見出し画像

魔性の女と、女に人生を狂わされる男の苦悩が好きだから、『雪女と蟹を食う』をお勧めしておく

魔性の女の魅力にとりつかれ、運命を狂わされる男の物語が好きだ。広義のファムファタールものとでも言うか。
そんな漫画の1つとして夢中になっていた『雪女と蟹を食う』が完結し、コミックス最終巻も出たので紹介しておきたい。

ファムファタールとは、フランス語で「運命の女」という意味だ。物語上では、逃れられぬ魅力で男を絡め取り、約束された破滅の運命へ導く魔性の女を指す。

地位も名誉もある安定した生活の男が、「この女と付き合ったら破滅が待っている」とわかりつつも過ちを犯してしまう心の描写、そして破滅に近づいていくことを見る辛さ。
その過程で男の人生、女の人生が衝突し、にっちもさっちもいかなくなったときに精算のときがやってきて何かしらの結末が導かれる瞬間がたまらなく好きだ。

結末は無理心中かもしれないし、破滅の寸前で救われる展開かもしれない(ファムファタールは男を破滅に導くが、僕が好きなのはファムファタールそのものではなく、それっぽい女が出てくる物語なので救われるのもあり)。
この手の物語、少年漫画なら最後はハッピーエンドだが、男女のやり取りが描かれるから連載は自然と青年誌などになる。よって、先の予測がつかないのもこのジャンルが好きな理由である。

漫画を見ながら「その女はやめておけ!」とじれったく思いつつも、導かれるままに破滅へ歩みを進める男から目が離せない。
目が離せないまま物語を読み進め、終わったときに開放感を味わい、平穏に生きていることに感謝する。
そういった楽しみ方をしている。

で、その中で最近はまった漫画が『雪女と蟹を食う』で、この第1話は本当に最高だった。
主人公は社会的地位も仕事も失い、金もなく、人生に絶望して自殺を考えている男。破滅するもなにも、最初から終わっているのだが、TVの番組を見て「蟹を食べたことがない」ことに思い至り、北海道で蟹を食べてから死ぬことを考える。

画像2

男には蟹を食いにいくほどの金もないから、「どうせ死ぬなら、容姿に恵まれ苦労を知らなそうな恵まれた女から奪ってもばちは当たらないだろう」と、たまたま本屋で出会った女のあとをつけて、衝動に突き動かされるまま強盗に入り、勢いで女に襲いかかる。

画像5

ところが脅迫された女は慣れた対応で、そっけなく体も金も差し出してしまう。
この女、何かおかしい。想像と異なる展開に男は焦り、毒気を抜かれ、ことが終わると「警察に自首する」などと言い始めてしまう。
もとより、自殺できるほどの覚悟などなかったわけだ。

画像6

そのまま女に身の上話までして、「死ぬ前に、北海道までカニを食いに行こうと思って」と言ったところで、物語は急転する。

画像4

「いいですね、蟹」
不敵な笑みを浮かべ、男と共に蟹を食べる旅することを提案するのだ。

画像1

「自殺する前に、一緒に北海道で蟹を食べよう。旅に必要なお金は出すから」という女の提案。
仕事も金もなくなっても、生きていればやり直せる。しかし、この女は死が確定するまでの道案内をしよう、というわけだ。

人生に疲れて自棄になる男の行動は、読者としてギリギリ理解できる。しかし、復讐心を見せるでもなく、その男が死ぬまでのレールを敷いて、金も体も差し出す女は理解の外。
それでいて女の発言にはどこか生々しさがあり、「こんな女もいるのかもしれない」というギリギリのリアリティがある。

『雪女と蟹を食う』第1話の描写が秀逸で、この漫画を見つけたときその日に3回も読み返してしまった。

とくにヤバいのと思ったのは、先ほども出てきたこのコマ。

画像3

先ごろまで自分自身を襲っていた男に対して、何かしら人生に疲れているかのような様子まで見せていたのに、目が輝いている。
なにが「いい」のか。
女の底の知れなさが果てしない。

第1話はマガポケのWEBで見られるので、ぜひ1度見ていただきたい。

(※本記事の画像はすべて1話から引用している)

男の望むことを実行し、それでいて男の理解を超えた思考と反応を示す女が気になり、「あなたの旅の金も、性欲も面倒見ますよ。蟹を食べて死んでね」という感じで、過剰に都合の良い女なのが本当に気持ち悪い。
そのまま先が気になって、僕はその場で全巻購入して読み終えてしまった。

第1巻は男の欲望をすべて受け止めつつ、男の予想を超える反応を見せる女が薄気味悪く、緊張感が素晴らしかった。太宰治の小説で主人公が自堕落とその判断ゆえに破滅に向かっていくのを見るかのような緊張感があった。

さすがに緊張感だけでは成り立たないからか、しばらくすると男の内面や身の上話が増えてくるが、また6巻以降は緊張感が戻り、劇的な結末を迎える。

途中を細かく書いた方が漫画の紹介としては正しいのかもしれないが、僕のスタンスは偏っていて「ファムファタールものは破滅に向かう緊張感と、男女の背景がすべて明かされたときの驚き、最後の決断」を楽しむものだと思っているので、細かく説明すると楽しみが薄れると考えている。

少なくともは僕は、男を破滅に導く魔性の女と、その女の意図が明かされる瞬間、それに対応する男の決断の物語が好きで、『雪女と蟹を食う』から目が離せなかった。

漫画を紹介することはあまりしないから、面白そうに見えているか不安ではあるが、まずは第1話を読んで、興味がわいたら1巻から手を出してみて欲しい。

さて、この先は『雪女と蟹を食う』を読んだら男友達が1人増えたというちょっとした話。プライベートな話だが、書き留めておきたかったので書いておく。
noteのマガジン会員向けのおまけで、大したことを書いているわけではない。

ここから先は

2,067字 / 1画像

¥ 500

げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。