洋食の回


いろいろを「短歌」で考えて、やたらめったらに「短歌」読んでると、こんなに人間って種類少なかったっけ と目玉が澱んでくるわけで、家に着くまでに一つはコンビニがあり、成人式の前撮りってしたほうがいいかネットで呟いてみたり、それに話しかけられたり、枕元を開けたら入ってたアパホテルの社長の本をいじらされる国に生きてて「すごくなる」のなんてとうてい無理なんじゃないか。と、短歌ばっかり読んでるくせに短歌が好きではない時期、におちる地獄の話ですけど、詠まれてる素材とか、発想を飛ばす角度とかのその前に、「短歌」というマイクでしゃべったときに声が得てしまう「ボリューム」や、結婚式なら結婚スピーチてきな定型、の「口調」に問題を見ることもできるのかもしれないな。と7月に総合誌 結社誌 歌集 そしてメールフォームにいただいた短歌 のどれとどれとどれに、というでもなく読んでたら思ったんですね。例を一組だけあげると、これらの歌どうしは、テンションも扱ってる素材も全くちがうのに、僕には「ボリューム」と「口調」が同じに聞こえる


あの夏の数かぎりなきそしてまたたつたひとつの表情をせよ/小野茂樹
私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない/田中有芽子


困った


初審さんが送ってくれた一首を読んだ時に僕が得られた「息のしやすさ」は、ひとまずはたぶんこのようなボリュームと口調の「声」が短歌ではあまり触れられないタイプのものだったから というのがある


半角英数、洋食を組み合わせてご入力下さい munieru0141 /初審


この歌を好きな気持ちを、増しも減じもせずにあなたに伝えられたらうれしいだろうなと思う。昔の童話とか読んでると、(神に許されたりしての)喜びで胸が張り裂けて 死ぬ主人公がけっこう出てくる 喜びで胸が張り裂けて 死なないくらいは嬉しいと思う

短歌の中に「書かれてある」「置かれている」言葉でありながら、この歌からは初審さんの声が聞こえてこない。聞かなくてもなにかをおもうことを許してくれるというか。それが得難い。続く【munieru0141】に「従うのかよ」を、 「で ムニエルかよ」を思うとき (結局最後まで読んでも初審さんの「声」は聞こえなかった)(「聞こえなかった」ということは、うっかり思い出してしまう「似た声」もないということだ)、

鼻の通りがス~っとよくなる。ありがとうございました。


スリッパを燃えるゴミにして出て行く日 ガパオライスのすずしい刺激/いわまむかし


・自分が簡単な何かをしたことで、遠くで大きな何かが起きる (ex:リモコンで、向かいの家のTVのチャンネルが変わる)

・きびしい条件下で幸せなことをする(ex:こたつでアイス)

みたいな、詩であれ詩の外であれ「それが起きている」と問答無用で気持ちいい・・・なんていうんでしょうかねこういうの、力学?って、いくつかあって、

・いろいろあってゼロになる

もそのうちの1つだよなぁ、と一首を読んだときに思いました。自分はやったことないですけど、便器を拭いたあとそのまま水洗で流せる掃除シートとか、CMで見てるだけでも気持ちいいですもんね。「引っ越しによって消えてしまう物事」や「変わるこれから」、「捨てれる残酷さ(を、選び取れる「わたし」)」「『ガパオライス』という外食巧者(こうしゃ)になるまでのこの人の人生のステップ」みたいな声には完全に耳を貸さず読んだとしても、この【スリッパを~出て行く日】の「ゼロにする」には抗えない気持ちよさがある。自分はやったことないですけど、短歌で読んでるだけでも気持ちいいですもんね。

ならなんで今回の題が「スリッパの回」ではないのかというと、この「ゼロにした」あと【ガパオライス】に続いたことで生じてしまった〈別の気持ちよさへの接続〉・・・・・生活を列挙していく喜び、描写することでついてしまったスピード、が【スリッパを】の魅力を、その一首の中で終わらせれてくれなかったから、とでもいうかですね。もっと列挙してほしくなっちゃって、でも列挙すると行分けの散文詩に近くなっちゃって、果てはこの主体の撮ってアップしてる常備菜とか(タッパーで9個くらい)まで見たくなった、常備菜まで見てやっと「一首だ」と思いたくなったというか。でも常備菜まで載せたら短歌じゃなくなりますもんね。


灯さずにゐる室内に雷させば雷が彫りたる一瞬の壜/小原奈実


脈絡なく引きますけど、こういった歌は一首の中で「終わらせれている」度が高いなぁ、とか思います。


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「そんなことするためにお母さんからもらった右手じゃないだろ」涙がNOだったらうれしいな/平出奔


見かける歌のほとんどすべてに「山っ気」というか、「球を遠くに飛ばそう」の意気を感じる詠み手なうえで今は【当たるまで】期(き)なのかなぁ、という感想です。それは僕も、ひいては多くのプレイヤーが2019年夏現在に至るまでにもしてきたスウィングなため、ピッチャーや観客の目もきびしいというか・・・


ふたりともクジを一回ずつ引いてそこそことまあまあを貰った/橙田千尋


「書かれてあることが僕には歪んで届いてる心配 が無いから読みと好みに集中できる」歌を今月も読めて、「おお」となりました。


ぬけ出せぬ微熱のからだもつきょうのきみをキノコで占ってあげよう/沢茱萸


「キノコ」がスーパーマリオとかディズニーとかエイゴリアンの絵柄でのそれじゃなく、実写まではいかないけど、皺とか入ってるリアルな絵柄のやつで思い浮かんで、連作だとしたら次の歌でちゃんと「占って」きそうなところが、沢さんがもう手にいれてる色なんだろうと思います。「きみ」と「微熱」に興味が持てないのは、僕がまだ地獄にいるからです。


クーラーがつぶれておっちゃんにラインした助言に従いクーラー直る/涸れ井戸


直ってよかった。でも「直ってよかった」は短歌ではなく、現実世界に属する、そこでの誰かと語ることや時間において生じる、価値だと思います。


正解は微笑みの爆弾でした 痰絡む咳でイントロクイズ/おいしいピーマン


微笑みの爆/弾でした の句またがりきもちよかったです。


三日月と言い切ることができなくて主任以上に偉くなれない/戸似田一郎


自分の職場で思い浮かべてみたら、主任は3人いたのに、係長は1人しか顔が出なかったので、「主任以上」は大変なことなんだろうなと思いました。


湘南と思ってしまう点滅をしている光ある場所すべて/シロソウスキー


「すべて」や「全部」「全員」という語句を含む歌が多すぎて信用ができない最近の歌集でいうと「平和園に帰ろうよ」(小坂井大輔・書肆侃侃房)があります。


あかねさすきみのちんぽが入らない斜め下から覗くテレ東/坂中茱萸


もちあげたりもどされたりするふとももがみえる
せんぷうき
強でまわってる  /今橋愛『O脚の膝』


今回も、フォーム送信をしてくださいまして、ありがとうございました!


https://ws.formzu.net/fgen/S85982387/

・月の末日までに届いたどれかへ1首評を書き、翌月の2日にこちらのnoteへアップいたします。

・引用された短歌は既発表作扱いとなります。
(新人賞応募作品等に組み込めなくなります)

・投稿歌・投稿者に関して、文章以外の形で喧伝・口外することはありません。

伊舎堂 仁(TWi ID:@hito_genom)