夏のサイコパス・ホラー ショートショート32選 (テキスト版)
X(旧Twitter)でフォロワーさまにテーマを募集し、書かせていただいたサイコパス・ホラー系ショートショート32作品をまとめて掲載します。プライバシー等に配慮し、Xでは掲載していたアイディア提供者さまのお名前は割愛しております。ご了承ください。
こちらはXでは画像で掲載していたものを、テキスト化したものです。基本的な内容は変わりませんが、読みやすいように句読点等の位置は若干異なります。
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夏のサイコパス・ホラー ショートショート32選
※各ショートショートの最後にある()は、フォロワーさまよりいただいたテーマです。読み上げの必要はありません。
1.「スイカ割り研修」
夏の新入社員研修という面倒なものに参加することになった。
先輩社員に聞いてみると、なんでも海でスイカ割りをするのだという。先輩は「今年のスイカどうしようかな?」と、頭を抱えていた。
スイカの産地や、味にこだわりでもあるのだろうか?
そもそも新人研修に海でスイカ割りって、脳内お花畑かよ?と問いたい。
どうせ、水着のギャルやらビールやらが目的だろうに。くだらない。
だが、行ってみて確かにそれは新人研修なのだと実感させられた。社長が所有しているというプライベートビーチには、水着のギャルどころか、社員以外誰も居ない。
そんな寂しい海辺の砂浜に、虚しく置かれた1個のスイカ。
「よかったな、お前はスイカに選ばれなくて」
先輩が笑う。
「いいかお前ら。ルールは簡単だ。これでこのスイカを割って、綺麗に割ったやつが優勝だ。賞品は翌年のスイカを選ぶ権利だ。がんばってくれ」
先輩はキラリと輝くものを天にかざして言う。
なぜ自分は刃物を製作する会社になど入社してしまったのだろうか。
(テーマ:すいか)
2.「オリジナル七夕」
今日は七夕。
大人になってからあまり興味のないイベントだったけれど、今年は特別。
だって去年から遠恋してた彼が、帰ってきてくれるっていうから。
ちゃんと、短冊を飾ろう。
あぁ、でも、まずは笹を手にいれなけきゃ!
みんなと同じはつまらないから、オリジナルのものを手作りしよう。
こんなことやったことないから、正しいやり方は分からないけれど。
多分、こんな感じで大丈夫。
ねぇ、君もそう思うでしょ?
短冊はどうしようかな?
折り紙や色紙を使うのが一般的だと思うけど、そんなのつまらない。
そうだ、この笹から皮だけ剥がして、短冊にしよう。
あっ、これなら自動的にインクも出てくるじゃん!
色が赤だけなのが残念だけど、仕方ないよね。
そして、肝心の願いごとは……
「○○くんと、ずっと一緒にいられますように」
だったけれど。
もう叶ってるから、わざわざ書く必要ないか。
(テーマ:短冊)
3.「日焼けをするためのキカイ」
古くからの友人と久しぶりに再会し、炎天下の下、夏談義に花を咲かせる。
「よう! 久しぶり! お前、いい色に焼けてるなぁ!」
「だろ? 今は美白にこだわるやつも増えたけど、この小麦色こそが夏の男!って感じするよな」
「だよなぁ。俺さ、若い頃はよく日サロ行ってたんだけど。最近見かけないから、なかなかいけないんだよなぁ」
なんだ、そんな話しなら、もっと前にしてくれれば良かったのに。そう思いながら言う。
「だったら俺んちこいよ。日焼けサロンにある機械、この前買ったんだ」
「お前あれ買ったの?! そりゃいい色に染まるわけだ!」
「あぁ。これでわざわざ焼く場所とか探す必要もなくなったしさ。お前も使えよ」
「いや、でも、お前、彼女と同棲始めたばっかって噂聞いたし、俺が家いくのまずくね?」
「んなこと気にするなよ! お前が来てくれたら、アイツもきっと喜んでくれるはず……って彼女から電話! ちょっと待ってて」
俺は慌ててその場を少し離れる。古くからの友人と言えど、彼女との電話の内容を聴かれるのは気まずい。
「……ん? 夕飯? 今日は焼肉にしようぜ! ちょうど、俺の友達が来てくれることになったからさ。 ほら、あの新しい焼き肉用の機械、用意しといてくれよ」
(テーマ:日焼け)
4.「芸術作品」
タンクトップに短パンという夏らしい恰好の彼。
腕の筋肉の付き具合が程よくて美術館に展示されている彫刻作品のようだ。
「あ、あの……」
彼が申し訳なさそうに話しかけてくる。こんなに逞しく綺麗な肉体を持っているくせに話し方はオドオドしてて可愛い。
「なに?」
私が聞くと、彼はもごもごしながら言う。
「ぼ、僕……お、おにぎりが食べたい……」
「辞めてよ。その恰好でそんなこと言ったら『裸の大将』みたいじゃない」
思わず笑ってしまう。
「真剣に言ってるんだよ」
「あんまりごちゃごちゃ言うと、切り絵にしちゃうわよ?」
「ごめん。もう余計なこと言わないから。そ、それだけは、やめて……」
彼の血肉で切り絵も悪くないけれど、今はまだ筋肉を楽しみたいから……余計な口は開かないで、大人しくそこに展示されていてちょうだい。
