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忍殺TRPG二次創作【ガイオン:クインテット】

ドーモ、がーねっとです。
先日、ダイスブッダのご機嫌に任せ「クインテット」という名のPCニンジャを作りました。某子供向け音楽番組とは全く関係ありませんが、名づけのきっかけはキャラシ製作中に同名番組のテーマソングを思い出したせいなので完全に無縁とは言い切れないところ
今現在はソロシナリオを回すのみで複数人セッションには登場させていないのですが、いずれロウトン(初めて作ったPCニンジャ)とは別にセッションに連れていくので、こいつはこいつで何かしらのドラマが生まれてほしいな~という気持ちです。ロウトンとは別タイプのビルドにしたいぞ!

それで今回はというと、「ソウルディセンションしてソウカイヤ(あるいは指定の組織)に入るまでのストーリー」は決めておくと自分が動かしやすい・人物像をイメージしやすいことが分かったので、クインテットの前日譚を用意しました。つまりロウトンの時と同じようにスレイト風小説を作りました、という話です。

なおクインテットの設定&現在のステータスは以下の通りです。見た目はコワイけど中身は温厚なので(少なくともロウトンよりは)実際ごあんしんです。あと私の趣味重点です。

外見は40~50代くらい


 時はウシミツ・アワー。人々が寝静まるはずのこの時間帯に、一人蠢く影がある。
 その男は足を引き摺るように歩いていた。乾いた地面に血の雫が染みてゆく。鉄パイプを地面に突き立て、鉛のように重い足を無理矢理引き上げ、一歩ずつ踏み出していく。
 男は手負いではなかった。彼の全身に散らされた血液、地面にポタポタと垂れている雫は全て返り血である。くまなく血の色に染まった男の手にも、やはり目立った傷はない。それでも男は深く傷つき、憔悴しきっているようにしか見えないのだ。
「違う……違う……」
 喉から絞り出された声は悲哀に満ちていた。鉄パイプが地面を鳴らし、靴底の音が遅れて聞こえる。膝までを覆い隠す黒いブーツは血と砂で汚れ、解けかけた靴紐が地面を這うように揺れている。
「違う……私は……違う……こんな……」
 男が不意に顔を上げた。路地の出口に見慣れた景色が広がる。毎朝のように通ってきた道。ここを左に曲がった突き当たりに自分の職場がある。今朝も通ってきた。間違いない。これだけは確かなのだ。
 全てがバラバラになった頭の中で、唯一と言っていいほど明確な記憶。出勤し、担当エリアを警備し、緊急連絡を受けて現場へ向かう。立てこもったターゲットと、任務を果たすため集まるケビーシ達。どさくさに紛れて無秩序な破壊をもたらしてやろうと武器や爆発物を手にするヨタモノ集団。混沌。爆発。炎。瓦礫。
「嘘だ……嘘だ」
 あっという間に瓦礫に下半身を潰された男はもはや死を待つばかりだった。仲間の呻き声が少しずつ聞こえなくなる。体が冷えていき、意識が遠のく。飛んできた破片が突き刺さったせいで、とうに視界はほとんど失っているが、それでも辛うじて現場の惨状は察していた。
 男は顔をしかめた。歪む表情に連動するかのように、彼が手にする鉄パイプもぐにゃりと折れ曲がった。パイプに体重をかけていた男はバランスを崩し前方に倒れ込む。打ち付けた膝の痛みでさらに表情を歪めながらも、男はふらふらと立ち上がった。大通りは目と鼻の先にあり、キョートが誇る雅で美しき街並みを照らす明かりは変わらずそこにある。
(だけどもう私は……)男は動けなかった。何度も何度も歩いてきたはずの道へ戻ることができなかった。かといって引き返すこともできない。帰ったところでどこに行くのだ? 無断で職務から離れ、当てもなく彷徨っている自分に帰るべき場所などあるか?
 鉄パイプがさらに縮んだ。男は使い物にならなくなったそれを投げ捨て、荒ぶる感情を拳ごと裏路地の壁に叩きつける。蜘蛛の巣めいたヒビが瞬時に壁を覆い、パラパラと破片が落ちた。
「……ああ、違う」
 叩きつけた拳をさする。両手ともに血濡れだが、やはり傷はない。男は今しがた殴りつけた壁を横目で確認した。ひび割れた壁に少しだけ血の跡が移っている。乾き切らなかった血液が付着したのだろう。
「違う」
 灰色の壁に散った鮮烈な色彩を前に男の体がわななく。ふらつく体を壁にぶつけ、そのままへたり込む。彼は俯いてかぶりを振った。この路地に来る前から絶えず彼を苦しめている、ニューロンを支配する衝動をどこかへ追いやりたいのだ。
「御用!」
 その刹那、ケビーシ・ガードの声が響いた。男はそちらの方角を見やりつつ後ずさる。男が歩いてきた道を辿り、数名のケビーシが接近しているのが確認できた。
(来るな!)男は怯えた目をしながらさらに後退した。しかし大通りの光を背中に浴びた時、彼の中に再び破滅的な衝動が膨れ上がり、恐怖が白く塗りつぶされる。残るのは壁に飛び散った赤色。
「来るな……」
 掠れた声は硬い金属音でかき消された。男は偶然目に入った金属ポールをねじ切り、手頃な長さに整えてから構える。そしてまっすぐにこちらへ来るケビーシ達めがけ猛然と突進した。先頭のケビーシが一瞬戸惑う。よく見れば男の知った顔だったが、最早その事実は抑止力になり得なかった。

