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メモオフへの誘い〜25周年を迎える老舗シリーズの魅力(作品紹介:メモリーズオフシリーズ/KID・MAGES.)

こんにちは。中大美少女ゲーム同好会のウオハゲです。

今回、私が直近にプレイした作品の紹介をしたためました。楽しんでいただければ幸いです。


プロローグ:あるヒロインに一目惚れして25周年のシリーズを最初から追っかける決意をした大学生のお話

本題に入る前に、ちょっとした自分語りをさせて欲しい。
その手の文章の好き嫌い以前にこの段は駄文極まりないので飛ばしてもらっても一向に構わないが。

私は大学2年生の、一般的な陰キャラオタク大学生である。
オタク遍歴は中1の頃からアニメ→特撮→競馬→美少女ゲームの順。たった8年でこんな移り変わり方をしていることからも窺えるように、かなり飽きっぽい性格なのである…
(競馬は今現在でも結構どハマりしているが)

美少女ゲームを本格的に追い始めたのは2023年から。
中学時代にPSP版「STEINS;GATE」で初めていわゆる美少女ゲームの世界に触れるも「まゆりルートのみで挫折」という情けない敗北経験を味わった私であったが、そこから4年ほど経った大学一年次の2022年夏に「ぬきたし」を購入したことをきっかけにその手のゲームに興味を示すようになる。
その後翌年の年アタマから「CHAOS;HEAD」を始めたのを皮切りに、「科学アドベンチャーシリーズ」、「Ever17」、友人から借りたゆずソフト作品2作などに次々と手をつけ、美少女ゲームオタクとしての階段を一気に駆け上がっていった。

そんな中。
あれは初夏の出来事だったろうか。
軒並み積みゲーをプレイし終わり、次に買う作品を模索していた中での出来事だった。
ある日YouTubeを私は、AIによる「あなたへのおすすめ」、そしてそこに突然浮上した動画『シリーズ最終作「メモリーズオフ -Innocent Fille-」オープニングムービー PS4/PS Vita/DMM/Steam』によって、彼女に出逢ってしまったのだ…

「メモリーズオフ -Innocent Fille-」
ライトサイドオープニングムービーより

その名は「嘉神川ノエル」。

それは恋愛遍歴が酷く乏しく、観るアニメは監督や脚本家の名前で選び、美少女ゲームはシナリオとシチュエーションの拗らせ方の評判で選ぶというクソみたいな人生を送っていた私にとって、人生で初めての「一目惚れ」だった。
オープニングムービー冒頭のシーン(1枚目のキャプ)で目が合った瞬間、私の中で何かが弾けていた。
次の瞬間には、「メモリーズオフ innocent fille」という作品について調べていた。Wikiにはオチ含め何から何まで全て書かれているシュ○ゲとかE○er17の記事とは真逆にマジで全然何も書かれていない貧弱な記事しか見つからず、色々なサイトを参照してゲームの情報を追っかけた。

  • 24年以上続いているシリーズ作品

  • 舞台は自分の地元・神奈川県湘南地域

  • 嘉神川ノエルが攻略可能ヒロインとして出る「innocent fille」はシリーズのナンバリング8作目で最終作

  • 同作には歴代作品のヒロインが総出演する

これを把握した私は悩んだ。
8作品となると結構な量ではないか…??
それ以上にナンバリングタイトルがあるランスシリーズや攻略ヒロイン数がバカみたいに多いD.C.シリーズよりはおそらくマシであるとはいえ、なかなかの数というのには変わりないと思ったのだ…

そこで評判のいい作品だけピックアップして遊ぶことにして、1st/2nd/4作目(それから)/7作目(ゆびきりの記憶)を購入。

…しかし、後々気になる作品が増加してFD含めほぼ全作品を買うハメになることをこの時の私はまだ知らなかった…
最終的に、この記事を書く直前にナンバリングタイトル全てを完走。ファンディスクの気になったルートを消化する段階に入っている。

後悔はしていない。なぜならこのシリーズはぬるま湯に浸かっていた私に素晴らしいプレイ体験をくれたから。クソ真面目な「履修」なんて気持ちで始めたゲームプレイは、最後には宝石に昇華していた。

さて前置きもそこそこに(そこそこ?)、本題に入っていきたい。

「メモリーズオフ」とは?

