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社員、幸せは労働者の義務です。 労働者の幸せ度を測って競わせるSFディストピア的な実験が現実にあるので結果が気になる話。

遊んだばかりのゲームと似た設定の実験が、現実で行われていたら興奮するよね!?

人間を幸福にするためにAIが作った都市、ユニオン・シティに潜入するSFアドベンチャーゲーム『Beyond a Steel Sky』がすごく良かった。
近年は信用スコアによって人間が管理されていくという流れがあるけども、そういった管理社会とか、理想と現実の問題などに切り込んだストーリーもよかったし、単純に娯楽モノとしても良かった。

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ここに紹介記事を置いておくので、気になったら是非見て欲しい。5~6時間で遊べるし、MacやiOS端末があればApple Arcade(初回・初月無料、初月解約も可)だ。

さて、この先はゲーム序盤のネタバレを含む。
このゲームでは、人間の価値はキュドスという単位で計られる。幸福で、前向きであるほどキュドスは上昇し、幸福でなくなればキュドスが低下する。
キュドスが高いほど生活ランクも上がるし、祝賀会など公のイベントには、キュドスが低いと参加できない。

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当然、この社会はゆがむ。幸福であることをPRするために人々は笑顔を絶やさない。常に幸せであること……つまり、常に笑顔でいることが自慢になる。
人間が幸せになるために幸福度という尺度を作ったのに、その尺度にあわせて人々が生活し、それを監視するシステムができてしまうわけだ。

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まあ、SFとしてはベーシックな話ではあるが、そういった社会を作った原因だとか、そこで描かれる幸せの形だとか、人間関係だとか、横の話も絡んでくるので引き込まれて、一気にクリアしてしまった。

そして、気持ちよく眠って目覚めると……ゲームの世界と同じような思想の研究が……いや、それ以上にゆがみそうな研究が現実で行われていることがTwitter経由で伝わってきた。

日立の研究チームが実験している幸福を図るアプリ『ハピネスプラネット』構想である。
このアプリはウエアラブルセンサーやスマートフォンに搭載されている加速度センサーを用いて幸福感の計測・定量化を実現し、「組織活性度(以下、ハピネス度)」を計る。
つまり、キュドスのように幸福度を数値化して見せるわけだ。

幸福度のようなものを計って、人が不幸であることを知り、ケアできるなら素晴らしいことだと思う。
曖昧な感覚で幸福度を決められても困るが、理屈があってセンサーで参考となる幸福度が計れるならそれはそれですごい。

ところが、日立のサイトにある公式情報を見てみると、このハピネス度は幸福度というよりも、他人に奉仕を強要する何かで、単語から連想されるより大変そうなモノというのがわかってきて驚く。
黙って下のサイトを見ていただければ、意図してかわからないがえらいディストピア感が伝わると思う。

まず、この幸福度の意図するところは「幸福度と労働生産性に相関があり、知的労働の生産性を50倍にしたい」という想いが出発点になっているところ。
労働のための幸福。なるほど。

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次に、アプリが計るハピネス度とは自分の幸福度ではなく、周囲を幸福にした度合いと思われること。
周囲を幸福にするほど、幸福にした側も幸せになるという理屈のようだが……つまり、他人をどれだけ助けたとか、そういったことが評価に繋がるわけだ。
しかも、ハピネス度はチーム単位(他人との関わりで実現されるからだと思う)。全チーム中何位とか、そういったハピネス度のチーム対抗ランキングもアプリで提供される。
幸せ度を競うために幸せになるってどういうことだ。しかも、その幸せ度は労働生産性に還元されるとか。

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いくつか読んだ記事だけで全容を理解できないし、実験段階だからこの思想のまま社会に投入されるわけでもないだろう。
しかし、

・労働効率のために幸せ度を数値化し、その上昇を求める。
・幸せのために、他人を助ける干渉を要求する。
・幸せ度はチームで計り、ランキングで競う。

となると、先ほど紹介したゲーム『Beyond a Steel Sky』では個人の幸せ度を追う(自分の行動が自分に返ってくる)モノだったのに対して、チーム内での相互監視も求めるのでより窮屈な仕組みになっている。
SF小説などでは「幸せをデジタルに管理して報酬を設定すると、人間は幸せのための最適な行動を要求されて不幸になる」展開が多い。

果たして、AIディストピアを描くSFは空想上の物語なのか、現実への警鐘なのか。人間は幸福度を利用して、良い社会を実現できるのか。
現実がゲームに追いついたことで、1つ回答が出ようとしている。
いまから結果が楽しみで、日立のハピネスプラネット・プロジェクトの行方をずっと見守らざるを得ない。

※重ねて書いておくが、これは実験段階。実験は失敗して直すためにもあるので、普通に「幸せ度ってこういう使い方しちゃいけない」とか、「この使い方してもSF小説みたいにはならず人間に貢献できるみたい」とか、芳香性を直せるので、直ちに「やめろ!」みたいに言えるモノでもないと思っている。
私としては、単純に現在の内容で結果がSF小説のようになるか興味がある。

それはそうと、『Byond a Steel Sky』はハピネスプラネット・プロジェクトの行方を見守る上でも面白いサンプルだと思うので、是非プレイして欲しい。

Steam版も7月に出るはずだ。




げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。