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忍殺TRPG二次創作【キョート城医務室:シュガーコート】

ドーモ、がーねっとです。
公式サーバーで初めてタイマン卓(=NMとPLが一対一でやるセッション)というものをやったのですが、まあ楽しいのなんの
今回はNM=サンがPL側の希望を聞いてシナリオを作ってくださったので、尚更タノシイがあるストーリーがお届けされました。

タイマン卓自体の感想ですが、一対一だとRPを多めに取れるので、RP好きな方・キャラクターを深めたい方には向いてるなと思いました。あとはPL側も希望や交渉を出しやすい(雑な言い方をすれば、ある意味自分の要求のみを検討してもらえばいい)ので、「〇〇なストーリーをやりたい!」「こういう展開にしたい!」というビジョンがある方にはおすすめなスタイルかと…。

そんなタノシイセッションの後日談めいたスレイドがこの記事です。肝心のセッション内容がないのにスレイト書いてどうするのかという質問はナシな
今回はザイバツニンジャで行ったので、いつものステゴマ隊(ソウカイニンジャのキャンペイグン)とは全然関係ないのですが……良いストーリーを味わえたのだ!私のザイバツニンジャが何を感じたか、こうして形にするのもいいだろう!ムッハハハ!

というわけでご興味ある方はドーゾ。
簡単に説明すると、『とあるザイバツのアプレンティス(パーガトリー派閥)がメンタリストをメンターとし、「執行者」の仕事に同行したら敵にヒサツ・ワザで盛大に切り付けられそれでもなんとか帰還した後の話』です。




 起き上がるたびに脇腹が痛む。シュガーコートは手探りでサイドボードのスシを手にとった。傷は癒えつつある。しかしスシがなければ十分な回復はまだ望めない。
 中途半端だ。
 彼が「執行者」メンタリストの任務に同行してから、早くも数日が経過していた。切り裂かれた脇腹にはひきつれた傷が残ったものの、命に別状はない。
 シュガーコートは胴体に巻かれた白い包帯を撫でた。フートンも壁も天井も、包帯と同じ白色であった。
 スシを食べ終え、壁にもたれかかりながらぼんやりと思考を巡らせる。派閥の長と執行者。メンターとして当てがわれたニンジャにまつわる数々の噂。彼と共に歩く時に向けられた視線の意味。あのイクサで目にした不可解な現象。キョート城に戻る直前、投げかけられたメンタリストの言葉。
 (彼の装束も白色だった)ふとシュガーコートは思い至る。奇怪な同心円が描かれた独特の装束は、ザイバツ内の不気味な噂を裏付けるかの如く。しかしその立場ゆえに不吉と謳われるメンタリストは、潔白の象徴めいた色で身を固めているのか。そう考えると不思議と納得した。彼は恐ろしいニンジャだが、組織への忠義は確かに持ち合わせている。
 次に彼は、斬撃で切り裂かれた己のキモノコートのことを思い出した。血飛沫を浴びてまだらに赤く染まった純白のコートをどうするか、後で考えなければならない。あれをどこかに着て行くことは二度とないだろうが、捨てるには惜しい。メンタリストと共に向かった先で、ヴァンガードと名乗るニンジャと切り結んだ記憶を消し去るにはまだ早すぎる。
 ヴァンガード。美しいカタナを操り、圧倒的なワザマエを見せたイアイドーのタツジン。何度もスリケンを喰らいながら、決して太刀筋は揺らがない。手負いの彼に食らったヒサツ・ワザは、シュガーコートに消えぬ傷を残した。肉体にも、心にも。
「……」
 シュガーコートはしばし物思いに耽ったのちフートンに寝直した。脇腹の傷が痛み、思わず顔を顰める。包帯の上から傷をさすり、慎重に姿勢を変えた。
 あの戦地に赴いた時は疑念と不安ばかりが浮かんでいた。派閥の長と指導役が交わした含みのある言葉。ようやくアプレンティスを拝命したばかりの、確固たる立場もないシュガーコートが、上役の言葉に翻弄されるのも無理はない。しかし、しかしだ。

『件のニンジャは"これ"で?』
『"使える"ならそのように。そうでなければ……』

 シュガーコートの胃がキリキリと痛み始めた。食べたスシはまだ消化され切っていないだろう。彼は必死に嘔気を堪えた。茶室に呼び出されたあの時と同じ苦しみが、彼の中に蘇った。
 幾度となく追い込まれたセイシンテキ。張り詰めたアトモスフィア。失敗はできぬ、と己に何度言い聞かせたか。派閥の長の視線と、メンタリストの光なき瞳がシュガーコートのニューロンにはっきりと映し出される。己が身を預けた相手は、かつての仲間を手にかける役目を負うニンジャと、そのニンジャを配下として従えるニンジャ……。
(忠義。やはり忠義なのだ)
 ヴァンガードと手を組んだらしいあの裏切者は、なす術もなく極彩色の結晶に呑まれて死んだ。目の前の敵に必死で応戦していた時は気に留めていなかったが、メンタリストは裏切者へずっと何かを語りかけていた……その度に裏切者は苦しんだ……。
 もしザイバツを裏切れば、今度は自分が幻影の海で溺れ死ぬのだろう。あの時のアトモスフィアとは、ニューロンをかき乱した恐怖とは比べ物にならぬ悪夢の中で!
「……」
 シュガーコートの呼吸が早まる。体温が上がり、傷口が開かないかと不安を覚える。
 次第にその不安は別の感情へと移り変わっていく。さながら、薄緑から薄桃に色を変えるスリケンめいた変化だ。
「マスター……」
 彼はフートンに潜り込み、周囲の景色を闇で覆い隠した。いつ誰がここに来るかは分からないが、とにかく自分をこの現実から切り離しておきたかった。早鐘を打つ心臓を鎮めるために。
(私は……)


◆◆◆


 シュガーコートは俄かに気だるげな表情を見せ、奴隷オイランにより包帯が巻かれ直されるのを黙って見守っている。
 数日以内にはこのセンターを出てもよい、と通達された彼の胸にまず浮かんだのは安堵。それから焦りと決意。療養していた分、体は鈍っているだろう。まずはその遅れを取り戻さねばならぬ。マスターたるメンタリストに置いていかれぬように。
 奴隷オイランは全頭マスクで顔を覆われているにもかかわらず手際良く作業を進めている。彼女たちは自我をケジメされ、ニューロンの内には治療に従事するために必要な情報しか残されていない。このように大なり小なり自我を剥奪された奴隷達が、キョート城内部には数え切れぬほど存在する。
 しかしシュガーコートはその事実に関心を持たず、当然アワレにも思わなかった。そもそも奴隷とは初めから、自我を剥奪されジョルリめいてニンジャに使われるだけの存在に過ぎない。すなわち、支配者たる何者かがいなければ存在する理由もないものたち……。そんな相手に、どうして感傷など覚える必要があるのだろう?
 仕事を終え退室するオイランの背中を無感動に見届けると、シュガーコートはベッドサイドに置いたグローブを手に取った。手の甲の部分にはザイバツの紋章が描かれ、感情のない瞳を模した模様がこちらを見ている。その両脇に控えるは「罪」「罰」の文字。
「……マスター……」
 誰に言われるでもなく、シュガーコートは白い紋章を撫でていた。無機質な瞳はただ、じっと彼を見るばかりである。
 畏怖と憧憬の狭間で、いつしか彼は眠りに落ちた。白いカーテンが揺れる。白い提灯が揺れる。白いスズランを生けた花瓶を置いて、白い影がメディカルセンターから立ち去って行く……。

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