ライトレス(アグネスタキオン)

 ウマ娘キャラソン解釈3番目。アグネスタキオンのライトレスです。また、今回もウマ娘のアグネスタキオンをアグネスタキオン、元となった実馬をアグネスタキオン号と呼びます。

 ライトレス。引っかかりますね。メジロドーベル、キングヘイローともに英語で書かれていました。アグネスタキオンのキャラソンも英語であるはずなのに、カタカナです。これは掛詞ととるのが自然でしょう。ライトレス。解釈はいくつか出来そうですが、パッと思いつくのはrightとlightから権利、正しさ、光。走る権利を失う。光を見失う。正しい道筋を見失う。想像ですが、このような意味が込められていそうです。

色のない夢を見てた
虚数が舞う無限のストーリー
浅い眠りを終えたら
行こうか

さあ順番だ
光速の先へ
もう空間は法則を超えて歪んでいくんだ
そう瞬間で永遠と対峙
始めてみようかプランB
すべてを解き明かして

 色のない夢は2通りに解釈できます。モノクロと透明。いくつかサイトを見ましたが、モノクロの夢は「正夢になる」「身体や精神の不調」といった意味があるようです。また、モノクロの夢を見やすいのは左脳(理論)タイプという説もあるみたいです。また、マンハッタンカフェとアグネスタキオンのイメージカラー(?)が白黒なのもあるかもしれませんね。白黒だけでも色々解釈ができそうです。ただ、前者の「正夢」というのはあんまり書いているサイトが少なかったので少し根拠に乏しいかも……。
 透明というのはガラスの脚から想像されます。また、夢占いでは洞察力や見通しのよさなんて意味もあるらしいです。

 虚数が舞う無限のストーリー。ここはその夢の内容ととれる続き方をしていますね。虚数も無限も数学の概念として存在します。ですが、身の回りの目に見えるもので虚数や無限であるものは殆ど存在しないといえます(もちろん理論や計算上虚数などを使用していることはあるでしょうが)。そう考えると先程の夢の話も「色を持たない透明」と解釈できるような気がします。虚数や無限は現実には存在しない、つまり色を持たないのですから。
 これは余談ですから飛ばしてくれて結構ですが、色とは何かという問いをプラトンは『メノン』の中で語らせていたと思います。棚から出してくるのが面倒なので、その説明をWikipediaのメノンのページから以下に引用します。

メノンに「色」の場合はどうなるかを問われ、ソクラテスは、エンペドクレスの「感覚は外物から流出した微粒子が感覚器官の孔から入って生ずる」という説を引き合いに出しつつ、「色」とは「その大きさが視覚に適合して感覚されるところの、形から発出される流出物である」という定義を提示する。メノンは、称讃する。ソクラテスは、今回の定義はものものしいので、メノンは気に入っているかもしれないが、自分は前の定義の方が優れていると思うと述べる。

 何が言いたいかと言うと、形を持たないものは色を持たないと『メノン』の中で解釈できるということです。虚数や無限というものは形を持たないので、この説明と透明の親和性は高いように感じます。

 浅い眠りを終えたら。これは夢を見ているというのは眠りが浅い状態という話でしょう。また、浅い眠りに留めておくほど忙しい状況というのもあるかもしれません。

 光速の先へ。これはアグネスタキオン号の由来となったタキオン粒子の話でしょう。
 もう空間は法則を超えて歪んでいくんだ。「法則」とはアインシュタインの相対性理論で語られている、光速を超えるものは存在しないというものだと思われます(余談です。光子は質量を持っておらず、質量を持つものは光速を超えられないのです。ちなみに、宇宙の広がる速度は光速より早いとされています。大学の先生に訊いてみたところ、文系に説明できるような平易な説明が難しいのか「原理が違う」と説明されました)。歪んでいく、というのは物体の移動速度が速いほどその物体は潰れて見えるという話かと思います。また、アインシュタインの有名な式、E=mc^2で語られているように物体の持つエネルギーは質量と同じように見ることができます。物体の質量はスポンジの上に玉を置くように空間を歪めていると一般に説明される(万有引力)ので、空間を歪めるとはそういう解釈もできそうです。
 すこし長くなったのでまとめると、法則は相対性理論を、空間を歪めるとは高速の物体が潰れて見えること、あるいはその物体が持つエネルギーによって空間が歪められる、と解釈できそうです。

 そう瞬間で永遠と対峙。これは瞬間と永遠で対比になっていますね。アグネスタキオン号の活躍はまさに瞬間。たった4戦での引退です。ですがアグネスタキオンはそんな自身の脚でも諦めずに走り続ける方法を模索する姿が育成ストーリーで描かれています。ただ、後ろでプランBと出ているのでここでは自身の瞬間性の自覚から実験を続けるためにはどうすればいいのか悩んでいると解釈する方が自然だと思います。