(テーマ:裸の大将)
5.「赤い残骸」
この夏の暑さは酷い。夜になっても、全く涼しくならない。家の前のゴミ置き場も、異臭を放つ。
……ぐしゃり。
ヒールの踵が何かを踏んだ。
「なにこれ? ……トマト?」
思わずひとりごとを言ってしまう。
熟れすぎて腐り果てる一瞬前のトマトのようになっているそれを見て、吐き気を覚える。そして、踏み潰した踵から果汁のようなものが流れていく感覚が気持ち悪い。
それにしても、なぜ、こんな場所に落ちているのだろう? ちゃんと、朝にゴミ出ししたはずなのに。
あいつの残骸は、すべて完璧に処理したはずなのに。
(テーマ:トマト)
6.「アットホームな職場」
私は「風鈴」という仕事をやっている。
家の外にぶら下げられ、風が吹くと「チリン」という音を出す。
誰にでも簡単にできる仕事だ。
しかも家族がいるから、アットホームな職場でもある。
さらに、働くのは夏だけ。
短期集中で稼ぎたい人にはおすすめだろう。
しかし、この猛暑である。
家族は冷房の効いた部屋に籠りっぱなしで、私の存在など忘れている。
なので私は、家族の誰かが少しでも家から出ると「チリン」と声をかけた。
そう、私は風など吹かなくとも「チリン」できる有能な風鈴。
しかし、家族は、とくに父親は私を見向きもしない。
必死の形相で、どこかへ向かう。
「気を付けてね」の意味を込めて、もう一度「チリン」と声をかけたが、これも無視された。
昔は、優しい人だったのに。
暑さで気でも狂ったのだろうか?
しかしそれは、ある日突然に起きた。
風などない静かな夜、僅かの睡眠から目覚めるとそこには……足をゆらゆらさせている家族たちが居た。
私の横に、綺麗に一列に並んでいる。
最近イライラ気味だった父親が穏やかな顔をしている。
母親も高校生の息子も、色々な液体が出ていて涼しげだ。
そうか、そういうことだったのか。
父親は「仕事を首になった」と嘆いていたが、風鈴になることにしたのか。
それに5年以上、顔すらまともに見なくなった引きこもりの息子もいよいよ働く気になったのだろう。
風鈴であれば大した労働ではないし、夏季限定だから、君にもきっとできるはずだ。
そして、そんな2人を支えるために、母親まで風鈴稼業をしようというのだから、素晴らしい家族愛だ。
ちゃんと一人前に「チリン」できるようになるまで、私が優しく教育しようじゃないか。
こんなアットホームな職場に出会えたことを、心より嬉しく思う。
(テーマ:風鈴)
7.「風船に潜む復讐の罠」
人が溢れるほど集う花火大会の会場で、本能なのか、なんの迷いもなくアイツを探しだした。
水風船を見ていると、まだ幼いころの家族での楽しかった時代が思い出されるが、今はそれどころではない。
アイツに声をかける。
「そこのお2人さん、水風船取っていかない?」
アイツは一瞬こっちを向き、隣で腕を組む女に得意げに
「俺、昔からコレ得意なんだよ」と言う。
予想通りの反応すぎて、笑ってしまいそうになるのをグッと堪える。
今日のためにこの屋台を用意してきたのだ。
今バレるわけにはいかない。
「この金色のは当たりだから。取れたら景品もあげちゃうよ」
そういうと、アイツは何の躊躇いもなく、金色の水風船をすくった。
隣にいるバカそうな女が「うわぁ、すごい」と拍手をする。
景品には事前に用意したビール2缶を渡した。
アイツはすぐに家に帰りこれを飲むだろう。
そして、すやすや眠る。
その頃には、冷蔵庫のように冷えるアイツの部屋で、水風船が破裂する。
すると、部屋中に有毒なガスが充満し、2人は息をすることさえ出来なくなる。
普通の状態なら窓を開ける程度でどうにかなるが、あのビールを飲んだ2人は動ける状態ではない。
最高の苦しみを味わいながら……
死ね。バカ親父。
(テーマ:水風船)
8.「先輩監視員」
今日はプール監視員のバイト初日。
どうやら新人には先輩が常について、指導してくれるようで安心して働ける。しかも、この先輩はやたらと勘がいい。
「あの男の子、注意して見てて」
先輩に言われ、その男の子を見ていると……途端に溺れだした。
「うわ、大変だ。救助行ってきます!」
救助のスキルだけは身に付けていた俺は、慌てて男の子を持ち上げる。
そんなことが1日の間に3回も起きて、俺は先輩には予知能力があるのではないか?と思った。
バイト終了後、他の先輩にその話しをしたら、首を傾げられた。
「うちは初日から1人で監視するし、実際お前は今日、1人で仕事してただろ? 初日で3人も救助してて、すげーなって思ったんだよ」
えっ……俺の隣にいたやつ……まじ誰なんだよ。
(テーマ:プール)
9.「ライトな恋愛プラン」
恋愛相談所「天の川」へようこそ。
当相談所では、彦星と織姫のように、年に1回だけ会えるライトな恋人づくりを提案しております。
昨今の日本は3人に1人が離婚していると言われており、結婚というのはあまり現実的な選択とはいえません。それに、普通の恋愛も駆け引きだの何だの、面倒じゃありませんか?
