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東武本線系統の速達サービス衰退と特急誘導

 東武本線は現在、南栗橋・久喜以南の都心部、それ以北の地域輸送の2つに分けられます。都心部には急行・区間急行・準急・区間準急など様々な速達列車が走っていますが、地域輸送区間に関して速達列車はほぼありません。しかしかつてはその路線を走る大半の列車が都心直通速達列車と言う夢のような時代もありました。今回は東武本線の都心直通と速達列車の衰退の歴史を解説します。

①伊勢崎線久喜以北

現在も残る区間急行館林行き

かつて存在した無料速達列車

 現在、東武伊勢崎線久喜以北(半蔵門線直通の来ない区域)で通過運転をするのは「特急りょうもう」と「特急リバティりょうもう」のみである。しかし、2003年までは特別料金不要の通過運転列車があった。
準急A(2003年廃止)
...東武動物公園、久喜、加須、羽生、館林、足利市、太田...

  • 浅草〜東武動物公園:現在の区間急行と同じ

  • 太田〜伊勢崎:各駅に停車

 年々減少し、2003年に半蔵門線直通開始した際の地上線速達列車減便により全廃。

通勤快速(1987年廃止)
...北千住、春日部、東武動物公園...

  • 浅草〜北千住:各駅に停車

  • 東武動物公園〜伊勢崎:準急Aと同じ

 これらの速達列車の廃止については、特急誘導が考えられる。これについては後述する。

速達列車の現況

 先述の通り久喜以北で通過運転をする列車は消滅したが、久喜以南で通過運転し、久喜以北は各駅に止まる列車は現在も存在する。
区間急行
(2006年に準急Bから改称)
...北千住、西新井、草加、新越谷、越谷、せんげん台、春日部、東武動物公園...

  • 浅草〜北千住は各駅に停車

  • 東武動物公園〜館林も各駅に停車

区間準急
...北千住、西新井、草加、新越谷...

  • 浅草〜北千住は各駅に停車

  • 新越谷〜館林も各駅に停車

衰退原因は半蔵門線

半蔵門線直通用50000系

 しかし、この久喜以北で速達運転をする列車も減少している。その理由は半蔵門線直通にある。
①2003年ダイヤ改正
 半蔵門線直通が始まった。これにより業平橋発の地上線準急が廃止になった。

2003〜2006年の優等列車のダイヤ構成表
2003〜2006年の優等列車のダイヤ構成表

 この図より、東武動物公園以南は直通が始まってもあまり変化がない。しかし、半蔵門線直通は久喜以北(当初は東武動物公園以北)には乗り入れない。そのため久喜以北への速達列車は減少した。しかし当時はまだ半蔵門線直通は15分に1本程度しかなく、依然として久喜以北への速達列車も残っていた。
②2006年ダイヤ改正
 速達列車の名称が以下のように変更された。

2006年に行われた無料速達列車名称変更を表す図の画像
2006年 無料速達列車の名称変更

 また、下図のようなダイヤに変わった。さらに半蔵門線直通が大幅に増加し、日中の準急(現・区間急行)は消滅した。なお日中の区間準急は久喜止まりであるため、久喜以北へ行く列車は朝夕の区間急行と少数の区間準急のみとなった。

2006年以降の優等列車のダイヤ構成表の画像
2006年以降の優等列車のダイヤ構成表

以下は半蔵門線以外の理由による。
③2020年ダイヤ改正

 後述の太田行きが無くなり、館林までの運転となる。理由は後述。
④2022年ダイヤ改正
朝夕に1時間に3本あった館林行きの内2本が北越谷行きに短縮し、久喜以北への速達列車は大幅に減少した。これは後述のりょうもう号減車と共にコロナ(COVID-19)の流行が関わると考えられる。

優等列車の停車駅大幅増加

特急りょうもう(旧型車リバイバルカラー)

 先程、久喜以北で通過運転を行う料金不要の列車が廃止された理由として特急誘導を挙げたが、そもそも昔と今では特急りょうもう号(2006年までは急行りょうもう号)の立ち位置が変化していることが関係する。
1999年以前の停車駅(主な列車、伊勢崎線内のみ)
浅草、北千住(1963年〜)、館林、足利市、太田
 この停車駅から分かることは、当時のりょうもう号が速達性や行楽輸送に重点を置いた列車であったことである。
現在の停車駅(朝夕通勤時間帯、伊勢崎線内のみ)
浅草、とうきょうスカイツリー、曳舟、北千住、東武動物公園、久喜、加須、羽生、館林、足利市、太田
 ここから分かるのは、現在の特急りょうもうが主に群馬県方面の通勤輸送が主体の列車であると言うことだ。
 これはかつての通勤快速と同じ停車駅である。久喜以北に関しては準急Aと変わらない。これでもし通勤快速や準急Aが現在まで存在したら、特急りょうもうを利用するのは着席保証を求める限定的な客のみになるだろう。昔、今の特急と同じ停車駅で特別料金不要の列車があったとは驚きである。つまり結局は値上げなのである。

