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げばげば俳句鑑賞日記その20

セーターなんか着てロックやめたんか

七瀬ゆきこ


『俳句ポスト365 23年11月秀作』

大学時代、バンドマンとしてメジャーデビューを目指している友人がいた。オルタナティブロック系の曲を書く詩人でありベースボーカルという、なかなか難しいことをやっていた。

わたしは当時映画監督を目指していたので、よく書いたものを見せ合っていた。彼の作品が彼らしくて好きだったが、自分をこう魅せたいという狙いが見え隠れしているのが気になっていた。

彼は破滅型で、夜中に電話がかかってきては、恋人のことで悩んでると言い、過呼吸になり、部屋にかけつけると、壁に穴が開いていた。イライラしてパンチしたらしい。

わたしは彼が好きだったが、彼が成功するためには、その「かまってちゃん」なところが無くならないといけないのでは?と思っていた。

インディーズで一枚CDを出した後、彼は神戸でそこそこ有名なバンドから引き抜かれ、神戸チキンジョージという神戸最大のライブハウスでワンマンライブをするまでになり、ベーシストとして駆け上がっていった。そのころわたしは映画に没入し大学を休学したので、彼とは疎遠になっていった。

先日、YouTubeを観ているとひょんとおすすめ動画が上がった。よく見ると、その彼がボイストレーナーとして歌を教えている動画だった。
「おおっ、音楽一本で食べてるのか」
彼の名前で検索すると、東京で何枚かCDを出した後、関ジャニやSnowManに楽曲を提供するシンガーソングライターになっていた。

自分のなりたいを貫いてやったぜ。かまってちゃん上等だろ。それくらいでないと、自分の才能を自分で信じ続けられないんだぜ。周りに合わせて生きているようでは、もこもこセーターみたいな人生が待ってるぜ。
YouTubeの彼はわたしを笑っているように見えた。おっ、わたしにも嫉妬心が残っているのか。

ハハハハハ。もこもこセーターのような人生か。上等やわ。動画を観たのが今のわたしでよかった。3年前なら嫉妬してたかな。おだやかに自然体に、わたしは毎日農道を犬と散歩して猫と畳をころがって、自然の変化を楽しみながら生きてるわ。雲ばっかり見上げてる今こそが大満足、大満足やで。俳句よ、句友さんよ、いつもありがとう。楽しみ尽くすぞ。


過去ログ

俳句鑑賞日記その1「パレットに指入れの穴小鳥来る/村上瑠璃甫」
俳句鑑賞日記その2「風吹けばみな風を見る墓参かな/常原拓」
俳句鑑賞日記その3「新大阪つぎ新神戸暮れかぬる/小川軽舟」
俳句鑑賞日記その4「あらたまの尿意をはこぶ昇降機/岡田一実」
俳句鑑賞日記その5「人の死を記して春の明朝体/五十嵐秀彦」
俳句鑑賞日記その6「ねぢあやめ平均台の長すぎる/野口る理」
俳句鑑賞日記その7「歯が眩しスイートピーと言ふ人の/黒岩徳将」
俳句鑑賞日記その8「春の夜はのつぺらぼうでなまぐさい/夏井いつき」
俳句鑑賞日記その9「日めくりに透ける次の日花柘榴/津川絵理子」
俳句鑑賞日記その10「献花涸る蜘蛛生きて巣を作りけり/イサク」
俳句鑑賞日記その11「はるのくれひらがなのようにみちくさ/月野ぽぽな」
俳句鑑賞日記その12「いちまいの羽なきからだ十二月/恩田侑布子」
俳句鑑賞日記その13「温めるも冷やすも息や日々の冬/岡本眸」
俳句鑑賞日記その14「弁当に飯ぎつしりと草の花/山口昭男」
俳句鑑賞日記その15「青葡萄ひとつぶごとの反抗期/宮里晄子」
俳句鑑賞日記その16「あたたかや仁王に花形の乳首/関灯之介」
俳句鑑賞日記その17「輪郭のぼやけてきたる氷菓かな/鈴木総史」
俳句鑑賞日記その18「葱坊主越しに伝はる噂かな/波多野爽波」
俳句鑑賞日記その19「守り神は恐竜メダル帰国少年/伊丹公子」


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