1年に1回会うくらいが丁度いいと思いませんか?
ちなみに特定の方と会うのが1年に1回というだけで、365日、別の方と会って遊んでいただくことも可能です。ただし、毎年、同じ日に同じ人と必ず会ってください。
例え仕事だろうと、病気だろうと。あなたに恋人ができようが、結婚しようが関係ありません。
彦星と織姫は天候に左右されがちのようですが、世界の全てが雨ということはございませんので、実は毎年会っているのです。
それに倣(なら)い、あなたも必ず毎年同じ日に同じ方と、どちらかが天寿を全うするその日まで会い続けてください。
こんなライトでありながら一生楽しめる恋愛プラン、他にないと思いませんか?
尚、規約違反をされた場合は……本部のある天の川営業所に相談の上で、天の川に輝く星の一つとなっていただきます。
あちらも人材不足で困っているようなので……おっと、余計なことを申し上げました。
さて、お好みのタイプを教えてください。
性別や年齢、職種等は一切関係ありません。
年に1回会うだけですから。その辺は気軽なものですよ。
……入会を取りやめたい? それはできませんよ?
だってあなたは今、実際に私と会っているじゃありませんか。
私はここの職員であり、会員でもあるんです。
つまり、既に年に1度は、私と会っていただくという契約が成立しているのです。
来年が楽しみですね。
(テーマ:天の川)
10.「パンイチワークス」
戦争が長く続き、世界は物資不足に陥った。
失業者も溢れ返り、この国は混沌の渦の中にいる。
そんな中、俺は、幸いにも俺は仕事にありつけた。
派遣ではあるが、時給は数千円以上。
高いものだと、数万円や数十万円の派遣先もある。
派遣会社の名前は「パンイチワークス」。
怪しさ全開ではあるが、仕事は簡単だ。
俺がメインにしているのは、メンズ下着売り場のマネキン。
物資不足の世の中ではマネキンの供給が追い付かず
人間がマネキンの代わりをすることは珍しくない。
指定された場所に、指定されたパンツを1枚を履いて立っていれば1日に数万円は稼げるのだから、いまどきこれほど美味しい職業はあるまい。
その他にも美術館の銅像の代役や、電力不足時は信号機の代わりをやったこともある。
信号機は普段の仕事より若干難しく、信号の色が変わったことを知らせるために赤いパンツから黄色いパンツに履き替え、さらに青いパンツに履き替える……というのを繰り返す必要がある。
よって、時給は1万円以上と、かなり美味しくもある。
あっ、そうそう。今日は新しい派遣先に行く。
時給はなんと10万円。
具体的な仕事内容は分からないが、大富豪の遊びに付き合うだけらしい。
ただ渡されたパンツのデザインが特殊で、いわゆる俺のオレがある中央部分に三重の円が描かれている。
まぁ、これ履いて庭で立っているだけだから、どうということもあるまい。
派遣会社の人も
「今回の仕事は楽だぞ。お客様の腕がいいから一瞬で終わる」
って言ってたしな。
(テーマ:パンイチ)
11.「代用食品」
「優勝賞品100万円」の謳い文句に釣られ、スイカの早食いコンテストとやらに参加してみた。
まるであの大物芸人のようにスイカを食べる姿は、見ている者にとって滑稽だったに違いない。しかし、100万円のためだ。笑われようが馬鹿にされようが構わない。
俺は必死に食いまくり、見事に優勝した。
最後に司会の人にインタビューを受けた。
「優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「あの……最初に言いそびれてしまったのですが……」
「え? なんですか? 今さら賞金なしとか辞めてくださいよ?」
「それはありませんよ! 賞金は後ほどお渡しします。
ただですねぇ……」
「なんでしょうか?」
「今、世界は慢性的なスイカ不足でして。今回は代用食品で対応したのですが、お味の方いかがでしたか?」
「え?! あれスイカじゃなかったんですか? いやでも、めちゃくちゃ美味かったですよ」
俺は食べ物にあまりこだわりがないので、それが代用食品であろうがどうでもいい。
しかし、司会者の顔は晴れない。
「あぁ、あれ美味しかったんですね。まぁ地球温暖化の最大の原因を取り去るという環境問題にも配慮した代用食品ではあるので、これからもぜひ食べ続けてくださいね」
(スイカの志村食い)
12.「俺のサーフボード」
「オヤジさん、元気にしてるか?」
俺がそう尋ねると、サーフボード屋のオヤジは肩を落とし気味に答えた。
「最近、体力が衰えてきてね。ボードを作るのが大変なんだ」
「んだよ、そんなことかよ! オヤジさんならまだまだいけるよ! なんなら俺が手伝おうか?」
「お前にだって仕事や家族があるだろう」
「それがさぁ、この不景気でリストラに遭っちまって。家族も出てっちゃったんだよ」
「それなら余計に、サーフィンなんかしてる場合じゃなかろう」
そりゃさ、オヤジさんの言う通りだけど。
今の俺にとって、サーフィンしか楽しみがないんだよ。
そこんとこ、分かってほしいよな。
俺の気持ちを察したのか、オヤジさんは話しを続けた。
「あと問題は素材が不足してることなんだ」
「え、オヤジさん何で作ってんの?」
「いや、その辺に転がってる天然素材なんだが……お前、素材集め手伝ってくれるかい?
