見出し画像

『Outer Wilds』が好きになりすぎて、まとまらなかった感想とか。

SFアドベンチャーゲーム『Outer Wilds』が、寝食忘れるほど面白かった。

ファミコンで『ドラゴンクエスト』を遊んだときのワクワクや、自由すぎて遊び方がわからなかった『ロマンシング・サガ』を手にして感動が蘇るゲームだった。ゲーマー歴も30年を超えて、ちょっとやそっとの仕掛けでは驚かないほどにすり切れたと思っていたけども、そんなゲーマーに感動を蘇らせてくれた。

1時間だけ、と思ってプレイしていたのに毎日3時間(午前3時とか)とかまで遊んでしまうぐらい良かった。

だから、お勧めするための記事を書こうと思ったけど、このゲームは解説すると興ざめする作品なので厄介極まりない。
しかし、「とにかくやれ!」と言うには乱暴で、このゲームは合う人には100点、合わない人には50点みたいな作りになっている。
なので、まずは何も知らずにこのゲームを遊びたい人のため、「こんな人なら楽しめる可能性は高めじゃないかな」と思える条件を書いておきたい。

『Outer Wilds』を楽しめそうなのはこんな人
・SF的な映画やストーリーが好きで、多少は主観視点アクションゲームの経験がある人(ちょっと操作に癖があるので、初の主観視点ゲームとしてはお勧めできない)
・インディーゲームなどを積極的に探して尖った作りのゲームを見て楽しめる人。

上記に当てはまるなら、「超面白いかもしれないゲームを試せる」と考えて賭けてみる価値はあると思う。定価は3,000円弱だけど、動作条件を満たしたPCやXboxなら、Xbox Game Pass という定額サービス(今なら初月100円!)で遊べるし。

一応、Steamも張っておく。定額サービスが嫌なら、ウォッチリストにでも入れておいてセールのときに買ってもいいだろう。

さて、これから先を読むとかなり面白さが減ってしまうので、遊ぶことに興味があれば別の記事を読むことをおすすめする。自分が見たなかだと、このあたりはまだネタバレ度が低くて、かつ魅力も説明していていいんじゃないかな。

さて、それではあまりにゲームが気に入ってしまったので、書きたいことが多すぎて、ついにまとまらなかった感想などばらばらおいておく。




『Outer Wilds』とは?

ネタバレ記事ではあるのだけど、一応軽くゲーム内容を説明しておく。

『Outer Wilds』は、22分ごとに終焉を迎えては時間が巻き戻る星系を探索し、その秘密を探るタイムループ・SFアドベンチャーだ。

画像1

ハーシアンという四ツ目種族の宇宙飛行士である主人公は、運が悪いことに初フライトに臨んでちょうど22分で星系の終焉に巻き込まれて死んでしまう……が、なぜか記憶を保ったまま時間の巻き戻りを体験する。
そして、記憶を保ってタイムループを繰り返しながら、星系の、あるいは自分に起きている異常の謎を解くべく孤独な探索を始める。

画像6

22分たつと、そのプレイ回の記憶がフラッシュバックしながら時間が巻き戻る。なかなかに印象的な演出で良かった。

ゲームのつくりとしては謎解きが根本にあり、プレイヤーは22分間でオープンワールドの宇宙を冒険し、残されているノマイの記録や惑星の様子などを知り、その情報からエンディングにつながる道を探すものになっている。

画像2

画面は主観視点、操作はアクションゲームで、天地のない宇宙で前後左右上下を考えながら動くには3D空間を把握する能力と、ある程度の操作の慣れが必要になる。
特別に難しいわけではないが、ろくなチュートリアルがないので3D・主観視点ゲームを苦手と自認する人にはおすすめしない。ゲームの内容的に苦戦しすぎないである程度スムーズに遊べた方が良いと思うので。

最初の1時間を遊んだ後に、飽きてプレイをやめた

さて、いきなりタイトルと矛盾するようだが、実際に遊んでみると『Outer Wilds』というゲームは恐ろしくプレイヤーを突き放したゲームで、最初の1時間は楽しくなかった。

「はい、ゲームが始まりました。ここはハーシアンという種族が住む星で、あなたは今日初めて宇宙に行く宇宙飛行士です」

ゲームから示される情報は、ほぼこれだけ。目的らしいものは示されず、あとは放っておかれる。
もちろん、主人公が宇宙飛行士なのだから宇宙に行くべき、とはわかる。
しかし、肝心の宇宙の魅力は全然伝えられない。つまり、プレイヤーが宇宙に行く動機……ゲーム的な目標を示して煽ることをしない。

