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電ファミの記事が『十三機兵防衛圏』を売りまくった。この快挙に嫉妬しつつも褒めたたえずにいられない

電ファミの『十三機兵防衛圏』が素晴らしすぎて、嫉妬しつつも褒めずにいられない。この記事は、私がゲームキャストを通じてやりたかったことであり、(多分)他のゲームメディアがあまりできていないことをやってのけた。
先を越された嫉妬をメラメラ燃やしつつ、しかし、ゲームメディアに希望の光をともす快挙をここに褒めたたえたい。

電ファミが『十三機兵防衛圏』を売った

事の起こりは2020年1月11日。アトラスから発売されたPS4向けゲーム『十三機兵防衛圏』の紹介記事が電ファミニコゲーマーに掲載された。内容は「『十三機兵防衛圏』は数年に1度の狂気の作品なので、電ファミ編集長の俺を信じて買って欲しい」という気合いの記事。

その熱量は記事を通して伝わり、各所で話題となって7,000RT以上を獲得。記事が出た後で『十三機兵防衛圏』が売れて品薄になり、メーカーがお詫びのリリースをする事態にまでなった。

電ファミニコゲーマーは、『十三機兵防衛圏』の売上を目に見えて引き上げ、本来届かなかったはずのプレイヤーに届けてしまった。
電ファミニコゲーマー自身がそのような分析を行い、記事として出しているけども、どうやってもこれを否定できない。

恐ろしいことに、『十三機兵防衛圏』は税込みで1万円近くするゲームだ。
ダウンロード販売が普及して、面白いゲームはかなり安く買えるなかで1万円だよ、1万円!?
それが品薄になるほど売れるなんて途方もないことだ。嫉妬しつつも賞賛するしかない。

電ファミすげぇ!

電ファミの何がえらいのか

こういう話をすると、「じゃあ、電ファミが特別にえらいのか」とか言われる。でもね。
当たり前だけど電ファミは特別にすごいと思うよ。それは間違いない。
確かに『十三機兵防衛圏』はヴァニラウェアというコアなファンがついているゲーム会社の期待作で、ファミ通など色々なメディアが協力して、みんなで盛り上げてきた。

そりゃ他のメディアの記事にも、地道に情報を伝えてきたことにも意味はある。「ファミ通のインタビューで見たゲームが電ファミで推されていたから買った」状況もあるだろう。しかし、電ファミはそれと別のベクトルの挑戦に成功している。
多くのゲームメディアは、”外に受けるゲーム紹介記事”で成果を出すことを苦手としている。”外に受ける”は、私の用語なのでここで説明しておく。
私は、ゲームメディアとして情報を届けるとき2つのベクトルがあると思っている。

1・そのメディアの読者、ゲーム好きに情報を届ける記事
2・ゲームをチェックない人、本来ゲームしない人に向けて発信する記事

私は、1番を”内向きの記事”と呼んでいる。すでにゲームが好きで、ゲームの情報を積極的に摂取する人に情報を届ける。メディアの枠内に抱えている人、メディアのファンに情報を届けるという意味で”内向き”と表現している。

2番を”外向きの記事”と呼んでいる。本来のメディアの読者ではない人も巻き込み、もしくはゲーム情報を積極的に摂取しない人、購買に至らない人にまで情報を届ける。メディアの枠の外にまで届けるという意味だ。

誤解を避けるために行っておくが、内向きの記事も重要。たとえば『十三機兵防衛圏』を買いたいアクティブなゲーマーが5万人いたとする。そこに体験版やら事前情報の記事がなければ、そういった人に情報が届かずに買わないかもしれない。内向き記事は絶対に必要なのものだ。
通常、メディアは「読者・視聴者に向けて情報を出す」ので、自然に内向きな記事になる。外向けの記事は、本来いないはずの読者・視聴者を引き付ける必要があるため、とても難しいチャレンジになる。
逆にねとらぼは内向けが存在せず、外向けだらけな気がする。

内向けの記事は多くの全メディアでやっていて、気合の入ったものが多い。だが、外向きにはどうだろうか。

電ファミ自身が「電ファミが十三機兵防衛圏を売った!」という記事を出してから、他のゲームメディアのファンが「他のメディアも頑張っていたよ」というのを少し目にした。気持ちはわかる。私も頑張っていたと思う。
しかし、「本来はゲームを買わないで終えたであろう層にPRする」という特別なチャレンジに挑んで成功したのは電ファミだけではなかろうか。

「ゲーム記事を出すときに、少し時間がたってから記事を出した方がSNSなどで良い成果が出やすい(プレイ済の人が共感してRTする)」という理論がある。が、遅れて記事を出すだけで最も読まれるなら、そんな楽なことはない。
また、ちょっとしたSNS優位を得るのではなく、すでに多く存在する記事の中で特別なインパクトを出して、起爆させることは全く別の話だ。

「いいタイミングで記事を出してヒットさせて」と言われたところで、普通はゲームの売上を目に見えて動かす記事を出せない。
爆発のきっかけとなる「最後の一押し」を出すのはとてつもなく難しいし、大抵のゲームでそれは行われない。
それどころか、それをやるのはゲームメディアではなく、最近では単なるゲーマーのツイートだったりする。

そこに対して、電ファミは編集長自らがメディアと自身の信用をかけて『十三機兵防衛圏』の記事を書いて最後の一押しをして、回答とした。1万円のソフトを売りさばける信用を持っているメディアと編集長、両方が素晴らしい。

「あのゲーム面白かった!」と並んで、「あのゲーム、面白いのに思ったより売れていないんだよね」と愚痴るのはゲームライターの定番だ。もちろん、愚痴りたくなる状況から脱出するために記事を書くのだけど、やっぱりハードルは高くて普通はそんな売れない。

面白いゲームに売れて欲しいと思っているのに、自らの記事で面白さを伝えてゲームを多く売ることができない。そんなライターにとって電ファミの記事は嫉妬の対象でしかない。あー、もう、悔しいなぁ!