そうしたらお前だけの専用ボードを作ってやろう」
マジかよ。
サーファー業界で「神」と呼ばれるオヤジさんに、専用ボード作って貰えるなんて最高じゃねーか。
俺、プロサーファーにでもなっちゃう?!
熱中症を気にしてか、オヤジさんは俺に冷たいお茶をくれた。
少し苦味が強いが、これも気付け薬と思い一気に飲み干す。
「まず素材を完璧な形で乾燥させたいから、乾燥室に入ってほしい。さぁ、付いてきておくれ」
なんだか眠いような気もするけど、んなことは言ってられない。
俺のサーフボードのために頑張るぞ!
(テーマ:サーフィン)
13.「火種」
今日は君と最後の線香花火。
ねぇ、君からも見える?
この儚い命の灯火が。
濡れた紙に、小さな火が落ちる。
独特の匂いが鼻をつく。
けれど、ぽたり、ぽたり
……という音が、耳に心地よい。
この小さな恋の火は、やがて大きくなる。
そして、君と私を優しく包んでいく。
暑くて熱い、愛の夜。
これで、私たちは永遠に一緒に居られるね。
大輪の花火さえも届かない世界で
この恋は叶えられるんだよ。
(テーマ:線香花火)
14.「バカップル」
「あっくんってカブトムシとか大好きだよね」
「子どもの頃からの唯一の趣味なんだ」
「私も生まれ変わったら、カブトムシになりたいなぁ」
「……え? なんで?!」
「この子たちみたいにお部屋に飾ってくれたら、あっくんとずっと一緒に居られるもん」
「んだよ、そんなこと考えてるの? バカだな、お前は」
「えぇー、だってぇ」
「お前は今のままで最高に綺麗だし、大好きだよ。てか、そんなに俺と一緒に居たいなら、この家で暮らせよ」
「あっくん♡♡♡」
「……痩せてる割に骨組みはガッチリしてるし、筋肉のバランスもちょうどいい。浮き出てる血管は美しく張り巡らされているから……樹脂を使えば……」
「あっくん、なんの話ししてるの?♡」
「なんでもねーよ。ただ俺はこのカブトムシたちよりお前を大事にするし、永遠に愛していく自信があるってだけの話し」
(テーマ:カブトムシ)
15.「ごっこ遊び」
ミーンミンミンミン……ミーンミンミンミン……
夜の街灯に照らされる真夏の夜の繁華街。
俺は、最高の声で鳴きながら、蝉仲間に告げる。
「ミーンミンミン……俺は、この辺で行くな! またな」
ミーンミンミンミン!
仲間たちも美しく鳴いて、見送ってくれる。
俺はそれを聴きながら、電柱から落ちる。
すると通りがかった女が「キャッ!」と声を上げる。俺はその声に起こされるように、もう一度高く飛び上がる。女は更に驚き、声も出ない様子で倒れてしまう。
あぁ、楽しい。蝉に生まれたからには、この「蝉ファイナルごっこ」を満喫しなきゃ。
あと6日で、何人くらいやれるかな……?
電柱に戻ってそんなことを考えていると、グチャ!という鈍い音が微かに聞こえた。
「倒れたふりしてあげたの楽しかった? たかが虫ごときが人間で遊ぼうなんて生意気なのよ。大人しくしてれば、あと6日は生きれたでしょうに……私の前で蝉ファイナルごっこしたことを、せいぜい悔やむのね」
(街灯の下の蝉ファイナル)
16.「かき氷中毒」
「あの店のかき氷一気食いしてみ? まじ世界変わるから」
地元の先輩にそう言われ、街はずれの古びたかき氷店にやってきた。
最近流行りの高級かき氷が出るわけでもなければ、メニューに特徴があるわけでもない、なんてことないかき氷店。
それでも先輩に言われた通り、イチゴ味のかき氷を一気食いすると……頭がキーンとなった。痛い。痛すぎる。何が世界が変わるだよ、馬鹿! ただ普通に頭痛くなっただけじゃねーか。
「おやおや、辛そうだね。これでも飲みなさい」
店のおばちゃんが、暖かい飲み物を持ってきてくれた。こうなりゃヤケクソ。これも一気に飲んでやる。
すると瞬時に頭の痛みが和らぎ、脳内がふわふわとした優しい感覚に包まれる。あぁ……気持ちいい……最高の気分だ。嫌なことは全て消えて、幸福感だけが溢れる。
この日以来、毎日この店に通い、かき氷一気食いからの暖かい飲みもの一気飲みで最高の癒しを感じていたが……10月に店が閉じられてしまった。
夏季限定営業だったので仕方ないが、あの快楽を遮断されてしまうのはあまりに辛い。
先輩に似たような店がないか聞きにいくと、驚いた顔をされた。
「おい、お前……どうしたんだよ。痩せこけっちまって……目もラリってんぞ? あぁ、あそこのかき氷にハマったか。似たような店はねーけど、もっといいもん教えてやるからこっちにこいよ」
(テーマ:かき氷の一気食い)
17.「セルフ入道雲発生装置」
入道雲を見ながら
優しく微笑む君の横顔が素敵すぎて
どうしてももう一度見たくなった
入道雲の発生条件は
湿った地面と熱い日差し
地面は赤い液体で染めた
全身が煮えたぎるような
この熱い恋心は太陽にだって
負けない自信がある
これでもう一度
君が笑顔になる
残念なのは
その顔を見られないこと
それが悲しくて
叫びながら
号泣してしまうかもしれないけれど
入道雲のあとには
雷と雨がやってくるものだから
一緒に楽しんでね
この夏 最後の入道雲を
(テーマ:入道雲)
18.「ブラックそうめん」
家に帰ると、妻の様子がおかしい。
「ただいま。……お前、何してんの?」
「お夕飯のそうめんを作っておりますの」
もう、そうめんには飽きているけど……そんなことも言えるまい。
「あぁ……そうか。じゃその前にザッとシャワー浴びてきていい? 外回りだったから、汗やばくて」
「……どうぞ。タオルと着替え、用意しておきますわね」
シャワーを浴びて戻ってくると、食卓の中心に涼しげなガラスの食器が置かれていた。なんだ、様子がおかしかったのは俺のきのせい……じゃなかった。
「おい、お前、これ……そうめんって……」
「召し上がらないの?