メモリーズオフシリーズは、1999年にPlayStation用ソフトとして発売された「Memories Off」(以下1stと呼称)を第一作とする全年齢向恋愛アドベンチャーゲームのシリーズだ。
メーカーはシリーズ発足から2006年までKID。同社倒産後はシリーズの権利関係を取得し、また旧KIDから多くのスタッフが移籍した5pb./MAGES.が開発発売を行っている。

第1作「1st」発売からこれまでの24年間において、ナンバリング相当のメインタイトル8作品、ファンディスクや外伝作品、総集編等を合わせておよそ20作品のゲームタイトルが発表されている老舗シリーズとなっており、今年2024年には25周年記念として「Memories Off 双想 -Not always true-」の開発・発売が既に発表されている。
メインタイトル・FD各作品は全て世界観を共有しており複数のタイトルに跨って登場するキャラもいるが、主人公とヒロイン含めシナリオは全て独立している。

なお、シリーズ本編自体は、最終作として開発された8作目「innocent fille」を以て完結した。以降は全てファンディスク・外伝作品等の展開になると予想…されたのだが、2023年に25周年記念作品として制作が発表された「メモリーズオフ双想」はロゴに漢数字の「九」があしらわれており、新しいナンバリング相当の作品になると予想される。

なおこれとは別に、2021年にはメモリーズオフシリーズから一部スタッフとコンセプトを引き継いだ新シリーズ作品「シンスメモリーズ 星天(ほしのそら)の下で」が発売された。

恋愛の負の側面と向き合うシナリオ

このシリーズの最たる特徴は、王道をなぞっていながらも「離別・死別」「浮気」「三角関係、そして選択」「羨望や嫉妬」「自己犠牲」など、恋愛における「負」の側面に真っ向から向き合って書かれたシナリオにある。

「1st」では各ヒロインのルートで、思い人や肉親との死別を含む別れを軸とした物語が展開される。更には、そのような重い設定を背負っているのは主人公とて例外ではなく、ヒロインが抱える問題の解決を主軸とした作品が多かった当時の恋愛アドベンチャーとしては異色の作風だったと言えよう。
その後1stの人気を見届けシリーズ続編として開発された2作目「2nd」では、浮気による恋人との離別やそれにまつわる苦悩を主軸として描いている。この手の作品は、当時はまだ「WHITE ALBUM」程度の前例しかなかったとされ、またコンシューマー媒体の全年齢向作品に限って言えば更に珍しかったとされる。

この他、「パッケージにも大きく描かれているメインヒロインに、その恋人である主人公が突然別れを告げられる」という衝撃のシーンから始まり2nd同様新しく恋をしてしまったヒロインとの間で揺れる主人公を描いた4作目「それから」、主人公の同性の親友との死別を軸として映画制作サークルの青春群像劇やサスペンスのテイストを取り入れた5作目「#5 とぎれたフィルム」など、離別・死別や三角関係・浮気、それに起因する嫉妬など、恋愛において避けられがちな話題に突っ込んだシナリオはどれも読み応えが高い。

地味な設定から巧みなプレイ体験制作

しかしながら、ただ暗く重いシナリオばかりがメモオフの魅力ではない。

2ndのキャラデザを見てもらえれば手っ取り早く理解してもらえると思う。このシリーズは基本的に、世界観やキャラの設定・デザインに殆ど派手さというものが無い(1stや「それから」などある程度キャラデザ・キャラ設定の個性が立っている作品も無くはないが)。
メモオフの世界観は地名が異なる以外は、現実世界と地続きである。ファンタジーなんてものはない。ちょっと所謂電波キャラっぽい人物はいるけど、殆どはキャラを自分で多少盛るに過ぎずまともな人格を持っている。
キャラデザに関してもそうだ。2ndのヒロインは6人いるが、そのうち5人は常識的な髪色をしている。舞台となる浜咲学園の制服は少しオシャレだが、服の色のトーンを落とすことで態々地味さを演出したことが語られている。

そんな派手さを避けているような設定面にも関わらず、シナリオはどの作品も基本的に一定の評価を獲得している。
このゲームのシナリオの上手いところは、そのような派手さのない設定からヒロインの個性や魅力を最大限に引き出し、そしてシナリオの本筋へとプレイヤーの感情ごと引き込んで、その心に揺さぶりを掛けるほどのプレイ体験を完成させるところである。
星のように輝く魅力的な美少女ゲームで目が肥えてしまったファンにとっては一目惚れするような派手に可愛いヒロインとなるといないかもしれない。
しかし、いざルートに突入してクリアすると最終的にはそのヒロインのルックスも性格も全部が好きになっている…というそんなプレイ体験が、このゲームでは貴方でも経験できると思う。

