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起ち上がる子供たち


昨日、面白いことがあった。

「彼らの目配せ」であるツイートを見つけたからで、良い驚きで、
マスメディアが嫌がる彼らを抑えつけて、ラベルを貼り付けた「Z世代」が、アメリカで、
なんだか仲間同士の秘密の通信のようなことを述べている。

スクショというのは、いかにもおやじふうに下品で、なるべくやりたくないことのうちに入るので、遠慮しておくが、そのツイートは僅か一行で、というよりも、たったひと言、と述べたほうが相応しいもので

「kamala IS brat」

という。
このよく目を凝らさないと見えないようなグラフィティをXツイッタのサーバーに書きつけたのは
Charli XCXというシンガーソングライターです。

本人は連合王国のケンブリッジの生まれで、押しても押されても倒れてしまいそうな、押しも押されもしないイギリス人だが、ニュージーランドのLordeと並んで、アメリカでも、「Z世代」にはおおきな人気があって、そういうことが知りたければ、影響力も強い人です。
ツイッタを中心に「活動」したり意見を述べたり、つぶやいたりする人ではないが、その割に
320万人という数のフォロワーがいることで判るとおりで、若い人々のなかには、Charli XCXのアカウントを「瞬間チェック」するためだけに、新世代赤首(red neck)おやじの右翼ソーシャルメディア「X」にアカウントを持っている人はたくさんいる。

つくっている音楽は、わし好みのもので、特にMVは、マスメディアのおじちゃんやおばちゃんが
「Z世代」という概念をこさえれば、まとまりとして扱えるのではないか、と考えた層の若いひとびとの「雰囲気思想」とでも呼びたくなる姿をよく伝えている。

Z世代についての本を十冊読むより、このひとの「360」というヒットした曲のミュージックビデオを観たほうが、遙かによくマスメディアが「Z世代」と呼んでいる人びとが、どういう人びとか、
より精確には、いまは先頭グループが、もうすぐ30歳になろうとしている数年前、マスメディアによっておおきく取り上げられて、げんなりさせられていたころに、どんなふうな暮らしをして、どんなふうに考えていたかを理解することが出来そうです。

ともかく、Z世代のお姉さん役、Charli XCXがビルの外壁にフェルトペンで小さく書き記した
「kamala IS brat」
のひとことは、多分、少なくとも数百万人の若いひとびとを投票所に足を運ばせることになったように見えました。

どうせ、日本語ソーシャルメディア名物の、なんにも判ってない、やたらVIP気取りのおっさんたちが来て、なんだかエラソーな、不愉快な捨て台詞を残していくだけだ、と考えて消してしまったような気がするが、ツイッタで説明したとおり
「brat」は、若者言葉というだけでなく、Charli XCXのアルバムの名前で、カマラ・ハリスの緑色とかけて、
「カマラハリスはbratだ」と述べたのでした。

もちろん彼らはメッセージを正確に受け取ったので、アルバムと服の色について述べているわけではなくて、Z世代語で「カマラハリスは、私達を助けてくれる政治家だ。カマラハリスに投票しようぜ」という呼びかけです。

この少し前には、フランスで、政治家たちをボーゼンとさせ、アナリストたちが失職を心配しなければならない事態が起きていたことをおぼえている人も多いでしょう。
第二回目の投票も、圧勝間違いなしと伝えられていた、極右が、圧勝どこか、ボロ負けで、
政権そのものも左派の手に渡っていった。
街頭のビッグスクリーンの前で、ショックで呆然とする右翼たちと、大勝を祝うためのお膳立がすべて整っていた会見の席で、青ざめた顔で、いまにも泣き伏しそうな姿のMarine Le Penの姿と、悲壮な顔付きでビッグスクリーンを見つめていて、やがて「信じられない、あれを見ろ!」と言いながら、自分たちが大勝したことを報じる画面を指さして、文字通り、躍り上がって喜ぶおっちゃんやおばちゃん、若い人々との、映し出された姿の対比は、歴史が永遠に語り伝えるに違いないものでした。

専門家も暗い気持ちを抱えながら投票したひとびと自身も、ほんとにこれが現実だろうか、とおもうに違いない、この奇跡は、選挙権すら持たない、高校生たちの力によってもたらされた、と言いたくなるほどの経過で起きたものでした。

動画を見ると、ポール・ヴェルレーヌやアルチュール・ランボーが加わっていた
1871年のパリコミューンを彷彿とさせる雰囲気のなかで、まだ子供の顔の高校生たちが、
「いまこそ、我々は団結すべきだ。この右翼野郎たちを叩きつぶせ。
起ち上がれ、フランスよ!」
と、まるでダントンやロベスピエールが乗りうつったかのような、激しい、だが美しい、
弾劾の演説をしている。
それを取り巻いておとなたちが拍手している。

