キャラを立てるとは          ポルノとバイオレンス その2

さて今回も偉そうに語って見ようかな。

僕の世代は大ブームだったので、もれなくジャッキーチェンが大好きです。

特に小学生の頃映画館で見たドラゴンロードはジャッキー映画の

中でもベスト10に入る好きな作品です。あまりヒットしなかったそうです

が個人的には大好きなのです。因みに同時上映は下品極まりない怪作 ザ

 カンニングでした。好きですけど。


以下に記す文章はドラゴンロードのネタバレ全開ですので注意してください

ね。


内容はいい歳こいて知能指数が小学生並のボンボン青年2人組、スポーツ万

能のロン(ジャッキー)。バカで臆病なジム。2人はカンフーの修行なん

か1ミリもせずに恋にスポーツに奔走します。

その当時流行ったイスラエルの青春バカコメディ映画グローイングアッ

プシリーズやポーキーズのカンフー版をやろうというコンセプトだったと思

われます。

見せ場は実在するのかしないのかよく分からない数々のカンフーテイスト競

技にジャッキーがチャレンジするところです。

それだけだと話がまとまらないので、取り敢えずひょんなことから

盗賊団の犯罪に巻き込まれます。最後は一致団結して根性と友情パワーとマ

グレだけで敵をやっつけます。


テーマ

友情


ポルノとバイオレンス

奇妙なカンフースポーツ競技(努力はしません)


