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ファミコン版『ファイナルファンタジー2』はなぜ難易度が高いと言われるのか、当時のプレイヤーに聞き、その謎を追ってみた

初期『ファイナルファンタジー(FF)』の6作品をドット絵でリメイクする『ピクセルリマスター』シリーズがリリースされ、その中に『FF』シリーズでも好きな『ファイナルファンタジー II ピクセルリマスター』のレビュー記事を書いた。

で、私にとって『ファイナルファンタジー2』といえばバランスが悪くて、途中から即死に近い特殊攻撃を連発する理不尽ゲームで、同時に裏技的な工夫を重ねてエンディングに到達するのが楽しい、「難しさと工夫を楽しむゲーム」だった。

ところが、これに対して「普通にプレイすればバランスの良いゲームですよ」とか「本当のファイナルファンタジー2はそういうゲームではない!」という声も届いた。
進め方によっては簡単になるとは知っていたが、せっかくなのでこれに対して深掘りしてみよう、というのが今回の記事。

ネットを調べると苦労せずに攻略するガイドを載せているサイトもあり、苦労して攻略した話もありで、同じゲームを普通にプレイしているはずなのに、まったく異なる2つのゲーム像がある。
なぜ、同じゲームに対して2通りの異なる感想があるのか、今回はネットの情報を調べるだけでなく、当時のプレイヤーにも直接話も聞いて、その謎を追った。

回避率を上げよ、さもなくば死が待つだろう

同じゲームを遊んでいるのにプレイ方法も、感想も異なるのか。
これは後半になるほど回避能力が重要になる作りと、好きな能力を育てて進める『ファイナルファンタジー2』独自の育成システムに原因があるようだった。

『ファイナルファンタジー2』の状態異常攻撃は強力で、眠りだろうが麻痺だろうが、発生したら回復が難しく、状態異常が発生したら最後、そのまま敵の攻撃を受けつづけて全滅してしまうこともある。
しかも、状態異常を引き起こす通常攻撃(毒のツメとかそういったもの)は、攻撃を受けてしまうと100%状態異常が発生するので凶悪だ。
そういった状態異常を避けるには、高い回避率と、回避回数が求められる。

わかりづらいことに、FF2には回避回数と、盾による回避率上昇の2つが存在する。例えば、敵が4回攻撃なら、回避回数4、回避率99%でほぼ確実に避けられるという寸法。回避回数が3回なら4回のうち1回はほぼ確実にダメージを受けてしまう。
回避回数を上げるには敵の攻撃を受ける必要があり、回避の成功率は盾を装備して上げるものだった。
もっと言うと、状態異常を回避する魔法回避もあるが、複雑になるので今回は省略している。

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ところが、そこで独自の育成システムが問題になってくる。
『ファイナルファンタジー2』には経験値・レベルが存在せず、バトル中に使用した能力が上昇するシステムと取り入れている。
剣を装備して攻撃すれば剣の熟練度が上がり、攻撃回数が増えてダメージが上がっていく。魔法を使えば最大MPが上がるし、大ダメージを受ければ最大HPが上がるという寸法だ。

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攻略キーである回避能力を上げるには、敵の攻撃を受けて回避回数を伸ばしつつ、盾の熟練度を上げる必要がある。
実際、「バランスがいい」とするプレイヤーは、盾を装備してプレイしていたようだった。

だが、好きな能力を育てられるシステムを利用して、回避率を上げずにゲームを進めたプレイヤーもいた。本作には仲間に攻撃できるパーティーアタックのシステムがあり、これを利用して意図的にキャラクターに大ダメージを与え、簡単に最大HPを伸ばすことができる。回避できなくてもHPが高ければ生存率はあがるわけだ。
また、”素振り(※)”と呼ばれたバグ技、これを使用せずとも時間をかけて序盤から武器の熟練度を上げる攻略手法をとるプレイヤーもいて、これも問題を加速させた。

※戦闘中に1度決定したコマンドをキャンセルしても、その戦闘中に行動を行った物としてカウントされる技。攻撃してはキャンセルすることで、何度も攻撃コマンドを実行した扱いになり、簡単に武器の熟練度を上げられた。
ただし、武器の熟練度を上げることは難しくないので、これを使わずに上げているプレイヤーもいた。