◆◆◆

 両手両足にこびりついた感覚を忘れるために、男はひたすら移動を続ける。両膝がいよいよダメになるかもしれない。だが、その方が幸せかもしれないと男は感じた。このまま罪を重ねるくらいなら、誰にも気にかけられぬまま野垂れ死にする方がよっぽどマシであろうと。
 圧倒的な暴力で叩き潰したケビーシが皆顔見知りだと気づいたのは全てが終わってからのこと。最後の一人を締め上げている時、男はわずかに理性を取り戻した。目の前には手足をばたつかせもがき苦しむ部下の顔があった。男は手を振り払った……つもりであった。しかし実際は部下を道路に投げつけていたのだ。
 ナムアミダブツ! ケビーシの頭部がウォーターメロンめいて弾け、死体が赤い跡を残しながら数度跳ねる。男は呆然とその有り様を見ていた。それから己の手を、腕を見る。返り血に染まったシャツは今にもはち切れんばかりに張り詰め、尋常ならざる筋肉が浮き上がっている。彼は全力でその場から飛び上がった。自分のせいだと認めた途端に、胸の奥から底知れぬ恐怖が湧き出した。
「ぐッ……!」
 しかし男はまだ未熟であった。考えなしに地面を蹴ったがゆえに、勢いを殺せず足から着地。いよいよ膝の痛みは無視できないほどになり、男は苦悶と共に屋根の上を転がった。それから這いずるように移動し、屋根を伝い、現場からなるべく遠い場所へ向かっていった。膝の痛みは増していたが、どうしても足を止める気にはなれなかった。

 どのくらい移動を続けたのか。男は手頃な場所で立ち止まると、呼吸を整えるために座り込んだ。視線の先には、煌びやかなガイオンの明かりがぼんやりと広がっているのが見える。
 ふと、人々の悲鳴や怒号が静謐な夜の空気をかき乱しているのに気付いた。声のする方に顔を向ければ、そこは男が先程まで歩いていた路地の方角である。何者かがあのケビーシ達を見つけたに違いない。有り余る力に引き裂かれ、踏み潰され、切り刻まれ、打ちのめされ、頭を砕かれた5人のケビーシ・ガードを!
 再び屋根を飛び移りながら、男はニューロンに焼きついた映像を抹消しようと試みる。見知った顔。驚愕に見開かれる目。怯えて絶叫する者、腰を抜かす者、全員が錯乱寸前に追い込まれていた。「オバケめ!」と彼に叫んだケビーシは、彼が若き頃に世話になった上司であった。
(こんなはずでは……)
 映像が切り替わる。昔の記憶だ。緊迫したアトモスフィアの中、捕縛された犯罪者にジュッテを振り下ろす。すでに相手の全身には傷や流血の跡。珍しいことではない。相手を鎮圧するため、あるいは口を割らない相手を取り調べるために追撃せねばならない時もある。つまりこうして傷ついた相手を打ち据えるのは、単に「そうしなければならなかった」からだ。
 では、それをなぜ今思い出したのか?
 「取り調べ」の映像から、男はケビーシの一人に蹴りを入れた瞬間を連想していた。装備越しの肉体の柔らかさや、規格外の力に砕かれる骨の感触は実際奇妙である。いくら頑丈な装備に覆われていようと、中身は所詮人間なのだ。
 人間なのだが。
 男はこれまでも幾度となく、犯罪者達を一方的に打ち据える際の感覚を反芻していた。それが何を示すのか、彼は薄々理解していたが、必死に見て見ぬふりをしてきた。けれどもう手遅れである。長年頭に浮かんでは消し去っていた願望は、今や好きに叶えられるようになっていた。できないはずがないという気持ちに突き動かされた結果、男はその体をここまで血に染めたのだ。
(こんなはずではなかったのに!)
 男は歩みを止めず、さらなる暗闇を目指し突き進んでゆく。雲の切れ間からは月明かりが差し込み、男の後方遥か彼方にキョート城のシルエットが浮かび上がった。それと同時に男の顔も照らし出された……黒く奇妙な眼球を持つニンジャの顔を!

◆◆◆

 男は地面に伸びる己の影を見ていた。記憶にある自分の姿と比べても異様に背丈が伸び、輪郭は2倍ほど膨張している。男がこのような姿になって数日は経過しているが、彼は未だに己の変化を信じられずにいた。
 平凡ではありつつも一人のケビーシとして殉職するはずだった自分は、巨大なクマめいた肉体を得て死の淵から蘇ったらしい。だが、強大な力を得た代償であろうか? 内側から湧き上がる衝動のまま、自らの手で全てを破壊した。無垢な人々を守り、正しく罪を罰するために数十年の人生で積み上げたもの全てを。
 故郷たるガイオンはすでに遥か彼方、男の目前には闇が広がるのみ。けれど男は安堵していた。これが今の自分に相応しい場所だと感じた。
 このままキョートを去ろう。行き先など知らぬ。力尽きるまでただ歩き続ければ良い。少なくともキョートには自分のような罪人を罰してくれる者も、救える者もいないであろうから。男はただひたすらに移動を続けた。折れた木の枝をジュッテの如く握り締めながら。

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