抗えない悪循環

 なぜ値上げしなくてはならないか、その理由はいくつか考えられる。まずは景気後退による観光需要の低下である。そして次は人口減少による減収の補填等である。特急列車の停車駅増加や値上げは東武に限ったことではなく、そしてその理由はどんな鉄道会社であっても大抵この2つが占める。これについては抗いようがないが利便性が低下しているのは事実である。
速達列車減少・値上げ→東京への通勤が不便になる→沿線の人口が減る→利用者減少鉄道会社が減収→さらに速達列車減少・値上げ…
 こんな悪循環が起きているのではないのだろうか。このまま続けば、、見えるのは暗い未来である。個人的にこれをなんとかできるのは行政だけだと思うが、ただでさえ全校区的な人口減少、それによる借金増大。ここでも悪循環がある。結局この問題はどうすれば解決できるのだろうか…(アイデアある人コメントして下さい!!)

まるで車へ誘導?コロナによるさらなる重圧

500系リバティ

 先程特急に誘導という話をしたが、その特急りょうもう号でさえ減車が進んでいる。
 2017年に東武鉄道新型特急500系(リバティ)が投入された。日光/鬼怒川/会津方面の特急とライナー列車での使用が殆どだったが1日1本だけリバティけごんに併結したリバティりょうもう号があった。この時は試験的な列車だったと推測されるが、2020年からはリバティりょうもうが増え、2022年現在まではりょうもう号の半数がリバティになっている(けごんとの併結は2020年で終了)。
 従来の200系りょうもうは6両固定編成だったがリバティりょうもうは大部分が3両で一部が3+3の6両で運行される。新型車両で客室設備は向上したが減車されてしまった。
 ただこれには新型コロナ(COVID-19)の蔓延による在宅勤務推進によって遠距離通勤需要の低下したからだとも考えられる。ただ、既に200系は廃車が始まっておりコロナが終わっても全てが6両に戻る可能性は低い。日中は特に戻りにくいだろう。

一部区間都心直通消滅、更なる悪循環へ

 これまで、速達サービスの衰退について書いてきたが、中には都心に直通する特別料金不要の列車が消滅してしまった区間もある。それは館林〜伊勢崎である。
 元々2003年までは先述の準急Aが、廃止後も2006年までは準急Bが終日それぞれ1時間に1本ずつ浅草〜伊勢崎・太田で走っていた。しかし同年、伊勢崎行きが廃止。太田〜伊勢崎は3両編成のワンマン列車になった。その後は先述の通り朝夕のみとなった区間急行として太田まで走っていたがそれも2020年にはついに消滅。ワンマン区間は館林〜伊勢崎に伸びた。
 理由はワンマン化による人件費削減と特急誘導による増収。結局はコストなのである。
 太田市、伊勢崎市はどちらも人口20万人を超えており群馬県3位と4位である。また人口は増加傾向にある。さらに太田駅に関しては館林駅より1日平均乗降客数が多い(太田駅:約8000人、館林駅:約7000人、2020年時点)。人口1位と2位の高崎、前橋にはJR高崎線の東京直通列車が終日走っている。高崎市の人口は50万人超えのため別にしても前橋市は30万人程。20万人の都市とここまで差があるとは...
 関東の一私鉄である東武鉄道と収益世界No.1の鉄道会社であるJR東日本では勿論経済力は異なる。しかしここでも
減収→列車減便・廃止→東京への通勤が不便になる→自動車を使う人が増える→利用者減少→さらに減収...
の悪循環がある。生活圏等からも群馬県民は東京都民より圧倒的に自動車を持っている方が多いと考えられる。そのため都心より鉄道経営は厳しい。日本の社会問題とは大抵悪循環なのである。

