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忍殺TRPG二次創作小説【アーケイド・ゲームセンター路地裏:ロウトン】

ドーモ、がーねっとです。
先日、初めての忍殺TRPG参加に向け「ロウトン」というニンジャを作ったのですが、そいつの一側面をスレイト風小説で表現してみよう!という思いつきの産物をここに載せることにしました。(唐突)
※↓そのニンジャが出てくる半リプレイはこれ

初心者がダイス運に任せて生み出したロウトン。当初は名前と見た目とスカウトまでの簡単な経緯くらいしか考えていなかったのですが…キャラシを作り、トレーニンググラウンド(初セッションのシナリオ)を終えたことで彼の人物像がおぼろげながら見えてきました。それをある程度明確化する目的でこのスレイト(もどき)を書いてみようと思ったのです。あとは忍殺風文体の練習な

とはいえ、これを機にロウトンについて細部まで設定を詰めるとか、このスレイト(もどき)のみで人物像を固め切るつもりはありません。
せっかくいい感じのキャラが生まれたのだから、思いついたモノは形にしておこう。そのくらいの軽さで作られたものです。実際設定は細かく決めすぎないほうがRP時に融通効きそうだし楽だからさ

あと、私は昔からオリジナル・版権二次創作の書き手寄りな人間であり、イラストや小説を作ってWebに上げるのが好きなので、今回のスレイト(もどき)もその延長線上にあります。つまり今回の記事は忍殺TRPGの世界観に沿って作ったオリジナルキャラクター(ニンジャ)の創作を自給自足したくて作られたものというわけです。そこんとこよろしくな!
(なお、実際まだ追い切れてないエピソードが大量にあるので原作知識不足が散見される点についてはご容赦ください)




 ネオサイタマには青空という概念が存在するのだろうか? この牢獄にはいつも重金属酸性雨が降り注いでいる。不快な湿気が体にまとわりつく毎日。実際、衣服の裾が水に濡れない日は今まで滅多になかった。
 澄み渡る空の代わりに分厚い暗雲が立ち込め、たまに雨足が弱まったかと思えば激しく降り注ぐ雫が体を打つ。冬になれば雨が雪に変わることもあるが、溶けてしまえば皆同じ。その景色が大きく変わることはないだろう。少なくとも自分が死ぬまでは。
 黒いブルゾンに身を包み、フードで頭をすっぽりと覆い隠した青年は冷たいコンクリートの上に倒れ伏していた。頭から爪先まで容赦なく重金属酸性雨が降り注ぎ、傷だらけの肉体を蝕んでいる。青年の命は今にも陽炎めいて揺らぎ、消え去ろうとしている。
 青年の視線の先、磨かれた革靴はどれも全く同じものだ。靴の形、紐の結び目、路地裏を照らすタマムシめいた極彩色のネオンの反射に至るまで、全てが奇妙なまでに統一されているのである。
 ここで終わりか、と青年は諦めの色を瞳に宿す。口の中に広がる鉄錆の味が薄れてきた。かろうじて視線を革靴の群れより奥へ向ける。そこには先程まで青年の仲間がいたはずだった。しかし何の人影も見えない。ゴアめいた死体がうず高く積み上がっているだけだ。
 なぜ自分は五体満足でいられたのか? それは分からない。分からないし、知る由もないだろう。動かぬ青年へ、同じ顔をしたヤクザがチャカ・ガンを向ける。クローンヤクザを初めて目にしたのは数ヶ月前の現場だったか。ソーマト・リコール。青年のニューロンが悲鳴を上げた。


 カチグミの特権を味わいながらも、両親のような人間になりたいとは思えない。何不自由ない暮らしを送っていたがゆえの不満。他のカチグミの大人と同じように、絶えず競い合い、無数のシキタリと欺瞞に満ちた人間関係の中で生きていくことは、不自由を知らぬ青年には耐えかねる現実。彼が無謀にもネオサイタマの闇へ足を踏み入れたのも、ひとえに息苦しい未来への嫌悪があったからだ。
 幸か不幸か、意外にも青年は路地裏の影に溶け込むことができた。潔癖すぎるほどの配慮と秩序の中で生きてきたのに、マッポーを極めた裏社会の空気が妙に馴染む。その事実は彼が無意識に抑圧してきた願望の発露へと繋がった。すなわち、青年は自ら下劣な世界を望み、立ち入り、記録した。典型的カチグミの家庭に生まれ、大人達から期待されてきた「我が子」の姿で――物分かりよく勤勉で、常に模範的な息子として生きている間は決して触れることのできなかった闇を。
 闇の中で目を凝らせば凝らすほど、手元に入る報酬は増える。さらに、どれだけ彼が深淵を覗こうとも、取り返しのつかぬ事態に陥ることはなかった。彼は幸運にも見逃され、あるいは再び路地裏の影に隠れ、あらゆる危険を回避してきた。ゆえに青年は深みに嵌っていく。灰色のメガロシティに潜む暗黒が、彼を完全に飲み込むその日まで。