攻撃能力が高い状態でプレイすると、敵から攻撃を受ける前にバトルが終わる。残った敵がいたとしても、最大HPが高いと雑魚敵が逃げる確率が上がるため、敵が逃げてしまう。
すると、敵から攻撃を受ける回数が少なくなって回避回数が上がらない。

回避回数が増えないと、ゲームが進むにつれて状態異常攻撃を避けられなくなり、苦労を背負い込む。
また、“すばやさ”が低いと敵から先制攻撃を受ける確率が増えるが、”すばやさ”は回避率が高い状態でバトルしないと上がらないらしい。
つまり、回避能力を上げずにプレイしていると、敵に先制攻撃されて何もできないで全滅する可能性も跳ね上がる。

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さらに、最終ダンジョンでは最大HPに比例してダメージを与える敵が登場し、最大HPを上げすぎていると数千ものダメージを受ける。しかし、回復魔法で回復するのはせいぜい1,000程度。
普通に進めていれば大きなダメージを受けないはずが、最大HPを不自然に上げていたプレイヤーは比例ダメージがでかくなり、回復が追いつかずに絶望する。

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回避を上げて進めたプレイヤーは普通のRPGとして遊べて、そうでなければ真綿で首を絞められるようにジワジワ苦しくなり、最後に絶望の最大HP比例ダメージが待っている。

回避能力を上げたか、上げなかったか、その差で同じゲームでもプレイ体験に大きな差が生まれたわけだ。

裏技が広まったのが良くなかったのか?

回避能力を上げれば、『FF2』は比較的簡単にクリアできるらしい。しかし、私は回避能力を上げずに苦労したし、ネットを見回すとそういったプレイヤーの方が多いようだ。

これに関してはゲーム雑誌などがゲームの特性を逆手に取った裏技、攻略方法を広め、それありきでプレイする人が多かったから、という説が唱えられている。

本当だろうか?

さすがに30年以上前のことで記憶が曖昧だったので、当時いっしょにプレイしていた友人、私と一緒に『ファイナルファンタジー2』を遊んでいた弟、大学でこのゲームについて語りあった友人、そしてゲーム好きが集まるDiscordやLINEグループで聞いて、情報を集めてみた。
すると、5件ほどはっきりとした返事をもらえた。30年以上昔の話だから、5件でも上等な方だろう。
私自身の年齢の問題もあり、プレイ時は5人、全員が小学生だったことも書いておく。

結論から言うと、聞いた結果では因果関係は想像と逆だった。
裏技が広まったから、めちゃくちゃなプレイが横行してバランスが悪くなったのではなく、ゲームを普通にプレイしていると回避能力が上がらないケースが多かったから裏技に手を出していたのだ。

誰もが『ファイナルファンタジー2』を普通に遊び、自然とゲームに行き詰まって、どうしようもなくなって裏技に手を出していた。
困ったときに裏技に手を出すので、ゲーム雑誌などがそこに一役買ったのは間違いないとおもうが、順序としてはゲームに詰まる方が先に来たようだ。

攻略雑誌がパーティーアタックを紹介しなかったら、そこでゲームを諦めた人も多かったかもしれず、『ファイナルファンタジー2』の印象は悪くなっていたかもしれない。そう考えると、攻略雑誌が悪いとは一概に言い切れない気がする。

バランスが良い説もある『ファイナルファンタジー2』をプレイして行き詰まるなんて不思議な話だが、プレイヤーたちの話を聞いてみるとそこに自然な理由があった。

犯人は装備画面、お前だ!

話を聞いてみるとすっかり忘れていた当時の記憶が蘇ってきて納得できた。回避率を上げられず、裏技に手を出すまでに追い詰めた犯人は……装備画面、お前だ!

ファミコン版の装備画面では「こうげき」と「ぼうぎょ」の変化しか見えない。
普通にプレイしていたら、この2つの数字を最大化しようと装備を選ぶことになるだろう。そして、そこに落とし穴があった。

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この画面では、利き手だけに武器を持たせて逆手に何も持たない片手持ち時に”こうげき”の数字が最大化され、強く見える(実際、ダメージも高い)。
武器と盾を同時に持つと”こうげき”の数字が落ち、”ぼうぎょ”の数字は上がらない。そのため、盾を装備しない片手持ちを積極的に採用しているプレイヤーもいた。