②日光線南栗橋以北

現在の都心からの列車は全て南栗橋止まり

全列車都心直通から都心直通消滅へ⁉︎

 現在東武日光線は特急を除き、車両基地のある南栗橋で系統が完全に分離され、以北は20400系4両編成によるワンマン列車に統一されている。しかしかつては南栗橋〜新栃木、下今市〜会津田島で日中は全列車都心直通、朝夕も大部分が都心直通だった時代があった。
2006年当時の各区間の内訳
①南栗橋〜新栃木
速達輸送:浅草発の快速
各駅:浅草発の準急
※朝夕のみ一部南栗橋〜新栃木の普通列車があった
②新栃木〜東武日光
速達輸送:浅草発の快速
各駅:新栃木〜東武日光の普通列車
※一部準急東武日光行きがあった
③下今市〜会津田島
終日浅草発の快速が各駅に停車
※朝夕のみ一部都心に直通しない普通列車があった

かつて存在した無料速達列車

かつて快速で使われた6050系

 かつて日光線には以下の無料速達列車があった。
快速(2017年廃止)
浅草、とうきょうスカイツリー、北千住、春日部、板倉東洋大前、新大平下、栃木、新栃木、新鹿沼、下今市(切り離し)、東武日光/...会津田島

  • 近郊型車両6両で運転

  • 下今市〜会津田島:各駅に停車

区間快速(2017年廃止)

  • 近郊型車両6両で運転

  • 浅草〜新大平下:快速停車駅

  • 新大平下〜東武日光・会津田島:各駅に停車

区間急行(2017年廃止)
(2006年に準急から改称)
...北千住、西新井、草加、越谷、新越谷、せんげん台、春日部、東武動物公園...

  • 通勤型10両/6両で運転
    (一部近郊型6両)

  • 10両の列車は南栗橋で4両を切り離し

  • 東武動物公園〜東武宇都宮・東武日光・会津田島:各駅に停車

速達列車の現況

 先述の通り都心から直通する列車は消滅したが、南栗橋〜東武日光を走る速達列車は現在も存在する。
急行
(2017年に快速の代替として誕生)
南栗橋、栗橋、板倉東洋大前、新大平下、栃木、新栃木、新鹿沼、下今市、東武日光

  • 4両ワンマン車で運行

  • 上り(東武日光→南栗橋)のみ1日2本の運転

衰退の歴史

現在の日光線南栗橋以北のワンマン列車

①2006年ダイヤ改正
 準急が区間急行に改称されるとともに日中の列車が廃止された。代替として半蔵門線急行(〜南栗橋)とそれに接続する南栗橋〜新栃木の普通列車が設定された。
 また新栃木以北の準急は1日に片道1本だけ近郊型車両で運行される会津田島発の区間急行を除き廃止された。
 さらに日中の快速のが全て東武動物公園以北各停の区間快速に変わり、朝夕も下り(浅草→会津田島)は新大平下以北各駅に止まるようになった。
 この結果新栃木以北で通過運転をするのは朝夕の上りのみになり、さらに新栃木以南も朝夕のみになった。
②2009年ダイヤ改正
 この改正では会津田島発の区間急行が廃止され、新栃木までの運行に統一された。
③2013年ダイヤ改正
 この改正で区間急行が深夜の近郊型による1本を除き廃止された。
 さらに区間快速が新大平下まで通過運転するように変わり、そして下り全列車と日中の上りは全て区間快速となった。こうして都心直通は毎時1本の6両近郊型のみとなった。
④2017年
 いよいよ都心直通にとどめが刺された。特急リバティ運行開始に伴い快速・区間快速・区間急行が全て廃止された。その代替として下り(南栗橋→東武日光)に急行、上下線に(南栗橋〜東武日光・新藤原)に区間急行がそれぞれ4両通勤型で誕生した。本数は朝夕のみ急行片道4本区間急行6往復となった。こうして日中の速達列車は消滅した。代わりに特急リバティ会津が新設された。
※停車駅は快速/区間快速に南栗橋・栗橋を足したもので2017年以前の区間急行と以降の同列車は異なる。
⑤2020年
 急行が上り3本下り1本、区間急行が上り7本下り5本となった。
⑥2022年
区間急行が廃止急行が下り2本のみの運行となる。