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 アーケイド・ゲームセンターの一角で、青年は静かに正面を見据えている。外のネオンに負けじと人工的な光を煌めかせるモニター、耳障りな轟音めいた音楽、そして壁の中央に固定された円形の的。
 青年が軽く腕を振る。矢羽めいた金属のダーツが赤丸の中央に突き刺さる。ブルズアイ! 続いて彼は2投目を放った。軌道が少しだけ右にブレる。6点のシングル。
「……チッ」
 目深にフードを被った青年が少しだけ目元を晒した。灰色の虹彩が睨みつけるのは真紅の円。すなわちブル。
 アーケイド・ゲームセンターの轟音は止まない。所狭しと置かれた筐体から流れる音楽。店内にたむろするヤンクや無軌道大学生の笑い声。メダルの金属音。UNIX電子ファンファーレ。合成マイコ音声。その全てが遠くに消える。青年は変わらず中央目掛けて腕を振るった。3投目は――ワザマエ! ブルズアイだ!
 パワリオワー! いつもの轟音が戻り、ニューロンを容赦なく刺激する。3投で合計106点。青年は一つ溜息をつくと、グラスの半分ほどを満たすモヒートを煽った。そして彼が的に刺さった3本のダーツを引き抜こうと手を伸ばすのと同時に、頭上のモニターから合成マイコ音声がアワードを読み上げる声が響く。


 ドクン。
 心臓の鼓動と共に、青年のニューロンが高速稼働。消えかけた灯火が瞬時に猛烈な炎へと変化する。体の奥底から強烈な痛みと力が湧き上がって、傷まみれの肉体を支配する。
 灰色の瞳を見開きながら、青年は濡れたコンクリートに手をついた。ブルゾンが変形している。グローブのデザインが変わっている。彼は力任せに身を起こした。鉛のように重かったはずの肉体が、紙風船めいてふわりと浮き上がった。
「アバーッ!?」
 突如、クローンヤクザの一体が絶叫する。真後ろに倒れたその死体の眉間には……おお、見よ! 細く小さい、矢羽めいた金属のダートが深々と突き刺さっているではないか!
 さらにクローンヤクザ二体が同様に転倒! ワンテンポ遅れて残りのヤクザが威圧的に叫ぶ。善良なネオサイタマ市民を幾度となく震え上がらせてきた伝統的ヤクザスラングが、薄暗い路地裏に轟いた。
「「「ザッケンナコラーッ!!」」」
 一糸乱れぬ唱和、そしてチャカ・ガン発砲。BLAM!! 鉛玉が見事な列を成し、宙に浮かんだ青年の体を貫こうとする。しかし既に標的の姿は無かった。ではどこに?
「アババーッ!!」
 クローンヤクザ一体が絶叫と共に昏倒! ナムサン! 両の目は矢羽めいたダートに潰されている。血の涙を流す亡骸を前に、残ったクローンヤクザ達が動揺を見せた。次の瞬間、小さき鋼鉄のクナイ・ダートが重金属酸性雨を切り裂きながら飛来!
「アバッ」並び立つクローンヤクザの片割れが事切れる。最後に残された一体は辛うじて致命傷を免れたが、クナイ・ダートに手の甲を裂かれ、チャカ・ガンを地面に落下させた。痛みと衝撃でバランスを崩し、血の混ざった水溜りを踏み締める。革靴が路地裏に差し込むネオンの光を反射している……否。
「グワーッ!」
 それは磨かれた革靴を易々と貫通せしめたクナイ・ダートが反射した非常灯の光。両足を地面に縫い止められたクローンヤクザが苦悶に呻く。その肩を叩き、乱暴に引き寄せたのはヤクザと背丈の変わらぬ男。
「そこはハットトリック取らせろよ、オニイサン」
 低く抑揚のない声がヤクザの耳元に届いた。ヤクザは硬直。何やら不測の事態が起こっていることはとうに理解できていた、しかしこの場を切り抜ける術はない。あるはずがない。
 路地裏の影よりも暗い黒のグローブがクローンヤクザの肩に食い込んでいく。ダークスーツに赤黒い染みが広がり、ヤクザの呻きは叫びに変わりつつあった。男はその声を聞いて笑い始める。やはりそのトーンは低い。だが間違いなく高揚している。男のテンションに呼応するように、タマムシめいた極彩色の瞳が輝きを増す。
「グワーッ!?」
 両足を縫い止められたまま、クローンヤクザは強制的ドゲザ姿勢! 膝や額をコンクリートに打ち付けられ、骨が砕ける音がする。哀れな悲鳴を上げたクローンヤクザを見下ろし、男は背中を震わせ哄笑する!
「フフ……ハハハハハ!! よく分かんないけど、土壇場で便利な力手に入れちゃった感じ? タイミング良すぎてウケるわ。でも、これで前よりいいモノ撮れるかもしれない……なんなら俺がいい感じの現場作ることだってできるんじゃないの? これだったらさあ」
 クローンヤクザにドゲザ姿勢を取らせたまま、派手なジャケットに身を包んだ男がクナイ・ダートを取り出した。その見た目はまさに3本の小さな金属の矢……否! 鋭いティップを備えたダーツである!
 己の運命を悟ったのか、クローンヤクザの背中が震えている。男はその背中に腰を下ろし3本のダーツを弄んでいたが、しばし考えたのち1本をヤクザの右手に、1本を左手に捩じ込んだ。クローンヤクザは最早ドゲザ姿勢を解くことはできぬ。雨音が激しくなる。
「じゃ、一回リハーサルしよっか。肝心のカメラは忘れたけど……どうせお前は見れないんだし、いいよな?」
 そう告げた男はクナイ・ダートを懐に収め、近場の死体からドス・ダガーを抜き取った。血と雨粒をまとった鈍色の刃が光る。言葉にならぬ犠牲者の祈りは、決して男には届かない。

「ドーモ。ロウトンです」

 アーケイド・ゲームセンターの非常灯が火花を散らし、数度点滅したのちに消えた。薄汚れた扉の向こうから、合成マイコ音声やUNIX電子ファンファーレ、店にたむろする若者達の無秩序な笑い声が聞こえる――


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