第1回ガレージ勉強会
8月25日に京都大学で講演をさせていただく。
テーマは「研究者を演出するとは何か」
ニコニコ学会βのディレクションをきっかけに、
科学技術の発表舞台を演出させてもらうことが増えてきた。
エンターテイメントや映像メディアという、
いままで全く違う畑にいた人間がアカデミアの領域で
演出を担当する事はなかなか珍しいらしく
(というかそもそも「演出」という意識が学問の世界には
あまりないらしい)
ノウハウや事例を紹介してほしい、というお話をいただいたのだ。
自分がやってきたことを体系立てて話す、
ということは初めてなのですごく楽しみ。
・・と同時にきちんと言語化するにはあまりに不勉強だと痛感。
このままではしどろもどろになって泣きながら京都から逃げ出すことになる!ということで「僕の知りたい事を知るための会=ガレージ勉強会」を
開催する事にしました。
■第1回のダイジェスト(2014年7月15日)
【参加者】
高井浩司(@slowdelay)
山田光利(@2ndlab) 学術系イベントプロデューサー
中村おりお(@onakamura2)(株)キバンインターナショナル代表
荒木健太郎(@arakencloud) 気象庁気象研究所研究官
茂木耕作(@motesaku)独立行政法人海洋研究開発機構 研究員
【目次】
★「演出する」の定義とは
★気象学会ってどうだったの?
★総合討論、という名のバッファ(笑)
★シンポジウムの「中身」の設計ノウハウ
★「ブーム」と「シーン」を考える
★バンドブームざっくりまとめ
★研究をブームにするってどうなの
★テレビに取り上げられる時の話
★コミュニケーションのレイヤー
★広く伝えるために狭くする
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★「演出する」の定義とは
演出とは、あるコンテンツを魅力的に伝える方法のこと。
1:本人のキャラクターに依存する
2:外部の仕掛けによって魅力をブーストする
3:ルールやフォーマットを使う
大きく分けるとこの3つになる。
1「本人のキャラクター依存」は、
第3回ニコニコ学会βシンポジウム「研究してみたマッドネス」のTDさんや
第4回ニコニコ学会βシンポジウム「むしむし生放送」のみなさんが好例。
本人のトレーニングがめっちゃ必要で、
ステージ上にいる限り、そのキャラクターを演じ続けなければならない。
本人依存なので、そのキャラクターを活かすカメラワークなどを検討する。
例:「全力で彼女をつくる TD」
2「外部の仕掛けによって魅力をブーストする」は、
出演する本人に負担がかからない方法。
オープニングムービーや登壇時の出囃子など、
舞台を飾る事で"特別な人"という印象を与える方法。
例えば、第5回のニコニコ学会βシンポジウム「研究してみたマッドネス」では、演者への指示は「舞台の上にただ歩いて登場する」だけにしている。
派手な音楽と映像で盛り上げ、プロレス風の呼び込みに応じて
トコトコ歩いてくるだけでかっこ良くなる、という仕組みだ。
例:「第5回研究してみたマッドネス」
3「ルールやフォーマットを使う」とは
「研究してみた100連発」がいい例になる。
研究してみた100連発、とは5名の研究者が1人あたり15分で
20件ずつ、計100件の研究発表を行うというもの。
1つの研究発表に割ける時間はなんと45秒。とてもその尺では
それぞれの研究を詳しく紹介する事はできないのだが、
このフォーマットの肝は「短く・大量に並べる」ところにある。
20件の研究が並ぶと、おのずとその研究者の人となりや熱量、
価値観が浮き彫りになる。
第1回のシンポジウム(僕は当時ニコニコ学会には関わっていない)から
定番となっているこのフォーマットは、とても優れた発明だと思う。
その他の演出として、
・ステージ全体の世界観をつくる
ニコニコ学会β全体の演出として「スタッフに白衣を着せる」ということがある。ボランティアベースでの舞台進行なので、どうしてもカメラに見切れてしまうスタッフがいる。見切れないように!という注意を呼びかけるのではなく「見えてもそれが正常である」という仕掛けをつくった。
勉強会の様子part1(音声ファイル)
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★気象学会ってどうだったの?
