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日本初の快挙『グループステージ進出』なるか。オーバーウォッチワールドカップ2023日本代表Nicoにインタビュー

2022年10月5日よりリリースされたチーム制アクションゲームの金字塔オーバーウォッチ2(以下、OW2)。
2023年6月23日からはなんと4年ぶりとなるオーバーウォッチワールドカップも開催されることになっている。

今期の日本代表は選考の結果、プロゲーミングチームVARRELの7名が選出されたこともあり、過去一度もグループステージに進出したことがない日本において「グループステージ進出はほぼ間違いない」と目されるほどの実力を誇っているという。

今回はその日本代表においてチームリーダーを務めるNicoにインタビューを敢行した。所属しているVARRELのオーバーウォッチ部門結成までの経緯、今期オーバーウォッチワールドカップの自信、について語ってもらった。

絶対王者VARREL、生き残ったヒーロー達の希望の星


――OW2がリリースされて8ヶ月が経過していますが、ほぼ全ての国内主要トーナメントでVARRELは優勝していますし、先日もAPAC地域で準優勝していました。何故これほどまでに強いのでしょうか?

Nico
それについて語るには、まずVARRELに入る前の時代について話しておく必要があるかもしれません。
僕はVARRELに入る前はConnect Gamingに所属していたんですが、その時期に最初に出会ったのが現メンバーでもあるKSGとMihawkです。当時の彼らにはプロとしての活動経験はありませんでしたが、その反面、向上心が非常に高いプレイヤーでもありました。2020年の12月辺りにはmintも加入し、現VARRELの基盤メンバーが揃い始めます。
Connect Gamingが解散してしばらくしてからVARRELへと加入することになったのですが、彼らとならば今後も一緒にやっていけると感じ、引き続き同じチームでプレイすることにしたんです。

――なるほど。その他のメンバーはVARREL加入後に合流する形になったと思うのですが、どのような流れで現メンバーが揃うことになったのでしょうか。

Nico
VARRELに加入した2021年の頃から僕は国内だけではなく海外も視野にいれていたので、世界で勝てるようなメンバーを積極的に探していました。
当時の日本の競技シーンは縮小の一途を辿ってはいましたが、実は個人単位で見ていくと燻りながらも足掻き続けているフィジカルの高いプレイヤー達がギリギリ生き残っていました。
その中でもアジア地域での活躍を目指せるような向上心の高いプレイヤーに一人ずつ声をかけていったんです。
とはいえ、当時はOverwatch Contenders(以下、OWC)も太平洋地域(以下、APAC)から撤退していたのでメンバー集めは難航しました。

――2020年からOWCはAPACでの開催を取り止めたのは衝撃でしたが、そのような状況下で国際的な活躍を目指すのは相当厳しかったのではないでしょうか。

Nico
韓国以外のアジア地域が衰退しつつあった時期でしたから、ほとんどの日本チームは世界での活躍を諦めていました。一見すると絶望的な状況ですが、だからこそVARRELにとってはチャンスだったのかもしれません。本気で国際戦での活躍を目指せる日本チームが限られていたため、モチベーションの高いプレイヤーへの声掛け自体もしやすかったんです。
時が経つにつれ志を同じくするメンバーが少しずつ集まり始め、そうして最終的に揃ったのが現メンバーの7人でした。
例えるならOverwatchの「RECALL」ですね笑。生き残りのヒーローが集まったチーム、それがVARRELなんです。

短篇アニメーション「RECALL」。各地に散らばったヒーロー達に対しウィンストンがRECALLを発動したことで、再集結のキッカケとなる。

強い『日本チーム』の姿を見せていくことがVARRELのテーマ

――強いチームを作るのであれば韓国選手を入れるのも有力な手だと言われています。そういった選択肢を取らなかったのには何か理由があるのでしょうか。

Nico
チームの成績を上げるだけならば韓国人選手を入れるのも手法としてはアリだと思います。
ただ個人的には日本人だけで構成した方が、現状の日本では良いと思っています。何故なら初代OWの日本競技シーンは2020年のOWC太平洋地域撤退を機に一旦廃れてしまったこともあり、一度沈んでしまった日本競技シーンを復活させるには日本人中心のチームじゃないと難しいのではないかなと肌で感じたからです。
例えばVARRELに物凄く上手い韓国プロ・元プロが複数人居る状態で大会を優勝したとしても、見ている人からしたら「それって結局韓国チームじゃん」となってしまいます。
まずは日本人中心で強いチームを作り、日本競技シーンの復活に注力していくのが重要だと僕は考えました。