カスミさんやキリカさんの家では、美味しそうに召し上がっていらっしゃったのに」
「お前、ど、どうして……それを……」
「あなたがいつどこで何をしているのか、全て分かっておりますわよ? 私は“妻”ですから」
「……あ。あっ、ごめん!! お、俺ちょっと、た、煙草買って……くる……!!」
思わず逃げ出してしまった。
妻が“そうめん”というそれは、黒かった。あれは、きっと……
「せっかくカスミさんやキリカさんにも食材を提供していただいたのに。お召し上がりにならないなんて、もったいない。もうこれで、お2人とは二度と会えないって、分かっていらっしゃるのかしら?」
(テーマ:そうめん)
19.「ヒマコと闇落ち」
“グサッ。ぶっしゃっああぁぁぁぁ!!!!”
あら、ヤダ!!この赤い液体なによ?
アタシの綺麗な黄色が汚れちゃったじゃない!!!
人間同士の殺し合いなんて自由にしてくれて構わないわよ?
でも、いくら分かりにくいからって、真昼のひまわり畑ではやめてちょうだい!!!
あっ、自己紹介が遅れたわね。
アタシ、向日葵のヒマコよ。
あら、ちょっと待って。
なんでアタシまで引っこ抜こうとしてるの?証拠隠滅?
アタシしゃべらないわよ。口の硬いオンナよ!
ぎゃぁぁぁぁ!!! やめて!!!!
血なんて拭けばいいじゃない?
なんなら赤い向日葵って設定でお店開くわよ?
だから、ちょっと! 抜かないでぇぇぇ!!!
えっ、彼女の血が付いた向日葵を飾りたいの?
もうヤダ。こいつ完全にサイコパスじゃない。
ま、でも、他のみんなの栄養全部奪って、枯れさせたアタシには勝てないと思うわよ?
いいわ。そんなに言うなら抜いてちょうだい。
アタシの根は、半端なく深いの。
一緒に闇落ちするのも悪くないわね。
あっははははははは!!!!!
(テーマ:向日葵)
20.「ワイは黒猫やで」
あぁ、冷房気持ちええわ。
前の家にはなかったから、必死で涼しいとこ探し回る毎日やったけど、ここではそんな必要あらへん。エアコンの下で身体のびのび最高や。にゃー!!!
あっ、どうも、ワイは黒猫やで。名前はセバスチャ……
「おーい、クロ! エサだぞ」
……名前は、クロになったで!
「エサこれで大丈夫か? 猫飼ったことないから、口に合わなかったらごめんな」
何を仰るお殿様!
こんな高級キャットフード前の家じゃ見たことすらあらへん。
最高や。なかなか、ええセンスしとるで。
「てか、あいつ。猫飼ってたんだな。俺知らなかったんだ」
そりゃせやろ。
お前があいつを勝手に好きになって、あの日初めて家に入ってきたんやから。
まぁあいつもエアコンないからって窓全開にしとったし、隙だらけやったからしゃーないけど。
……殺すことはなかったんちゃうか?
まぁええわ。冷房最高やし。
お前殺人犯やけど、ワイには優しいし。
せやけど、ワイを殺そうとしたら、あかんで……?
猫の祟りは七代先まで続くんや。
そこんとこだけ分かってもらった上で、まぁ仲良くしよか?