画像7

基本操作を学ぶチュートリアルも実践的とは言い難かった。ミニゲーム的な面白さもなく、「宇宙に出るためとは言え、あまり面白くない操作練習だなぁ」と思いつつプレイしていた。
そして、私の最初のプレイは宇宙に出ようとして宇宙船の操作に失敗し、墜落して死ぬところで終わった。
あまり愉快な経験ではなく、それから1週間ぐらいゲームを起動しなかった。

画像3

最初の惑星である木の炉辺から飛び立って、これまで歩いていた場所が小さく見えることに感動……した直後に死んだ。

ところが、それから1週間後。
私は『Outer Wilds』に夢中になって、やめられなくなっていた。

『Outer Wilds』を遊ぶのではなく、知りたいと思った

1週間のブランクをおいてゲーム再開した後、私は『Outer Wilds』の星系を見て回ることが面白いことである、と気づいた。
SF小説などで「地球外惑星の驚くべき自然メカニズム」が表現されることはあるが、そのメカニズムが視覚化されて体験まで可能なのはインパクトがでかい。

2つの惑星の間を砂が行き来し、時間によって姿を変える”双子星”で砂の柱に飲み込まれたときは思わず声が漏れてしまったし、スペース富士の樹海とでもいうべき”闇のイバラ”には言い知れぬ緊張感があった。
どの星も行ってみると興味深いSF的な場所だった。

画像4

画像5

惑星観光中には、ノマイ族が遺した書物が見つかり、その生活様式やら研究やらの情報が断片的にプレイヤーにインプットされる。複数の惑星から得られる断片的な情報は、組み合わせるとで何かしらの推論を導ける。

それらがプレイヤーの中に積み上がり、興味深い謎として組み上がっていく。この宇宙の情報を知れば知るほど、行ける場所が増える。

ノマイ族の残した情報によれば、現象AはBをしないと発生しないらしい。それを踏まえればBができるのは惑星Cだけだから……現象Aは必然的に惑星Cで発生するんじゃないかな。
ああ、今まで見えていても行けなかったあの場所に行けた!

『Outer Wilds』のゲームシステムは謎解きゲームだったが、私を突き動かすのは「もっとこの世界のことを知りたい!」という好奇心だった。

多くの場所に行くと、プレイヤーにはノマイ族の情報が少しずつ蓄積されていく。すると、自然に「この興味深い宇宙で生活していたノマイ族は、どんな種族だったのだろう?」とゲーム究極の目的……ノマイ族と星系の謎を明かすことに導かれ、それが「私のやりたいこと」になっていた。

探求心にかられるままにゲームを遊び続け、終盤までその熱は冷めなかった。大げさな表現ではなく、SF映画の主人公になって、すべてを決定しているような感覚で遊び、『Outer Wilds』で知りたいことを知り尽くして(謎を解いたのではなく、自分の知識欲を満足させて)、楽しくゲームを終えた。

これほど強烈にゲームの中に世界を感じ、ハマったのは久しぶりだった。

最初の退屈が強烈なハマりの原動力

『Outer Wilds』になぜこんなにハマってしまったのか。
ゲーム内には「プレイヤーがそこに世界があると感じら、世界を感じたらそのまま違和感を抱かせずに最後まで遊ばせる」ための仕掛けが沢山あって、挙げようとすればたくさん褒める個所が出てくる。

・断片的に物語を配置して、プレイヤーに物語の行間を連想させている。
・惑星観光などのビジュアル的な興味から本題である宇宙の謎について無理なく導入する作り
・情報が適度にちりばめられており、究極の謎にたどりつくまでの道筋がプレイヤーによって違う(プレイヤー自身が物語を作っているかのように錯覚する)。
・タイムループ構造がストーリーと行動の矛盾を減らし、プレイヤーの没入感を上げている。

タイムループ構造についてだけ、あまり他に触れている感想がないので補足。
オープンワールドゲームの物語で、1つ問題になることがある。それは、キャラクターの行動とゲーム内での状況の不一致。
オープンワールドゲーム(そうでないゲームでもありえるけど)では、緊急のタイミングでも寄り道して宝を探したり、遊び回ったりできる。
『FF15』だったら、父王が倒れて早く次の街にいかないとまずいシリアスなタイミングで釣りして、狩りして、写真を撮ってキャンプを満喫したりできてしまう。

その後に街に行って壊滅した様子を見て「俺がいない間に街を……おまえらは許せん!」と戦っても、プレイヤーからすると「オイオイ、おまえら遊んでいたじゃん」となったりする。
まあ、こんなときは「まあゲームだし」という感じでプレイヤーが現実に返って、それを許容したりするが、『Outer Wilds』はタイムループでこれを解消している。

22分で終わってしまうタイムループゲームで、22分たてばすべてがリセットされる。だから、何をやってもその後の展開に影響しない。
他のキャラクターにたいして冷淡に接しても「22分たてば戻るしな……」で終わるし、遊びまくっても「22分で戻るからやけになって遊ぶか」という感じでプレイヤーの中で物語に破綻をきたさず納得できる。