外向けに書かれた電ファミの記事

もう1つ素晴らしくも腹立たしいのは、この記事が明確に外で受けるために書かれていて、それに成功しているところだ。単にいいタイミングで、編集長が太鼓判を押す記事を出したから受けたわけじゃない。記事内容が外に受けるように作られていたから機能したのだと考えている。

電ファミの記事を読んでみると、強く外向けを意識していて「単にゲームに興味があるレベルの人にも買わせてやる」という強い意志を感じる。
まず、編集長の太鼓判から始まって、ヴァニラウェアの手弁当なお涙頂戴話をキャッチーな話として入れる周到な入り(正直、ヴァニラウェア公式のこの漫画の引用は大変感が即座に伝わってずるい)。

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その後に小難しくゲームの凄さを説明するのだけど、なぜ面白いのか独自の図を用意して理解を促すように解説し、人気タイトルで例示し、力強く「この凄そうなブツを買え」と説得している。

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最後のまとめというか、記事の終わりはちょっと砕けていて読後感もいい。『十三機兵防衛圏』の記事を読むと、書く側の気合が入りすぎてやや気合を入れないと読めないものが多い印象があったが、電ファミの記事はそうでなくとも読めるように工夫されている。

「こいつは参考になるぜ!」

と思ったけど、いざ自分で書こうとしたら真似できなかった。悔しい。だから、この記事は少なくとも私にとってはぐうの音も出ないほどすごい。

メーカーさんは電ファミに広告記事を出してあげてくれ……!

「この記事が明らかに原因だし、広告出します」が増えたら、ゲームメディアも各媒体ごとに発売後の推しのゲーム特集とかやるようになりそうだし。

もっと、メディアの影響でゲームが売れて欲しいから

最後に、なぜ「電ファミの記事すげぇ!」と言うだけの記事を投稿したのか書いておく。

私は電撃プレイステーションなどの全盛期を見ていて、ゲームメディアが中心になって、そのゲームメディアの目利きで選んだ「俺たちが思う面白いゲーム」をプッシュしてヒットに協力する「ゲーム人口拡大」を経験していて、再びそんな時代が来て欲しいという願いがある。

現実を見るとYoutuberやSNSなどの登場で情報の出所が多様化しているから、昔よりもそれは遥かに難しくなっている。なにより、こんなことを言う私自身が書いた記事も内向きにとどまってしまい、本来買わないであろう人々にゲームを買ってもらうにはなかなか至らず、閉塞感を感じていた。
「有料アプリ1位にしたい!」と思って記事を書いた『Song of Bloom』ですら3位どまりだった。

しかし、その枠を打ち破ってくれたのが電ファミの記事だったので、それはそれは記事が光輝いて見えた。

既存ファンに情報を伝えることは「ゲーム人口維持」に必須で、それをするだけでメディアは役割を果たしている。『十三機兵防衛圏』では、さまざまなゲームメディアが頑張って内向きの情報を満たしたから、電ファミの記事がヒットする下地ができた部分もある。
重ねて書くが、それでも各ゲームメディアが内向きの記事をズラリと並べている(電ファミにもそれはある)なかで、外向けに必殺の記事を書いて成果を出せた電ファミの『十三機兵防衛圏』は際立って偉大だと思っている。
誰も、あそこまで外向けに記事をヒットさせられなかったのだから。

理想としては、いいゲームが出たらどこかのメディアから、毎回2度目の起爆剤になる記事が出るべきだと思っている。いいゲームは売れて欲しい、それがゲームメディアで書いているライターなら当たり前の願望だと思うし、そのルートがいつも確保されていて欲しい。

口で言うのは簡単だけど、実際には難しい。そんな行為を当たり前のようにやってのけた電ファミを、ゲームライターとして褒めたたえたくて、少なくとも自分はその思いを文字にしておこうと思って記事にした。
外向けにゲームを紹介したいつもりで、ライバル(勝手に認定)の書いた記事の方が目に見えて影響度高かったら、白旗上げて相手を褒めるしかないよね、という。

電ファミと、記事を書いた編集長の平さん、すごい。嫉妬に狂う。

でもまあ、電ファミじゃなくてもいい。自分の記事でもいい。

みんなでもっと面白いゲームを売り、ゲーム人口を拡大した記事をツイートして、嫉妬するような記事を書いたライターを褒めたたえようぜ!

言いたいことはこれぐらい。

以下、2020年1月のマガジン読者向けのおまけ。

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げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。