(テーマ:エアコンで堕落したにゃんこ)
21.「甲子園行きのラブレター」
拝啓
甲子園出場おめでとうございます。
先輩の3年間の悲願が達成されて、私も心から嬉しく思います。
はじめて先輩に出会った1年生の春。
部活が終わっても、一人素振りを続ける姿に心を打たれ、恋をしました。
それ以来、練習終わりに飲めるように、冷たいスポドリを用意する日々。
照れ屋な先輩は一度も飲んでくれませんでしたね。
でも一緒に置いておいたタオルだけは、1度だけ手に持ってくれましたよね。
あのときのタオル、今も洗わずに大事に飾ってあります。
そして、先輩が変な女に狙われて練習の妨げにならないように、帰宅時は必ず後ろで警護もしていました。
こうした私の思いが実り、先輩が甲子園という大舞台に立てることに、最高の喜びを感じております。
本来であれば私も甲子園の客席から先輩を応援したいのですが……数日前、誰かに頭を殴られてしまい、現在入院中なのです。
警察の話では、凶器はバッドである可能性が高いとのこと。
きっと、私たちの仲を邪魔したい誰かによる犯行でしょう。
先輩も身辺には気を付けてくださいね。敬具
(テーマ:甲子園)
22.「最高の浴衣教室」
“実習付きで誰でも簡単! 最高の浴衣教室”
とやらに無料で参加することになった。
講師は熱く語る。
「まず浴衣そのものは、死体を包んで運ぶときに便利です。
色彩的に際立たせようとするのであれば、淡い色のものを選びましょう。
特に白であれば、血しぶきが花火のように映え、とても美しい仕上がりとなります。
次に帯ですが、これは便利ですよ。
首を締めるという直接的な方法はもちろん、拘束にも使えます。
あと、女性の場合は髪飾りがありますが……これは見栄えは最高です。
ただ実際のところ、殺傷能力が低いものが大半です。
目をえぐり出す等、グロテスクな使用法はありますが、私は好みません。
最後は下駄について解説しましょう。
下駄は、足音が響くので、ご注意ください。
地面が土であれば、跡も残ります。
そして、これといった使い道がない面倒なものです。
まぁ、事前に仕込みをしておいて“鼻緒(はなお)が切れた”という状況を作り上げ、出会いのシーンを演出するという方法もありますが……これはハイレベルなので初級コースの皆様にはオススメしません」
私は一体、何の講座を聞きに来てしまったのだろう。
「それでは、実習に移ります。当講座は基本的に有料ですが今回は実習のモデルをしてくださる方を。無料でご招待しております。さぁ、そこのあなた、こちらへどうぞ」
(テーマ:浴衣)
23.「冷やし中華はじめますか?」
見慣れぬ場所に見慣れぬドアがある。
“冷やし中華はじめますか?”
という奇妙な看板が掛けられており、興味本位でドアを開く。
しかしそこにあったのは中華料理店ではなく、農村風景。
【店主は麺を用意しております。お客様は野菜を収穫してください】
というメモを見て、なるほどこれはあたらしいタイプの体験アドベンチャーかと思い、きゅうりとトマトを獲る。
すると次のドアが開く。コケコッコーという元気な声が聞こえる。
【次は卵をご用意ください】
メモを見て、親鳥に心で詫びながら生まれたての卵を1個だけもらう。
すると次のドアが開く。ブーブーという鳴き声に背筋が凍る。
【次は豚肉をご用意ください】
メモの横に大きなライフルのようなものが置かれている。
「そ、それは……無理だ……!! 勘弁してくれ!!」
そう叫ぶと次のドアが開く。
【最後は食肉加工です。豚がいない場合、別の肉を入れてください】
見たことがないデカすぎる機械を前に、閉口する。
どこをどう見ても逃げ道はない。
ようやく、看板の意味を理解する。
自分はどうやらこの夏、冷やし中華をはじめるようだ。
(テーマ:冷やし中華はじめました)
24.「あとをおう」
法要を兼ねて、久しぶりに母の故郷を訪れた。
しかし、あまり親戚に馴染みのない俺は、どうにも居心地が悪く、適当な理由を付けて散歩に出る。
外の暑さにむせ返りそうになっていると、ゆらゆらと動く幻影のようなものが目に入る。
所謂「逃げ水」と呼ばれるものだ。俺はその逃げ水に呼ばれるように後を追ってしまう。
いくら追いかけても届かないと知りながらも、逃げ水は手招きをする。
「こっちへおいで」
そんな優しい声が聞こえるような気がして、無我夢中で追いかける。
すると急に
「ユウキ、何やってるんだ!!」
という男性の叫び声が聞こえ、ふと我に返る。
「ユウキ、お前何をするつもりだったんだ?! まさか母さんの後でも追おうとしたのか? そんなことは頼むからやめてくれ! もう父さんは大切な人を失いたくない」
声の主は父だった。
俺は赤信号を無視して渡ろうとしていたようで、父が全力で抱きついてそれを阻止していた。
そういえばここは、2年前に母が事故死した場所だ。
あの逃げ水の正体は何だったのだろうか?
ただの科学的な現象だったのだろうか?
