第三の小話「バイオリニスト」

むかしむかし、あるところに、一人の青年がおりました。

青年はプロのバイオリニストを目指しており、片時も離さずバイオリンを側に置き、食事もろくに取らず寝る間を惜しんで必死に修業していました。

しかしどれだけ練習しても、他のバイオリニスト達に抜かれていくばかり。
青年はとても焦りました。自分が劣っているのは自分の努力が足りないからだと思いました。青年はもっともっと練習しました。
手に豆ができ血が出ても、青年はバイオリンを弾くことを辞めようとはしませんでした。
食事や睡眠をとっていないので、いつもふらついて外に出ることすら出来ませんでした。
周りは練習を辞めるよう説得しましたが、青年は諦めるなんて許さない、自分自身にも周りにも負けることは認めないと言って聞きませんでした。

ある日、練習のしすぎでとうとうバイオリンの弦がぷつんと切れてしまいました。
練習に打ち込んで仕事をしていなかった青年には、新しい弦を買うお金はありませんでした。
プロを目指してあんなにたくさん練習したのに、もうバイオリンを弾く事ができない。それどころか今の自分には弦を買うお金すらない。
青年は悲しくて悔しくて、わんわん泣きました。
たくさんたくさん練習したのに、青年は報われませんでした。

青年は1日中大きな声でわんわん泣きました。そして、大切なバイオリンを抱えたまま糸が切れたようにパタンと倒れ、そのまま死んでしまいました。

青年が息を引き取ると、バイオリンは柔らかい腕の中で静かに朽ちていきました。

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