また、武器を両手に1本ずつ装備する二刀流の選択肢もあった。”こうげき“の数字が低くなるが、これが一番人気。
二刀流演出のかっこよさは子供にとって格別だったし、左右の武器で攻撃するから攻撃回数が増え、武器の熟練度も2倍の速度で上がるメリットがあった。

片手持ち、二刀流、どちらの選択をしても盾は持てず、回避率は上がらないので実際はデメリットがある(実際には二刀流では回避もあがるが、盾ほどではないようだ)。
しかし、回避率が重要ではない序盤については、二刀流による成長速度加速、片手持ちのダメージ増大が強く実感できる。

そうして画面から得られる情報をもとに効率的にゲームを進めようとすると、序盤に有効と感じた戦術を実行し続けると、盾を持たずに回避率が低いままゲームが進んでしまうわけだ。
行き詰まってから盾を持っても、回避回数・熟練度が低ければ大きな効果を実感できない。なんとかゲームを進めようと攻略方法を求め、パーティーアタックを知り、HPを上げていく選択をしていたわけだ。

さらに言うと、装備には重さがあり、重い装備をつけると回避率が下がった。攻略サイトによると後半に出てくる強力な鎧などは大抵重く、一部の例外や初期の軽い装備をつけるほど回避率が上がって楽になるらしい。
が、装備画面ではそれを確認できないので多くのプレイヤーは最新の装備=強い=ぼうぎょの値も高い、という固定観念で重装備で固めていた。気づいて回避を重視できた人はすごいと思う。
たぶん、回避率という概念はRPGを一般化したドラクエにはないもので、説明書で少し説明されていても、その重要性は当時のゲーム経験が多い人でないと理解できなかったのではないだろうか。

プレイスタイルによって難易度が変わりすぎ、そのプレイ体験も真っ二つに別れるのは自然なことだったと言えよう。

まとめ

『ファイナルファンタジー2』は自由度が高く、両手持ち・片手武器・両手武器(弓は両手で扱う)、武器と盾など、重装と軽装防具など、装備にさまざまな選択があった。
しかし、そこで数字上は最高に見える装備を選択すると、ゲーム攻略に最も必要な回避率が得られない。

回避能力に注目して武器と盾のペアを選択したプレイヤーは問題なく進めたが、こうげき・ぼうぎょステータスなどが重要と判断して二刀流などを選択したプレイヤーは、問題に直面した。
そのため、裏技を使わざるを得ないほど追い込まれるが、裏技に手を出すと最大HPを上げても攻撃能力を上げても回避能力が伸びず、目先の問題はクリアできても最終的にはジリ貧に陥った。

難しいゲームを攻略するのは楽しいものだから、そういったプレイヤーにとっては「地獄を工夫で乗り越えた」体験こそが『ファイナルファンタジー2』の面白さ、素晴らしさで、その地獄は悪いことではない(まあ、当時のゲームは今と比べて不親切で難しいので、それで気にならなかったのもありそうだが)。

が、回避能力を上げてクリアできたプレイヤーにとって、楽しかったポイントはそこではないので、今回「本当のファイナルファンタジー2はそういうゲームじゃない」と抗議を受けたのだろう。

ただ、もともと『ファイナルファンタジー2』はそういった分断を生みやすいゲームで、どっちの体験も普通にプレイした感想で、どちらも「本当のファイナルファンタジー2」じゃないかな、と思う。
「本当の××」は楽しんだ方法・視点によってプレイヤーの数だけあるはずなので、それ自体意味のある言葉ではないと思うが。

そんな『ファイナルファンタジー2』を再び遊び、回避能力の検証をしたい方は、新しくでたピクセルリマスター版をどうぞ。

そして、アンケートへ…

これは5人だけの話を聞いて「その可能性もある」と考えた程度の話なので、もっと多くの人から情報を得られたらもっといろいろわかるに違いない。

ということで、Google Formでファミコン版FF2に関するアンケートを作ってみた。当時プレイした方、回答していただけると嬉しい。
一応、回答後は結果が見えるようにもしている。

そして、以下はnote会員向けの余談。

訂正情報.
回避には回避率と回避回数が存在するという指摘があり、実際に文中で混同していたのでったので、調べなおして回避について記述を足しました。また、武器熟練度を上げるとダメージが上がるを@攻撃回数が増えてダメージが上がる」へ、二刀流については熟練度が上がるという記述へ変更しました。

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