そんな疑問を抱えながらも、二度とこの場所に来るのはやめようと心に誓った。
(テーマ:逃げ水)
25.「勉学に励む男」
都会には街燈が立ち並び、洋装の者が増えてきたという。
しかし、私が暮らす田舎の農村では電気などというものは未だ通らず、夜の勉学には蠟燭(ろうそく)を用いるより他に術がない。
でも、貧乏な我が家はついに、蝋燭すらも買えなくなった。
私は仕方なく、カゴいっぱいに蛍を集め、その光で勉学が出来まいかと試みた。
だが、どれだけ蛍を集めようとも蝋燭1本の光にすら届かない。
終いにはチラチラ動く蛍の光に嫌気がさし、カゴごと持って家を出る。
そして寝静まった隣家の勝手口に入り、油を拝借する。それを蛍にかけ、マッチの火を落とす。
「おぉ、これなら勉学に使えそうだ」
燃える蛍を見ながら、私の心は大いに満たされる。
しかし家に持って帰るには目立ちすぎると思い、美しく光る蛍たちに別れを告げて家に帰る。
やがて隣人宅が炎に包まれていく。木造なのだから、一度付いた火はすぐに大きな炎となるのは当たり前のことだ。
「素晴らしい。これならば、昼と同じくらいの灯りになるな」
早速、本を開く。
何と文字の読みやすいことだろう。
周りが何か騒がしいが、そんなものには惑わされない。
私は強い意志を貫き、希望の光を信じて、勉学の道を生きる。
(テーマ:蛍の光)
26.「血の雨」
SNSで知り合った仲間数名と夏の海へやってきた。
ほとんどの人が初対面ではあったけれど、毎日のようにゲームをしながらボイチャをしているので、まるで「はじめまして」という感覚がない。
泳ぐ前に男性陣で砂浜にビーチパラソルを用意する。
女性陣はレジャーシートなどを敷き、休憩所と荷物の拠点をつくる。
それにしても水着の女の子っていうのは可愛いな。
ここに好きな子が居れば最高なのに……などと思う。
そんな矢先、一人の女の子が悲鳴を上げる。
「きゃー! な、なんなの、これ……血……?」
広げたビーチパラソルから、ぽたりぽたりと血の雨が降ってくる。
その瞬間、全員が恐怖という見えない空気に包まれる。
男のひとりが言う。
「なぁ、そういや今日ひとり女の子足りないよな……まさか」
ほぼ初対面のメンツだから、一人くらい消えても分からないと思っていた。
しかしこの血を発端に誰かが警察に電話をし、捜査が始まってしまった。
……おかしい。
俺は確かにビーチパラソルであの女を殴り殺した。
いくら俺が好きだと言っても、受け入れてくれなかったから。
けれど、凶器に使ったパラソルは処分し、別のものに変えておいたはずだ。
それなのになぜ、血の雨など降るのか……全くもって意味が分からない。
呪いだとでも言いたいのか? ばかげている。
あとは、海に捨てたあの女の遺体が、どうか見つからないようにと願うばかりである。
(テーマ:ビーチパラソル)
27.「絶望の芸術家」
突然降り出した雨に、絶望する。
天気予報は快晴・降水確率0%と言っていた。
だから、今日を実行日に選んだというのに。
綺麗に散った真っ赤な花びらが、どんどん流されていく。
まるで赤い川のようになった水流が、汚らしい排水溝へ流れていくのを見ると涙が溢れ出る。
おいっ!! もうやめてくれ!!!
空を見上げていくら叫んでみても、雷鳴に重なり消えていくばかり。
さらに雨の勢いは強くなり、今日のための衣装も一瞬でずぶ濡れだ。
完璧な形で作り上げた「作品」が目の前で崩れていく。
これほど悲しい現実が、この世にあるものか。
だが、この経験は無駄にしない。
次の作品は室内展示にしよう。
人工的になりすぎることを懸念して避けてきた方法だが、全て流されてしまうよりはずっといい。
どんな強い雨にだって、真の芸術家の心は流せない。
次の作品には……君を選ぶよ。
美しく作り上げるから、どうか期待してほしい。
(テーマ:ゲリラ豪雨)
28.「世界にひとつだけのかき氷」
ねぇねぇ見てみて。
かき氷機買ってきたの。
あぁ、今子どもみたいって思ったでしょ?
でも、たしかに子どもの頃からずっとやってみたかったの。
ここに氷をセットして……
あとは、ここをくるくる回せば……
見て! まるで真夏に降る小さな雪みたいで
綺麗だと思わない?
あぁー、でもシロップ買うの忘れちゃった。
ドジだなーとか言わないでよ?
シロップなんて、自分で簡単に用意できるんだから。
えーっと……カミソリどこいったかなぁ?
あ、あった!!
ちょっと痛いけど、かき氷のためだもん。頑張るね!
