瞬あきらめてしまいがちだけど、布ゴミの日を過ぎていてもふとんは、音楽でも聴きながらハサミでばらばらに刻めば燃えるゴミの袋に充分 入る。おれは埼玉から地元に戻るときにそれでだいぶ処分できたし、そのためのハサミならぜんぜん貸した……というところまでで今 ウォンさんのほう、に〈さびないステンレス〉バサミを貸したままなことを思い出した。セブンイレブンで買ったやつ。中国に持って帰ったのだろうか。

ウォンさんは何月から来てたんだろう。8月に出て行って、同じ日にチンさんが来た。あくまで体感だけど、ハイタッチでシェアハウス相手の変わる瞬間を見れる人生はうれしい。平時はいい人なんだけど(と書いておいてあしざまに言う、話法をとるけど)、「家にいるときでも、玄関のカギはかけておいてください」や「ラップをしない状態で、食べた納豆を冷蔵庫に入れないでください」などの申し出がいまいちずっと受け入れられなかった。「はい、」「はい、」とは言う。でもまたそのうちに、部屋でシュークリームを食べていると豆から引く糸…を思い出すにおいが立ち上ってきたりするのが続いたから、義姉にまとめてその旨をLINEするとその日の夜には玄関を施錠して寝ていたりする反映速度がこんどは不満だった。帰ってきたら見てわかる、のに毎月

送って来るのは最後らへんはもう笑ってたので楽しみだった。

2/1〜2/8 の分の向こうの光熱費を取りたいから次 東京に帰ったら玄関に落ちてると思う明細をもとに ÷ 4してLINEで請求するつもりだけど、僕はこれ既読がつかないと思う。

別にきれい好きな人間ではない。自分が軽んじられてる、状態にたいして凄く敏感で、その怒りだけで半年間 きれいな状態を徹底的にキープできた。「へんにしてるのはそちらのほう」な空気を作っていたわけだが、効果があったのかどうかというとほとんど無かったと思う。年明けまでかたくなにLINEを「やってない」と教えてくれなかったので、「トイレのドアの開く軌道にスリッパを脱ぐのはやめましょう」とかを書いたA 4 用紙をマステでドアに貼ったりしてたら、「チンさんが仁に、尊敬されていないと怒っている」とあるとき義姉からきかされて、尊敬……………と思った。

「尊敬」、って怖くないですか?


チンさんがいなくなることで、家賃負担分が増える。8時半~15時半の仕事でよゆうをかましてる場合じゃなくなるわけだけど、山梨に来て工場で働いていたらもともとそうだった、の「もともと」にすぐ戻れた。9日の深夜に、ハンガーや布団をゴミに出す作業を進めながら、ついでに自分の部屋の紙ゴミの掃除をしていたら、短歌の下書きと下書きとのあいだに「帰ったら遊びに行ける仕事」とメモがあって、

ザコが、と思った。


■2/5に山梨のレオパレスに着き、2/6は「2/7の集合時間を知らせる電話がくるまで待っててください」でレオパレス、それから2/7に忍野村生涯学習センターで説明会があった。

富士吉田市は2008年の、大磯プリンスホテルで住み込みの仕事をしていた6~9月の閑散期…に三日間休みをもらった日に樹海を歩いてみたい、と来た日から10年ぶりの再訪になった。富士吉田駅(現在は「富士山駅」に改名されている)から通りに出たところにある、富士山を臨む大きな鳥居も、山を背中にそびえる二階建てのブックオフも健在で、大学に帰ったあとこのブックオフで、激レアになっているらしい『オーデュボンの祈り』(伊坂幸太郎)のハードカバー版を見たという嘘を、それを教えてくれた安藤くんについた。


生涯学習センターの研修室Aでは他の就業予定者と、派遣先の企業のグランドルール(無断欠勤だけはしない)を強めに叩き込まれたあと安全靴をもらったり、10枚くらいの必要書類にせぇので印鑑を押す時間を設けられた。隣にすわっていたクボさんが、配られた安全靴の箱を、そう置くと倒れやすくなる面…を底にして机に置き書類記入をしてたので嫌な予感がしていたのだが、案の定 住民票などの持参書類の一式を忘れていたことを席まで尋ねに来た社員に(保証人の欄は)妹にもらうつもりでいるから‥‥や3月の×日?か××日?に一度家まで戻って、休みをとってくれる予定の妹と取りに行く…やらを、「妹」とかから言うからだと思う妙に疲れる、進行の止め方をしていた。