 始めてみようかプランB。プランB、というのはアグネスタキオンの育成ストーリーで語られていたものでしょう。アグネスタキオン自身ではなく他のウマ娘の能力を限界まで引き上げるものです。プランBによってウマ娘の限界へと辿り着こうか、と考えているようです。
 雑談ですが、プランBが他のウマ娘を実験台にすることっていうのがすごく好きなんですよね。普通本当に自分の脚がダメだと思っていたら、そっちがプランAになるはずだと思うんです。あくまで本計画は他のウマ娘を実験台にする方で、自分を実験台にするのはサブでしかない。だけどタキオンはそうではなく、プランAが自らを実験台にする方なんです。普段冷静なタキオンの諦めきれなさというか、泥臭い程の執着心みたいなものが見えて好きなんです。

解き明かして
さあハイファイな世界の先へ
超光速で視界はライトレス
もう曖昧な正解はないさ
すべてを解き明かして
何度だってやり直すよ
消えない光探して
君へといま手を伸ばした

 ハイファイとは「高再現度」といった意味があります。ハイファイな世界とは、史実に忠実なウマ娘の世界線を指しているようにも感じられますが、ウマ娘が歌っているのですから、こちらの世界こそが高再現度の世界と考えることもできるでしょう。そしてその世界の先とは4戦で引退することなく走り続けることだといえます。
 光速を超えると当然光を追い越しているわけですから目に入るものは闇です。光はありません。ここでタイトル「ライトレス」が"light less"となって回収されます。そして「もう曖昧な正解はないさ」と続いて"right less"となって回収されます。曖昧な正解はない、裏を返すと明確な正解はある。全てを解き明かしているからでしょうかね。
 何度だってやり直す、というのは試行錯誤を繰り返し続ける様を表しているように思います。消えない光とはここでは超光速のタキオンについてこれる存在を指しており、「君」へと手を伸ばします。

突然のエントロピー
夕日は影を落として
摩天楼の先の空燃やしていた

 エントロピーとは簡単に言うと「無秩序さ」です。エントロピー増大の法則なんかが有名だと思いますが、言っていることは時間が経つほどエネルギーはどこかへと散っていく(氷が融けて水になるように)ということです(分野によって正確な意味は変わったりしますが)。突然のエントロピーとは、これまで考えてきた堅実な計画(秩序)に対して突如生じた渇望(無秩序)のことかな、と思います。
夕日は影を落として〜。というのは情景描写に感じられます。夕日の、もう間もなく沈むしかない様子が心情を、そしてタキオンの脚を表しているのではないでしょうか。私の脚は、心は、どうしたいのか。
 摩天楼の先の空は(地面に)落ちた影と対比の関係といえます。地に足ついた計画か、理想に焦がれた計画か。いや、地に足ついた計画なんて捨ててしまえ。落ちた影という表現にはそんなイメージも抱きます。また夕日には熱があります(「あの夕日に向かって走れ!」みたいな)。情熱が計画を照らし焦がすのです。

見ないでいた秘密のプランA
整合性はとうに無関係
それでもいいさ
自分さえも法則を超えて
暴力的な数値を添えて
すべてを
暴き出すよ

暴き出すよ

 見ないでいたのは非現実的なプランA。タキオン自身がウマ娘の果てに臨むという理想じみた計画。それでもいい。どちらが可能性がより高いかなんて関係ない。この理想を、諦めきれない。
 脚の限界も、法則も超えて自ら限界へ。ジャングルポケットも、クロフネも、マンハッタンカフェも、全員を抑える数字で。
 もう誰かを観察して解き明かすなんて言わない。私が自ら暴き出す。

踏み出していこう
さあハイファイな世界の先へ
超光速で視界はライトレス
もう曖昧な正解はないさ
すべてを暴き出すよ
何度だってやり直すよ
消えない光探して
答えをいま私の足で

暴き出すよ
私の足で

 はじめの3行は先程説明した通りです。
 曖昧な正解ではなく、明確な答えを自分が暴き出す。そのためなら、何度だってやり直す。
 消えない光を探す。裏を返せば知っている光は全て消えてしまう(light less)。だから未知を探究し、消えない光を探す。この光は希望の光に似た意味でしょう。脚が壊れないという、希望の光。ウマ娘の限界へ辿り着くという、希望の光。そうした光を自らの足で探し出す。まさに暗中模索という表現がピッタリな感じです。答え(right:正しさ)を暴き出そうというのです。今はまだないのだから。

 以上、ライトレスの歌詞を見てきました。アグネスタキオン号の活躍からライトがレスな方向へ行くのかと一瞬思いましたが、ライトレスな世界から光を探すという感じでしたね。これを軸に小説一本書けそう。
 僕は彼女らの泥臭さがすごく好きです。一流も、限界も、光跡も、祝福も、何かを求めて泥に塗れながらも足掻き続ける彼女らが輝いて見えます。僕に欠けてるからなんですかね。

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