(タ・・高井 モ・・茂木 荒・・荒木 お・・おりお 山・・山田)
タ「気象学会はどうすか?」
モ「お時間になりましたので、ただいまより・・、それでは・・講演番号、
なんたらかんたら・・ってかんじですw」
荒「秋の気象学会ではそういうのやりたいんですよ」
タ「お時間になりましたので・・」
荒「そっちじゃないw」
荒「今年の2月の大雪のことをやるけど、気象学と雪氷学のセッションを
やるんです。(春のニコニコ学会で)いきなり最初に『ゲリラ豪雨!』
ってスタートしたみたいに、『2014年2月、関東甲信越地域で大雪が
発生した』とか、参加者全員がその話題に引き込まれるような、
ストーリーがあるような話にしたい。そういうイントロがやりたい」
お「会場全体が暗くなるってのは」
タ「暗転はスゴく大事ですね」
お「しかもLEDランタンが並んでて、みんな閉じ込められちゃった設定に
するとか」
タ「それやりすぎw」
タ「スタートとエンドをはっきりさせることが大事。
その時間はちゃんとワールドをつくってあげないとお客さんは嫌かも」
荒「気象学では大気と降雪現象。降ったあとのことを中心に考えるのが
雪氷学。今回は気象学と雪氷学をつなげたい。統一して扱いたい。
そういう意味でイントロが大事」
タ「そういうのはスライド使うんスよね」
荒「うん」
タ「背景だけ指定してあげたらいいんじゃないですか?
気象は青〜暗いブルー、雪氷は真っ白、とか。
時間を追うごとにバックグラウンドが変わるように見せる」
これ、実は『攻殻機動隊S.A.C』というアニメシリーズのタイトル背景の演出がヒント。物語のテーマによってタイトル背景が分類されているのだ。
※参考:タイトルバックの意味(攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIGの世界)
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★総合討論、という名のバッファ(笑)
シンポジウムの定番として、「総合討論」というものがあるらしい。
各登壇者が壇上にそろい、「総合的な観点で討論する」というもので
いわゆる対談なのかなあと思っていた。のだが。
モテサクさんの切れ味あるトーク
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★シンポジウムの「中身」の設計ノウハウ
2014年5月に行われた公開シンポジウム「気象学における科学コミュニケーションの在り方」を設計した時のお話。
モ「趣旨を演者に伝えて、その上でインタビューをした。そのインタビュー 動画をFBのイベントページでシェアした」
※参考:「気象学における科学コミュニケーションの在り方」FB
モ「演者のコンテクストを知っている人が10人いると全然ちがう」
全登壇者のインタビュー映像を収録し、Facebookにアップしていくというのはかなり労力のかかる事だ。だけどここまでやると本番の内容は抜群に面白くなると思う。
FBのイベントページで公開する事で、広報としても機能させている。
ただ、1本の動画が20分近くあるので、冗長になってしまうという面もある。無編集でアップしていかないとたぶん身が持たなくなってしまうだろう。いつも映像編集の段階で困ってしまうのが課題だなあ。
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★「ブーム」と「シーン」を考える
「研究者の演出」を考えたり実践していて、演出するだけだとあまりに無責任かもしれないと思った。とにかく研究者を目立たせればいいや、っていうのはそれだけだとダメ。なので「研究シーン」を作りたい(その一端に関わりたい)なと最近思っている。
ブームやシーン、といったものについて目下考え中。
なぜそんな事を?という動機に関しては
湯村翼さん(@yumu19)の話が主なきっかけ。
参考:「誰もが研究する時代の到来〜野生の研究者について講演しました #smips湯村」
もしも、"研究"がブームになったとき、おそらく「野生の研究者」が
消費の対象になってしまうかもしれない。
この「熱に浮かされるリスク」について、80年代のバンドブームを
例にとって考えてみる。
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★バンドブームざっくりまとめ
