小津安二郎 紀子三部作

 最高の家族映画は、日本にある。世界に家族映画は紀子三部作さえあればいい。とさえ思ってしまう。いずれ来る「家族の解体」を通して、3つの家族を見つめる。
①晩春
紀子「あたし………」
周吉「うむ?」
紀子「このままお父さんといたいの……」
周吉「……」
紀子「どこへも行きたくないの こうしてお父さんと一緒にいるだけでいいの それだけであたし愉しいの お嫁に行ったって これ以上の愉しさはないと思うの このままでいいの……」
中略
周吉「お父さんはもう五十六だ お父さんの人生はもう終わりに近いんだよ だけどお前たちはこれからだ これから漸く新しい人生が始まるんだよ つまり佐竹君と二人で創り上げて行くんだよ お父さんにはかんけいのないことなんだ それが人間生活の歴史や順序と言うものなんだよ」
②麦秋
周吉「うーむ みんなはなればなれになっちゃったけれど しかしまぁ あたしたちはいい方だよ」
志げ「ええ いろんなことがあって長い間」
周吉「うむ 欲をいやぁキリがないが」
志げ「ええ でも ほんとうに幸せでしたわ」
③東京物語
紀子「だけどねぇ 京子さん あたしもあなたぐらいの時には そう思ってたのよ でも子供って大きくなると だんだん親から離れていくもんじゃないかしら? お姉さまぐらいになると もうお父さまやお母さまとは別の お姉さまだけの生活ってものがあるのよ お姉さまだって 決して悪気であんなことなすったんじゃないと思うの 誰だってみんな自分の生活が一番大事になってくるのよ」
京子「そうかしら でもあたし そんな風になりたくない それじゃあ親子なんてずいぶんつまらない」
紀子「そうねぇ……でも みんなそんなってくんじゃないかしら……だんだんそうなってくるのよ」
京子「じゃお姉さんも?」
紀子「ええ なりたかないけど やっぱりそうなってゆくわよ」
京子「いやあね 世の中って……」
紀子「そう いやなことばっかり……」

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