革命が突如フランスのひとびとの心に甦って、力強い言葉たちを引き連れて政治の世界に進軍してくるのを目の当たりにするようでした。

日本語世界では、目立たなくて、いつものルーティンのように報じられているが、実はイギリスでも、めんどくさいので暴力はふるわないことになっている伝統に従って、投票によって、
左派が、2020年に内部の結婚詐欺師みたいなジェレミー・コービンたちを排して、批判よりは理念で、ここにきて保守党から政権をもぎとっている。

オーストラリアでさえ労働党の政権で、ついこのあいだまで極小国ニュージーランドのジャシンダ・アーダーンだけが、急進左派政治家として、非望の、だが観念レベルの高い理念による政治を行っていたのが嘘のようです。

なにしろ変転の幅のおおきさと早さで、もっと簡単にいえば、派手にコロコロ変わるので有名なアメリカ大統領選なので、まだどうなるか判らないが、トランプ陣営の1~2%のリードが伝えられるアメリカの権力レースは、どうも「Z世代」の、おおげさにいえば歴史上初の選挙戦への参加によって、カマラ・ハリスの勝利、しかも大勝の空気が濃厚になってきた。
毎月72億円になんなんとする寄付をトランプに対して約束していたイーロン・マスクは、さっさと約束を反古にしてしまって、シリコンバレーの「起業家」らしく、「負け犬に餌はやらない」態度で話題になっているが、ゲイたちに対して瞋恚の炎を燃やすゲイ男Peter Thielも、友人たちの話によると内心嫌気がさしているそうで、どうやらシリコンバレーには多いトランプサポーターの企業家たちもトランプを見放す気持ちに傾いているようです。

オカネがないと、続けられないんだよね、アメリカの選挙戦。

「Z世代」が、ついに政治を相手にすることにしたのは、自分たちの自由、
というと、えらく力強く聞こえるが、自分たちが好んで住んでいる、普通よりも少し酸素がおおい日常が脅かされていると感じはじめたからでしょう。

神様だの、堕胎で胎児の生命を奪うのは許されないだの、同性間の恋愛は神の御意志に背く行為だのと、時代を間違えてるんじゃないの?のバカばかり述べているGOPたちはもちろん、
ウォール街の大統領を選びたいのか、あんたは、で、二言目には、あの本を読めこの本を読め、こういう説をありがたがれと、うるさいったらありゃしないリベラルも、両方、鬱陶しいだけで、出来れば、見えるか見えないかの距離に立っていて欲しい「政治」が自分たちの、たゆたって、グルーヴィな部屋にズカズカと入ってきて、「ほら、おまえたち、パーティはもうお開きだ、いつまでも世の中に甘えてるんじゃないよ」と言い出したので、
「うん。なるほど、そういうことですか」までは、いままでと同じだが、ズカズカが部屋から立ち去ったあと、自分たちから見ても、あんまりパッとしない副大統領(しかも、元検事!)を立てて、取りあえず、この人に大統領になってもらって、自分たちが政治について考える時間をつくろう、ということになったように見えます。
トランプ大統領になっちゃうと、そこで終わっちゃいますからね。
ましてヴァンス、あのイカレポンチのヴァンスかよ、で、まるでマーベルコミックの悪役コンビみたいな最悪さで、さすがに、やばいぜ、ブロよ、シスよ、ということになったもののようでした。

以心伝心。
「Z世代」の特徴ですね。

だから
「kamala IS brat」

翻って、わしがこの朝の早い時間に正気であると仮定すると、いまこれは日本語で書いているはずで、
日本には、多分、「Z世代」と範囲をしぼって一般化できるような若い人たちは存在しないようです。

生まれたときからインターネットやスマホ、ソシャルメディアとともに育ってきたのは、他の社会とおなじで変わらないはずだが、どっかで、「おらおら、お前、頭をこの鋳型に差し出して、そうそう、ちょっと痛いががが我慢しろよ」
ガガガ、ギギギ、グリグリ
ニッポン思想を組み込まれプリントされているのか、なんとなくソフトバンクのロボットPepperくんか広告代理店の「若いのに落ち着いた態度の営業」をおもわせる口の利き方をするひとびととしてQCされていて、
とてもではないが、「Z世代」の、あの、いまはまだ言葉には、うまく載らないので記事の終わりに動画を載せておくことにした雰囲気のひとびとにはなっていかない。

コントロールフリーク社会は、若い人のなけなしの人間性を殺してしまうのかも知れません。

だから、「一応、日本の外では、こんな感じなんだけどね」という記事にしかならないが、それでも、書かないよりはマシでしょう。

日本の若い人たちにも運が残っているならば、ここからは外圧でなく外魅力で社会は変わってゆく。

ちょっと回り道だったけど、やっぱり自由はいいね、ということになってくれるのではなかろーか

いつかは