よっし! できた。
「特性イチゴ味風かき氷」
召し上がれ♡
おかわりも用意しておくね。
(テーマ:かき氷)
29.「台風いっか」
「やぁ、台風一家の父、暴風だぜ! 今日も人間だちが住む街を破壊しつくしてやるぜ」
「どうも。母の雨雲よ。人間や人間の創ったものをどんどん洗い流して、お掃除していくわ」
「おい、2人とも。わしを忘れてはおらんか? 若い者ばかりが調子に乗るから、最近の台風はルール無視なんじゃ。必要以上に同じところに留まったり、道から外れたり。若者よ、もっとしっかりせい!」
「今日のお義父さんの雷も痺れるぜー!」
「あなた、この街の掃除は気が済んだわ。子どもたちも遊びたがっているし、次に行くわよ」
「何を言っとるんじゃ。死者数が目標の半分もいっとらん」
「お父さん、今は昔とは違うの。人間たちも避難する方法を覚えてしまったでしょう? これ以上ここにいても、無駄よ。次の場所は、お父さんの倫理観には外れますけど、少しルートをずらした上で威力を強めましょう。そうすれば、トータル的な死者数は足りるはずよ」
「よーし! それじゃぁ、次の場所へ行くぜー! ふぅー!!!」
「やったぁ。ようやくパパたちが居なくなったから、僕達が遊べるね太陽!」
「そうだな、青空! 俺たちでこの街に最高の暑さを届けようね。きっと人間たちも喜んでくれるよ」
(テーマ:台風一過)
30.「封印」
いつ行っても、あの方は、原稿用紙に埋もれた机に頭をおき眠っていた。
夏なので当たり前だが、窓は全て開かれており、風が吹くたびに原稿用紙が舞う。
出版社の方が取りに来る原稿が散っていたらどうしようと気が気でないが、あの方はわたくしが原稿用紙に触れることを酷く嫌がるので、そっとしておく。
ふと、書棚を見ると、見慣れないものがあった。
透明で可愛らしい瓶に、白くて小さい貝殻が入っている。
それに触れようとしたとき、あの方は起き上がった。
「それに触るな!!」
怒鳴るように言って、また眠ってしまわれた。
普段なら、それで終わり。
けれど、このときのわたくしは、どうしても好奇心を抑えられなかった。
海のないこの街で貝殻を見るというのは、なんだかドキドキする。
あの方が、またすっかり眠ってしまったのを確認してから
わたくしは貝殻入りの小瓶を手にとり、蓋を回す。
すると、何とも言えない強烈な匂いが部屋中を覆う。
「開けるなと言ったのに」
あの方は言う。
「これは……なんですの? 貝殻……?」
「これは俺が昔殺した女の骨の一部さ。ある魔術師に頼んで、この骨と一緒に俺の殺意もこの瓶に封印しておいたんだ」
「殺し? 魔術師? ……なにを言ってらっしゃるの?」
「だが、お前によって全てが解き放たれてしまった。さて、久々の殺しだ。楽しまなきゃなぁ」
わたくしが最後に聞いたのは、あの小さな瓶が勢いよく割れる音でした。
(テーマ:貝殻)
31.「夏野菜戦争」
夏野菜の代表は何なのか?
これは現在の野菜界隈における最大の問題である。
トマトは言う。
「どう考えても私。この赤さ甘さな上に冷たいままでも食べれるものよ?夏は私の季節よ」
「おいおい、冗談言うな」
そう反論するのはナス。
「どんな味でも沁み込みやすい、俺こそ夏のモテ男だろ?」
しかしそれに待ったをかけるのがオクラ。
「私のネバネバは夏バテに効果的なの」
そうなると、普段は寡黙なカボチャも黙ってはいない。
「俺は重量では君たちに負けないが?」
人間は彼らを平気で切り刻み、料理を作る。
そして、つぶやく。
「ここに毒を入れれば完成。これだけ野菜がゴチャゴチャ入ってれば、毒の味なんて分からないわよね? 本当、夏野菜って最高」
人間の狂気を前に、夏野菜たちの小さな戦争は終わりを告げる。全員死んでしまったのだから、仕方あるまい。
(テーマ:夏野菜)
32.「ラジオ体操第315!」
知り合いにボランティアを頼まれ、子どもの頃以来十数年ぶりに朝のラジオ体操に参加した。
「まずは準備運動! 手足をバタバタさせて、感覚を研ぎ澄ませましょう」
ほう。昔とはだいぶ変わったな。
「それでは、ラジオ体操第315!」
おい、待て。ラジオ体操って確か第2までだったよな? いつから315もできたんだ?
「相手の心臓を一突きで仕留める運動!」
は? なんだこの物騒な体操は……。
でも、子どもたちは何の疑問も抱かずに、言われた通りの動きをする。
「次はペアを組んで! 相手を拘束する体操」
やばい。これはやばい。これはラジオ体操なんかじゃない。
逃げなければ。しかし、時は既に遅かった。
「どうされましたか? あぁ、ペアが見つからないんですね。お相手しますよ」
優しく微笑みかける女性に、あっという間に後ろ手に拘束されてしまう。
「……あ、あの、これ……ラジオ体操なんですよね?」
「えぇ。我々にとっては」
「我々……?」
「我々は、サイコパス教習所の生徒なんです」
「えっ?!」
「ちなみにあなたは……実習用の教材です。ぜひ、あの無邪気なサイコパス予備軍たちに、その身を使って教育を施してあげてください。これって最高のボランティアだと思いませんか?」
意識が遠のくのを感じる。なんて最悪のボランティアなんだ。
「それでは次は! 弱りはてた人間の心に付け込み、笑顔でめった刺しにする体操!
イチニーサンシ、ゴーロクナナハチ、まだまだ刺したりないぞー! キュウジュウ、ジュウイチ、ジュウニ……」
(テーマ:朝のラジオ体操)
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