――OW2になって太平洋地域や日本地域が復活しましたが、Nico選手的にはこの状況はどう感じていますか。

Nico
OWCの復活に伴って日本の競技シーンも再興し始めている現状は、自分の中では驚きでもあると同時にありがたいことでもあります。OWCやOverwatch League(OWL)の日本語配信も始まったことで、VARRELを応援してくれる人達も増えてきているので、辛い時期でも諦めずに活動してきて良かったと感じていますね。

ここ2年での成長がVARREL躍進の大きな鍵

――Nico選手は2016年からずっとOWをプレイしていますが、特に大きな成長を感じたのはいつ頃でしょうか。

Nico
ここ2年間での成長が一番ですね。2017年の頃からプロとして注目され始めましたが、7年経った今が最高のコンディションです。現VARRELメンバーが揃った辺りから最高の環境で戦えるようになったのも大きいですが、OWCでの経験が着実にVARRELや自分自身の血肉になっていると感じています。

――この2年間のうち大半の時期をVARRELはオーストラリアリージョンで活動していましたが、かなり辛い時期だったとは思います。ただある意味ではその時期が功を奏した部分もあるということでしょうか。

Nico
その通りですね。2020年から2022年初頭まではAPACでのOWCが無くなっていたためオーストラリアリージョンでプレイしていたんですが……正直言って日本人がプレイするのはほぼ不可能だと最初は感じました。
140pingという環境でプレイせざるを得ないのですが、そういった環境下では物理的に使用出来ないヒーローがいくつか存在します。例えばトレーサーなどがそうです。被弾を予測してリコールしても間に合わないことも多いので、チームとしてもトレーサーを混ぜた構成は一切採用することが出来ません。

――そのような環境下でVARRELはどのような対策をしていたんでしょうか。

Nico
ヒットスキャンであればハイピン環境でも弾さえ当てられればゲームとして成立しやすいので、ヒットスキャン中心の構成を採用していましたね。構成縛りのような重りを実質課せられていましたが、限られた手札でもやりようがあることを実践を通して何度も経験できたのは大きいです。

――ということは遅延(ラグ)環境の場数はかなり踏めたと。

Nico
そこがVARRELの強みでもあります。現在VARRELが参戦しているAPACリージョンのOWCでは、相手チームの国籍によってシンガポールサーバーなどの中間サーバーを使うことが多いのですが、一般的な日本チームからしたら相当なラグを感じる環境だと思います。しかし僕達にとっては天国のような環境です。
またオーストラリアリージョンでの長期活動のお陰で、オーストラリアチームとの交流ができるようになったのも大きな収穫ですね。彼らからしたら「謎の日本チームが毎回OWCに参加してるぞ」みたいな感じで、凄く目立っていたみたいです。そりゃ声を掛けられますよね。それで自然と仲良くなって、頻繁にスクリムも組めるようになりました。当時は2023オーストラリア代表のnaahmieとか、現DreamersのDreamer、現Timelessのcalなども居た時期ですから、今から考えると対戦相手としては物凄く恵まれていました。

――APACリージョンが無くなったからこそ積めた経験もあったということですね。

Nico
そういった繋がりを大切にしていきたいと思いましたね。先日行われたAPACリージョンのOWCでも、決勝戦が始まる直前にnaahmieから応援のDMが送られてきました。こういう些細なことが凄く嬉しいんですよね。

予選突破に自信あり、日本地域初の快挙となるか

――6月23日よりオーバーウォッチワールドカップが始まりますが、もしグループステージ進出となれば日本初の快挙となります。本年度はどこまで行けそうでしょうか。

Nico
まず同じグループには韓国・台湾・香港・インドネシア・フィリピンそして日本の計6か国が組み分けされているんですが、その中から上位3チームが次のステージであるグループステージに進出できます。正直、グループステージ進出はほぼ間違いないと思ってます。情報収集している範囲内では予選(Conferences)突破は問題視していません。

――きっぱりと言い切りますね。これはかなり期待できそうな予感はしますが、予選グループ内でNico選手が警戒してるチームや選手などは居ますか。

Nico
まずは韓国ですね。ここに関してはあまりにも強すぎるので、全チームが口を揃えて挙げると思います笑 プレイヤーに関しても全員が超一流すぎて別格です。日本のグループステージ進出はほぼ間違いないと断言しましたが、流石に韓国戦では相当苦戦するかと思います。サッカーで例えるならブラジルみたいなチームです。