ざっくり言えばこんな感じです。

補足しておくと

ロンはジムがバカで臆病なので、いたずらをした責任をジムに押し付けて

一人だけ逃げたり、或いは試合でチームの足を引っ張るジムを疎ましく思っ

たりしています。やなヤローですね。

ギャグとして描かれていますが、実はこの2人の関係性は物語に於いて非常

に大事な要素となっています。

バカにしたり、疎ましく思ってる相手を本当に友人だと思えるでしょうか。

友情を感じてる相手をバカにしたり疎ましく思うでしょうか。

つまり友情をテーマにした場合、物語上で克服しなければならないのは

この2人の関係性です。

友情というテーマをもっと具体的に言うと


ロンはどうやってジムに敬意を持って接する事ができるだろうか。


と言うことになります。

さて今回この映画を参作に取り上げたのには理由があります。

僕はこの映画が好きなので大人になってからもう一度観よう

とDVDを購入しました。早速鑑賞してみると何とびっくり。

劇場版と違う編集、構成になっていたのです。

先にも書いたように、公開時にあまり評判がよくなかった事

が変更理由の原因なんじゃないかと推測します。

もしかしたら、単に公開地域によってバージョンが違うだけなのかもしれま

せん。

何が変更されていたかと言うと、劇場版では、悪党をやっつけて大

団円のエピローグに繋がっていたのが、DVD版では大団円のエピローグ

だったシークエンスの後に劇場版の中盤の見せ場だったラグビーのような

集団競技の試合シーンが挿入され、ラストまで続くでです。

ラグビーは見た目の派手さは劇中一なので、最後にくっつけた方

が盛り上がるだろうという判断のようです。

僕個人としては圧倒的に劇場版編集の方が好きです。

その理由は以下の通りです。


大人数でのラグビーシーンと観客の歓声もない狭い納屋での敵、ロン、

ジムの3人だけの戦いとでは、明らかにラグビーシーンの方が見た目はマッ

クスです。

しかし主人公2人の内面のマックスは納屋での戦いです。

よく考えて見てください。スポーツなんて定期的に開催されてるんですよ。

試合に負けてもまた次回頑張ればいいじゃないですか。

劇中の試合なんか10年も経てば、主人公達は試合内容すら思い出せな

いでしょう。バカだし。

しかし納屋での戦いは負ければ殺されます。死ぬんです。人間は一度しか

死ねません。言うなれば人生に一度の真剣勝負です。人生の価値観が

変わる瞬間です。


テーマ的に見ても同様で、敵があまりに強く、勝てないと思ったロンは

ジムを連れて逃げようとします。しかし、ジムは大好きな父親を人質に取

られているので己の命を顧みず敵に戦いを挑みます。

ここでロンとジムの立場が逆転します。いつもバカで臆病なジムが

敵に立ち向かい、いつもジムをバカにしていたロンが涙目になって逃げよう

とするのです。

勇敢なのはジムであり、臆病なのはロンなのです。

まさに物語のドンデンの部分です。オセロの駒が白から黒にガラリを変わる

瞬間です。起承転結の転の部分にあたります。

そしてジムにも決して譲れないプライドと勇気がある事を見て、ロンは改め

てジムを見直し、友人として彼を誇りに思い、いつもジムに責任を押し付け

て逃げていたのに今回は共に戦う事を選択します。

これによって2人の友情は本物になるのです。

これからは決してロンはジムを見下したり、本気でバカにすることはないで

しょう。正にテーマの核心部分です。これ以上当物語で盛り上がってるシー

クエンスがあるでしょうか。

また、日頃スポーツをしていて培ったテクニックをロンが反射的に使った事

によって戦いの形勢を逆転させます。これはそれまでに劇中で描かれたス

ポーツシーンが伏線として生きてくる演出にもなっています。

そしてついには根性と友情とマグレで敵を撃退します。

これが起承転結の結です。


エピローグでは相変わらずいたずらしては親に怒られる二人の日常が描かれ

ます。ノロマなジム、それをバカにするロン。

しかしやってる事は最初と変わらないのですが、二人は以前にも増して本

物の友情で結ばれている事を観客だけが知っているのでした。

どうです。ここで終劇となれば、これ程綺麗な終わり方は無いと

思いませんか。

因みに最初と最後で同じシチュエーションを描くことによって、キャ

ラの変化を観客に伝える手法をブックエンド方式と言います。

この後にに派手なラグビーシーンがあっても、この映画で語られるテーマに

関わる問題はすでに解決しているので、あまり親身になって試合を応援

する気になりません。蛇足というヤツです。盗賊団との戦いのよ

うに別に死ぬわけでもないですし。

ラグビーの試合は中盤にあった方が中だるみを防ぐ意味でも有意義です。

物語上あまり意味がなかったとしても観客の興味を牽引させるという

ポルノとバイオレンスとしての本来の機能は抜群にあります。

だから劇場版のさじ加減の方が断然見応えがあるわけです。

劇場版があまり受けなかったのは、ラストにラグビーシーンを持って

来なかったからではありません。

ポルノとバイオレンス、テーマが噛み合っていない事が問題だからと考えま

す。前述したように、「スポーツ競技シーンだけでは話がまとまらない」時

点で脚本に問題があるわけです。

つまりポルノとバイオレンスであるスポーツシーンがテーマであるキャラの

心情や二人の関係性を変えていないと言う事です。

変化するのは、スポーツとは関係のない盗賊団との戦いです。

スポーツシーンはビジュアル的には盛り上がっても、物語的には全く盛り上

がっていません。

ラストにラグビーシーンを持って来たものの、どうしても盛り上がりに欠け

るので製作者側は更に何の前振りもなくフィールドに幼子が迷い込むと言

うピンチ演出をぶっ込みます。

ジャッキーは何とか子供を助けて試合も勝利に導きます。

しかし何処の誰か、名前もわからない、いきなり出て来たガキを救ったとこ

ろで何のカタルシスがあるのでしょうか。

もしラストにラグビーシーンを持ってくるのであれば、ラグビーの試合を

通じて2人の友情が本物になるという演出をするべきだと思います。

出来てるフッテージだけで後から再編集してるので、わかってても出来

ない相談なのが映画の辛いところですが。。。

映画であれ、漫画であれ、いくら派手なシーンがあっても、必ずテーマに準

ずる行動が内包していなければ意味がないと言う事です。


さて、次回は少林寺木人拳を熱く語ります!嘘です。



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