廃止理由

 速達列車はかろうじてまだあるものの終日運行から1日に片道2本にまで減ってしまった。その衰退理由にはホーム長が関わる。日光線南栗橋以北は6両編成が最大で、さらに上今市・東武日光・大谷向・大桑・小佐越は4両分しかホームがないためドアカットが必要である。
 従来南栗橋で切り離しをおこなっていたが、人件費が勿体無い。ちなみにJR含めどんな会社でも多層建列車を廃止する理由は大体人件費削減である。
 ちなみに、2013年に地上線の10両編成がなくなったため現在なら切り離しをせずに入線できるのではと思うかもしれない。しかし現在スカイツリーラインの優等はほぼ10両編成の半蔵門線直通で普通列車は全て7両編成の日比谷線直通であり、地上線はラッシュ時の補完列車に過ぎない。地下鉄直通車は固定編成のためそもそも分割すらできない。地上線の減車が行われたからといって日光線との直通を再開できる理由にはならない。

長距離列車の(事実上の)値上げ

特急リバティ(左)と東武スペーシア(右)

 結局都心直通はなくなり、速達列車もほぼ消滅した。しかし日光、鬼怒川、会津等の観光輸送のため日光線には特急が多く走っている。
最も遅い列車の停車駅
浅草、とうきょうスカイツリー、曳舟、北千住、春日部、杉戸高野台、板倉東洋大前、栃木、新鹿沼、下今市、東武日光/新高徳、東武ワールドスクウェア、鬼怒川温泉
最速列車の停車駅
浅草、とうきょうスカイツリー、北千住、春日部、栃木、新鹿沼、下今市、東武日光/新高徳、東武ワールドスクウェア、鬼怒川温泉

 ここから分かることは、2017年までの快速と停車駅があまり変わらないことである。最も遅い列車に関しては快速より遅く、最速でも板倉東洋大前、新栃木と鬼怒川線内各駅を通過する以外は変わらない。
※2017年までは鬼怒川・野岩・会津線内各駅に止まる特急があったため快速との差は2駅であった。

 つまり、同じ速さの列車を値上げしたのである。勿論設備に差はあるが例えば栃木県内から通勤の方、会津に行きたい我々鉄道ファンなど特急でなくて良いという乗客もいる。しかし快速を廃止した。それはつまり値上げである。

優等列車の停車駅大幅増加

 元々特急けごん・きぬの停車駅は少なかった。
浅草、下今市、東武日光/鬼怒川温泉

 今では考えられない速さである。停車駅が増えたのは途中駅からの通勤需要を見込んだことであるが、それはつまり通勤客も特急に乗れということである。沿線は特急が止まって嬉しいだろうが、安さを重視したい人もいるはずである。快速も無くなったので結局東武は通勤・観光関係なく、南栗橋以北利用者は全て特急に乗せたいのだろう。

JRに敗北か?

 新栃木からでる支線の東武宇都宮線にも2006年までは浅草からの準急が終日運行、以降も2020年まで「特急しもつけ」があった。しかし現在は全て廃止された。前者は特急誘導かもしれないがその特急すら無くなった。その理由はJRに負けたからであると考えられる。何故ならJRは今も15両グリーン車つきの宇都宮線を終日3〜4本/時
東武の強み
東武宇都宮駅の方が宇都宮駅より街の中心に近い
東武の弱み
浅草駅の利便性が悪い
宇都宮線が4両をまで
所要時間が長い
 中でも大きいのは4両までしか対応していないことである。先述の通り切り離しは人件費がかかるほか、さらに所要時間増加の原因にもなるため大きなデメリットである。かといって浅草〜南栗橋を4両編成で走らせれば混雑の激化につながる。
 特急しもつけ号に関しては、JR東日本の普通列車についているグリーン車と大差ないことが利用者離れの原因であると考えられる。
 ちなみに主要都市へのアクセスで東武が負けた例は他にも、「急行じょうもう(浅草〜中央前橋)v.s.JR高崎線(上野〜前橋)」があった(じょうもうは廃止)。


まとめ

 東武本線系統において、速達列車•直通列車が削減された理由は

  1. 人口減少•モーターリゼーション→減収→特急誘導(通勤客にも特急を使わせる) 

  2. 少子高齢化→人件費削減→切り離し廃止•末端区間ワンマン化

  3. 地下鉄直通開始→同車は固定編成*→ホームが短い区間には入れない

  4. COVID-19による遠距離通勤需要の停滞

 とであると考えられる。
 特急の停車駅を増やし通勤に使えるようにした上で特別料金不要の列車を減らしたのである。
*理由は連結面による容積減少で混雑に耐えられないから


 いかがでしたか。 調べてみて、伊勢崎線にかつてここまで早い準急があったこと、日光線のほとんどが都心直通だったことは衝撃的でした。昔の鉄道は今より良かったのかもと思ってしまいました。当ブログでは今後も東武について投稿していく予定です。お楽しみに。

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