すごくざっくりまとめるとこんな流れ。
・1980年代、ナゴムレコードを始めとするインディーズ音楽が一世を風靡
・所属バンドはそれぞれ、音楽的蓄積があるものもいたが、
中には「ただの面白い奴」も多くいた。
・ワケのわからないままに脚光を浴び、お金を手にした。
・脚光を浴びたバンドマン達には音楽とは全く関係のない仕事も
ふってきた。ワイドショーのコメンテーターとか。
・数年でブームは収束し、その後シーンが誕生した。
100万枚売れるCDが多数出てきたのはこのあたりから。
・J-Popシーンとして定着したころ、バンドブームの渦中にいた人たちの
多くは消えていた
※反省:きちんと人に説明できるほどの知識が足りていない。
どうやって調べたらいいのかなあと悩みながら勉強中。
※参考:大槻ケンヂ『リンダリンダラバーソール』(新潮文庫)
バンドブームで踊った本人が、当時を語った本。
小説の形態に載せて当時の狂騒が綴られている。
注釈などもしっかりしており、当時を知るための
手がかりとして役に立つ。
こういう普通は学術で取り上げられない本を京都大学の
講演にぶっ込んでいく予定。
「ブーム」とは、
"本質的な活動の外側にいる人間が暴走することによって、
大規模なお金が流通する"
これが現時点での仮定義だ。
たとえばあるミュージシャンがいたとして、
彼の"本質的な活動"は音楽活動なんだけど、
それとは全く関係のないプロデューサーやディレクターから
バラエティ番組の出演やファッション雑誌へのオファーがあるとか、
音楽を演奏する事には興味はないんだけど、彼の服や髪型を完コピすることで同化しようとするファンがいたりする、ということだ。
もちろん彼の音楽がよかったから脚光を浴びたという面もあるが、
番組の視聴率が上がる事も、洋服が売れる事も本人の活動には関係がない。
だが別ジャンルの人にとっては大きな利益になる。
このあたりがブームの構造なのではないかと思っている。
※反省:まだまだここもフワッフワで、予測でしかないなあ。
※補足:ブームに必要な「メディアのスタンス」については
今度取り上げる予定。月刊ニコニコ学会βについても
いろんな人と話をしたいと思っている。
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★研究をブームにするってどうなの
荒「ブームはそういう定義だとして、
そこに至るまでの話が知りたいんですよ。
私個人が脚光を浴びるというよりは、
現在気象学は、学問として認識されていない状況。
一方で気象予報は人々の日常にしっかり定着している。
しかし、気象学的な知識や、正しく情報を見れていないから
困ったことになる、という状況がある。
ブームの後に、正しく定着する"シーン"があるのならば、
まずブームにのせるプロセスを教えてほしい」
※反省:すみません。答えられなかったです
タ「うーん。」
タ「ブームにのせるにはアラケンさんがモデルデビューとかする。」
荒「えええ」
タ「ドライな言い方ですけどメディアにとっては何だっていいんです。
気象じゃなくてもいい。尖った人がいたら背景ごと伝えてくれる。
本人がバーンと出た後に遅れて伝わるものだと思う。
ぶっちゃけ人柱で生け贄です。」
バンドブームのその後
ミスチル・ドリカム・サザンなど
ある意味健全な音楽シーンとして市場も安定した。
それはレーベルがちゃんとやった。テレビとかじゃなかった
荒「一時期のブームで終わってしまうのは困る」
モ「ブームの先にシーンを持って来れるか、ということか。
そのポイントは?」
タ「熱狂の中でも本質的な活動からブレずにいること、
ミュージシャンなら音楽。研究者なら研究を続けてるかです」
※反省:これも憶測の域を出ていない。もうちょい肉付けしないと講演では使えないなあ
言いたかったのは、
「メディアってそういう大波を起こしてしまう特性をもっているよ」
ということ。
「演出するとは」に始まって、「演出される側のリスクと覚悟」についても
意見をもっておかねば無責任だな、と思っているのです。
じゃあどうすればよいのだ、がなかなか言えない。それを探しています。
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★テレビに取り上げられる時の話
よくテレビの人たちに言われるのが
・短くまとめてね
・一言でお願いします
・つまりAかBでいえばどっち?