すると、プレイヤーが自らの行動に対して「冷静になる変だな」と現実に返ってツッコミを入れるタイミングがなくなる。タイムループものは「何度も繰り返して事件を解決するカタルシス」みたいな、『シュタインズゲート』的カタルシスでよく使われるけど、こういう使い方もあったか、と感心した。

などなど。
しかし、ゲームを終えてみると最初の1時間の退屈がなければ、『Outer Wilds』にこれほどハマっていなかったかもしれない、と考えるに至っている。

『Outer Wilds』は、とても古典的なゲームの手法を採用している。
それはプレイヤーを世界に放り出してゲームの説明せず、プレイヤー自身に遊び方を探させる手法である。
乱暴に言えば、人間というのは他人に言われてやるより、自発的に行動したときの方がより楽しく遊べるという心理を突いたシステムだ。

『Outer Wilds』でも、世界に放り出されたプレイヤーは何を楽しむべきかまったくわからない。
しかし、自分なりに操作してゲームの楽しみ方を自分で見つけたとき、その成功体験は強烈に残る。『Outer Wilds』では、序盤をあえて退屈に作ることで初めて遊び方を見つけたとき(私なら惑星観光が楽しいと思ったとき)「このゲームの主人公は自分で、自分がこの世界の楽しみ方を見つけていくものなんだな」と強く認識する。

すると、その後に断片的なストーリーを提示されたときも積極的に組み合わせて推論するようになるし、謎解きも世界観の一部として(謎解きパズルではなく、世界の自然法則を利用して動いていると錯覚するゲームのつくりが見事なのも言うまでもない)認識し、ゲーム的な無機質なものという考えならない。
序盤の退屈(目標に対して強制されない、ゲーム的な演出を極力抑える)が、その後のゲームの面白さをすべてブーストしているわけだ。

面白さへの信頼に震えて、ちょっと残念な気持ちに

と、理屈では言えるんだけどインディーでこれを採用するのはすごい勇気がいると思う。
ゲームがあふれている現代において、1時間遊んであまり印象が良くないゲームは、切り捨ての対象になりがちだ。
スマホでは最初の2~3分でプレイヤーを引き付けられなければ、他のゲームに行ってしまう。Steamであってもセールで大量のゲームを積んでいるゲーマーが多いわけで、最初の10分程度楽しくなければ見切りをつけるプレイヤーは多いことだろう。

つまり、この仕組みを利用していると遊ばれない可能性が高くなる。
それを回避するには開発元やシリーズへの期待感で序盤を乗り切ったり、すごいビジュアルや革新的システムで期待感をあおったりする必要がある。

これを書いていて「最近のゲームでこういった作品ないかな」と思って探したら、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』がこの合わせ技を使っていた。序盤に説明を抑えてプレイヤーをほっぽりだすところは同じでも、開発元・シリーズへの信頼感・オープンエアという新機軸への期待感で問題なく乗り切らせてしまう。本当に任天堂の横綱相撲はすごいな、と改めて思った。

ゲーム内容を伝えてしまったら面白さが目減りする。でも、序盤を期待感だけで乗り切るような話題性や知名度もない。
そんなインディーゲームにおいてこれを採用したのは本当にすごい勇気だな、と思う。

画像7

主人公の母星にいる人々も「今日、ついに初飛行だね」、「初飛行を迎えてどんな気持ち?」とは言うけども、「○○星にはすごい滝があるらしいよ。見たいよね!」というように宇宙の魅力を伝えることはしない。
やりすぎじゃないかってぐらい、目標を強調しないし、宇宙に行くことを過度に鼓舞しない。
序盤をこうするには、本当に勇気が必要だったと思う。

目標を見つけたときにはのめり込むようにハマるけども、目標を見つけられなかったら、そのプレイヤーはゲームをやめてしまう。
配信映えする要素も薄いから、こけたらとことん日の目を見ないゲームになってしまっていたはず。

『Outer Wilds』のゲームの面白さを信頼し、世間の誰かがそれを評価することで広がっていくことを信じていなければこんなゲームは出せなかっただろうな、と思う。
自分たちのゲームへの信頼と、世間がこれを見つけてくれるだろうという信頼、決断の勇気に震える。

その信頼にこたえるべきはゲームライターと呼ばれる職種なんだろうけど、自分がこのゲームが出たときに見つけ出して、ハマって、その期待に応えられなかったのはなんか、残念だったな(もう十分有名って気持ち)と思ってしまった。

その他、以下にはちょっとゲーム中に思ったこととか書こうとしてやめたこととか詰め合わせ。
書きたいことが多くて、あまりにまとまらなかった物体供養その2。このゲーム、誰かと語りたいなぁ。

ここから先は

3,722字

¥ 500

げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。