――流石に優勝候補筆頭のチームですからね。ちなみに次点で警戒しているチームはどこでしょうか。

Nico
香港は要注意です。特にタンクのR3kはフィジカル特化の化物プレイヤーで、OWCでも幾度となく闘ってきた猛者です。他にもサポートのMangojaiは大ベテランですし、DPSのXIAOLIANもOWCで活躍していました。日本チームと競るとしたら間違いなくこのチームでしょう。
ちなみに香港チームの中にIRPというプレイヤーが居るんですが、この人がかなりの曲者でして。なんと彼はモイラOTPらしく、NAサーバーでサポート全体1位を獲っているプレイヤーなんです。

――モイラOTPでNA1位!? そんなプレイヤーが実在したんですね……。

Nico
しかも詳細は不明なんですが、モイラを使い過ぎて誤BANもされたみたいなんですよね。彼自身は競技シーンで大活躍してるわけではないですが、ラマットララッシュのメタではモイラはかなり強いと思うので、正直少し怖いです。
ただオーバーウォッチワールドカップのパッチではキャスディがかなり強いので、もしかしたらモイラは以前のパッチよりかは出番が少なくなるかもしれません。

――オーバーウォッチワールドカップは現行のパッチで行われるということで、まだメタ的には分からない部分は多そうですね。

Nico
メタによって強いプレイヤーが変わるので、メタが定まっていない時期に正確な予測をするのは難しいですね。そういった意味では元Kraken Esports Clubが固まっている台湾も警戒すべきチームです。DPSラインが強いですし、メタへの適応力もあると思うので。
とは言え、日本代表の予選突破は期待して良いと思います。

武器はゲームIQとモチベーター。尊敬しているプレイヤーはあの二人

――ここ2年間の成長が著しいと仰っていましたが、実践している練習などはありますか。

Nico
僕自身はエイムの才能はあまり無いと思っているので、ここ数年間、ほぼ毎日エイム練習をしてきました。現役の日本人プレイヤーの中では誰よりもエイム練習に時間を割いてきたと思います。

――それは意外でした。Nico選手といえば鋭いエイムが特徴ですから。

Nico
もし自分にセンスがあるとしたらエイム以外の部分です。ゲームへの理解度や機転の利かせ方、先読みなど、いわゆるゲームIQなどは高い方だと思ってます。あとは味方の士気を上げたりするモチベーターとしての能力には自信があります。他にも「面倒見がいい」という言葉はメンバーからよく言われます。

――そんなNico選手が見本にしたり、尊敬しているようなプレイヤーはいますか?

Nico
実は二人います。
一人はソウルインファーナルのMN3というヒットスキャンプレイヤーです。彼のエイムを見ていると、自分が本当にちっぽけに感じますね笑。OWL東部地域では圧倒的だと思います。見本や参考というより、もはや憧れのプレイヤーです。

もう一人はTENNNというプレイヤーです。彼は「VALORANT」というゲームタイトルで世界的に活躍していますが、昔はOWの日本トッププレイヤーでもありました。OWは何年か前に辞めてしまったんですが、それでも競技をやりたいという思いを貫いて別タイトルでも活躍している姿は本当に凄いなと感じます。
ゲームが上手いのはもちろんなんですが、人間性も重要だと個人的には思っているので、eスポーツ選手としてストイックに活動している姿は心の底から尊敬できます。全ゲームタイトルの中で一番応援している理想の選手です。

見る側とやる側の両方で協力して盛り上げたい

――応援しているファンの皆さんに伝えておきたいことなどはありますか。

Nico
VARRELのOW部門があるのはファンや視聴者の皆さんのお陰です。APACリージョンが消えていた数年間は非常に辛い時期でしたが、その時から変わらず応援してくれている方々のお陰で今の僕があります。
OWCもオーバーウォッチワールドカップも応援してくれてる人には感謝しかありません。普段見ない人にも競技シーンを広めて、OW2の面白さを色んな人に伝えられたら最高だと思っています。
また、2023年からは日本のOW競技シーンも復活を果たし、運営から手厚くサポートを受けられるようになりました。見る側でOW2を楽しんでいる方が多いとは思いますが、やる側に回るとそれはそれで全く別の面白さが有ります。OW競技シーンへの注目度は徐々に上がっていますし、今後は環境的にもどんどんOWCに参加しやすくなりますから、見る側とやる側の両方で協力して盛り上げていきたいです。
今後もよろしくお願いします。

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世界各国の代表が出場する世界大会「オーバーウォッチワールドカップ2023」は6月23日18時(日本時間)からTwicthYouTubeにて配信されます。

photo by みずイロ(@mizuiRocket)
text by gappo3(@gappo3gappo3)


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