僕もそうだし、とにかく手持ちも残高もないという人が来るのが住み込みの仕事なので、『新生活応援セット』というのを用意してます。と研修の社員が言って西友の8円のほうくらいのでかいビニールを見せて「ざっと1週間ぶんの食品が入ってます」インスタントの簡単なものですが、と言った。

だいたい3000円相当のものになりますがこれを希望者に配布します、に前の席の(「なにか質問ある人いますか、」の全回で質問するタイプの髪のべたっとした)おじいさんが割り込んで挙手をしてきて、「それならほしいけど「べつに生活費ないわけじゃなくて「買う店が周りにないからほしいんだよね、」と言ってチェックをつけさせたあと、「ーー応援セットの代金は初月の給料から天引きになりまして、」と説明を再開した社員に「なぁにそれ、」

「そんなんならいらない」

「いらない」

「いらない、」

と空中で手を振るおじいさんの後ろで、なんか散髪に行きたくなった。

説明会が終わるとそのまま就業先の会社に連れていかれて、明日から使うことになる送迎バスで帰ってきてくださいとおろされた。17:25になると がやがやと乗って来る退勤の作業者たちのなか私服の何名かでまぎれていて、こういう誰でも初回はくらうんだろう・ちょっとだけ嫌なやつ、って新しい職場で働きだす感じがするなあ、と浸っていた。

■とにかく朝が寒い。送迎バスの乗り場で何分間か待つ時間がきびしい。マイナス4℃らしい。

仕事は、ロボットの内部のコイルの銅線を手で巻くもので、

こういう状態でラインに流れてくるコイルに、赤色や青色など、合わせて6~10色くらいパターンがあるゴムチューブで絶縁させたもの

を真ん中でまとめてインシュロックで一本にする作業をしている。

描いたものはまぁ、まだできる方のコイルのやつなんだけど、上のやつの青いところも赤い色のもの、と考えて赤の胴線Aが通るべきチューブに青色Aを「青だという事を頭の中でイメージした」赤色チューブCを入れる…というこうやって書いてみても伝わらなそうなあんばいのすごい、「青を赤という事にして」する、パターンのコイルを巻くのがいちばんむずかしくて、ちょっと泣きそうになったりしている。
40分くらいかけた作業を一瞬で「…あ 直しだね、」と言われることが午前中じゅう続いたりするとけっこうくるものなのだ。HINOに2年働けていたというものの、握力を低めに申告したことで配属された検査の楽な業務だったし、こういう連続が工場なんだと思い知るのは山梨で初めてになる。

お昼休憩は12:15~13:00までで、携帯電話の持ち込みがこのときの食堂でしか許されていないのでメールの返信などはここでする。精密機械を扱っている工場はこういうところで締め付けるということなのだが、トラックを作っている場所とちがって構内を走ったり、ipodを聴きながら食堂に向かってはよかったりというところは新鮮だ。『応援セット』を希望しなかったことで夜レオパレスに帰っても食べるものが牛乳かりんとうとかなので、お昼をけっこう多めにとると午後から眠くなるのがつらいところだ。4人掛けの丸テーブルがたくさんたくさんあって、とうぜん相席なのだが最初の一週間は、そうすることにしているのか、さっきまで自分に指示を出していた社員2人が向かいの席に座ってきて、でも世間話とかをしてくるわけでもなく無言、という時間に潰されそうだったので、すでに3人座ってるテーブルを見つけるのはちょっと早くなったかもしれない。

定食を乗せたお盆を持って給茶機に並ぶと、食事中 新たに汲みにいくのが面倒なのか、最前列で湯のみ3つにお茶を注いでるおばさんで長蛇になっていて、んだよ、と先頭を覗き込むとクボさんだった。

ここでは いけたら、5月まで働く。

ここに来てすぐの頃ネットで、今は自宅を留守にしている旨の文章を書くといろいろとやばいみたいな記事を読んで、書くのが怖かった。(変なものをポストに投函しておいて、SNSで投稿させることでアカウントと自宅を紐付けさせる、やつ)週末には帰るからな。馬鹿が。

レトルトカレーのパウチを、菜箸ではさんでツイ~っとして中身絞り出すやつやってたら、親指の腹をパウチのサイドで切る。