これ困ります(というかちょっとムカつく)よねーという話。
タ「1カットってせいぜい7秒くらいしか視聴者を引きつけられない」
タ「それを自然にやってる人が残ってる。池上彰さんはそのプロでもある。 編集で使わせる言い方ができる人。」
モ「とあるシンポジウムで、自分が何をやってるか15秒で言う、
というお題があった。僕らは学会発表は10分ていう目盛りしか
持ってなかった。いきなり取材とかされても切られちゃうから、
まずその15秒の目盛りを持とう、という事だったと思う」
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★コミュニケーションのレイヤー
荒「この本(雲をつかもうとしている話)は
知識をベースに日常から現象とつきあうにはどうしたらいいか
ということ。自分なりの方法を考えるきっかけにつなげるイメージで
書いている。さっきのブームの話で言うと、声がでかい人が
どういう立ち位置でどういう風に協力してくれるかは、
その人の利害によるところが大きい。
余計にベクトルがずれてしまうのではないかという危惧があります」
荒「私の立場からするといろんな人が触れてほしいけど、
声のでかい人に正しく発信してもらうにはコミュニケーションを
通して作り上げていく必要がある」
モ「そのためのクローズドな勉強会がある。
気象予報士も、間違ったことを言わないようにとても注意している
けど、自分の知識が正しいかを不安な事を公にすることにも
強い抵抗がある。隠れた場所でこっそり研究したい。
なのでクローズドの勉強会がある」
タ「それすごく大事ですね」
モ「コミュニケーションが十分取れている限定されたメンバーで
議論をして、その後発信をするようにしている。」
オープンな研究会、というのは参加者との距離が様々なため、
必ずしもオープンがいい事とは限らないのだな、と思った。
コンテンツの周りには、
メンバー/サポーター/ファン/オーディエンス
くらいのコミュニケーションの段階があるのかもしれない。
渦マニアの話
荒「渦中毒者ってのがいて、
渦を眺めているとその中に入りたくなっちゃうような人。
それがすごく面白くて、加速させたい。
渦によって様々なものを表現できるという新しい理論がある」
お「そういう人たちを集めて、一般の人も誘ってサイエンスパフェ
やったら?覗き見たいけど本業で関わりたくない、
ちょっと外側まで誘いたいというイメージ」
荒「それではちょっとダメかな。おいてけぼりになりすぎて
共感が得られないし、話す方もやりにくい。巻き込むためには
共感が前提に必要。」
お「入りたいとは思わないけど入っちゃうひとを見るのは面白い、
という共感は得られそうなんだけどな」
タ「そこが難しいポイントなんですよ。
面白がって見てる人、は面白がって見てたいだけで当事者には
なりたくない。その人たちを一緒に誘っても全然響かない。
だけどそこの人たちを距離感を保ったまま増やしていくのは必要。
彼らは投げ銭をくれるんです」
モ「心地よい距離でいいから、そこにいてね。
というちょうどいい求心力が必要だね」
本人は研究をしないんだけど面白がって見てくれる、
経済を動かしてくれる。ということが必要で、いま僕が知っている学術の世界だとそこが少ないんだよなあと感じている。
そのために、コミュニケーションを適切なレイヤーで分けて、
それぞれに価値のある取り組みができるといいなと思う。
といったところで第1回の勉強会はおしまい。
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★広く伝えるために狭くする
勉強会の帰り道、アラケンさんとこんな話に。
荒「一般の人にどうやったら広く伝えられるのかなあ」
タ「その"一般"の人の顔をきちんと特定する事じゃないですかね」
荒「それだとごく一部の人にしか伝わらない気がします」
タ「それでいいと思います。少なくとも僕には不特定多数の誰かに
同時に物事を広める事はできないっす」
モ「ごく一部でもその人が伝えてくれるってこと?」
タ「理想的ですね。でもそのためにはそのごく一部の人をものすごく
感動させる必要があります。めちゃめちゃ濃厚な影響を受けた人が、
隣にいる近い人に伝えてくれるんです」
これは勘、というよりはかつて営業マン時代に散々失敗したことがベースになっている。
当時僕は広告の企画営業をやっていて、企画のベースは55万件くらいのアンケートデータを駆使したものだった。
で、だいたいやってしまうのが「○○代半ばの大多数が答えた項目を組み合わせていいとこ取りした△△」という実在しない対象へのコンテンツにたどりつくというもの。
「仕事も恋も充実していて休日は自分磨きとゴルフとお料理もがんばるけれどメンタルケアにも関心とか悩みがあって、オシャレでかわいい20代キャリアウーマン、全国の!」
みたいな議論がマジで行われていた。それどんなキメラ。
営業マンからモノ作りの仕事に変わり、自分の手を動かして何かを作り出す立場になって、この「相手が誰かわからない」前提でモノをつくることはほぼできないなと思った。
それがイベントであれ、映像であれ、確実に相手はいるのだ。
で、その相手の特定の仕方は「こっちの都合でOK」が今の所の回答。
きっと建築家とかアーティストの人とかに聞くと、うまく自分の作品を世に広めてくれる人の顔を想像できているのだろう。
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