ぶれない舞台設定

本シリーズでは神奈川県の藤沢市・鎌倉市の江ノ島電鉄線および湘南モノレール線の沿線が一貫して舞台のモデルとなっており、地名こそ変えているが作中の背景美術ではその地域に実在する場所をそのまま背景画に落とし込んだものも多い。特に、江ノ島駅・鎌倉高校前駅周辺はシリーズでも頻出する。

ファンの間でもいわゆる聖地巡礼が盛んに行われている他、有志による聖地マップの作成や、また一部作品の発売時には江ノ島電鉄とのコラボスタンプラリーが行われた。

「二者択一の恋物語」

このシリーズ、特に「2nd」以降の作品では「選べる恋人は、たった1人である」という当たり前ながらも何より重要な不変の摂理について、それを強く肯定しこちらにも強要する『思想』が込められている。
シリーズ作には物語開始時点で主人公と恋人関係にあったり、あるいは主人公に対する好意を隠そうともしないメインヒロインもいる。他のヒロインのルートを攻略する際は当然そのメインヒロインとは別れることとなるのだが、その別れ方は画一的になることなく、毎度異なったドラマを産む。時にはヒロインの涙を。時には修羅場を。またある時には、ヒロインのみでなく恋人「だった」二人の涙を。
シリーズの過半数の作品は00年代以前に世に出たものであるため、シナリオの中にはありきたりと思えてしまうようなシチュエーションは幾つも存在する。
しかし、殊このような「別れ」を描くシーンに関しては全く別だ。丁寧な、それでいて時に大胆な心理描写。時に儚く、時に激しい台詞回しの数々。それらはゲームに臨む我々の心を本気で揺るがし、そして我々が求める“ルート”を「選択」する意味の重さを幾度となく問い直すのである。

「真の主役」、稲穂信

信くん (#5のOPムービー)

散々引っ張ったがネタバレが嫌だったり単に読むのが面倒臭かったらこの段は飛ばしても構わない。
しかし、どうしても紹介したいキャラがいるのでここで紹介させて欲しい。

恋愛アドベンチャーゲーム等において、「友人ポジション」や「親友ポジション」なる呼ばれ方をする男性キャラがたまにいる。
リドルジョーカーにおける周防恭平であり、シュタゲにおける橋田至であり…とここまで言えば通じるだろうか。
本シリーズにはそんな友人ポジションに、なんかチャラくて偶に胡散臭くて、そして何よりメチャクチャカッコいい一人の男が24年間を通して着いている。

それが「稲穂信」(CV.間島淳司)である。
(以下、信くんと呼称)

「とらドラ!」「緋弾のアリア」など何かと釘宮理恵メインヒロインのアニメ作品で主演をしている印象がある間島氏であるが、彼のプロデビュー作こそが「メモリーズオフ1st」の稲穂信役であったという。
そんな「1st」での信くんだが、メインヒロインを攻略しないうちは【只の癖の強い言い回しをする悪友のガキ】と言う印象で終わってしまう。
しかしメインヒロインのルートにおいて、彼は自分のプライドを賭けて主人公とヒロインのためにちょっとした大立ち回りを演じる。そのバックグラウンドも相まってプレイヤーは多かれ少なかれ、(この男、只者ではない…?)と言う印象を与えられてゲームを終えることとなる。

そして彼はシリーズ次作の2ndでも、2作後の「それから」でも、とにかくシリーズのメインタイトルは勿論のこと、FDにもほぼ必ず顔を出すシリーズの常連と化し、そして毎回のように主人公を持ち前の胡散臭さで引っ掻き回したり、そして時にはメチャクチャ重要な助言を与え。
そして5作目「とぎれたフィルム」ではネタバレの為詳細は伏せるが、シリーズでもトップクラスでカッコいい彼の大立ち回りを味わう事ができる。
そしてシリーズ最終作ではなんと結婚まで。さらにそのエピソードを描く専用ルートまで用意されている。

書いてて気づいた。言葉で書いてても彼の魅力は全く伝わらないという最も基本的なことに。
とにかく、シリーズ作品を可能なら複数プレイし、彼がいかに公式やファンから愛されているのか、その身を持って確かめて欲しいところだ。そして願わくば、私をはじめとするシリーズファンと信くんのカッコ良さを共有しては頂けないだろうか…

作品紹介

基本的にFD相当の作品は省略し、ナンバリングタイトル相当の作品のみ紹介する。

1作目:「Memories Off」

かけがえのない想い…みつけた

オリジナル版発売:1999年

第一作にして全ての始まり。
当時主に美少女ゲームのコンシューマー移植を手掛けていた一方でオリジナルタイトルの開発発売を行うようになった当時のメーカー・KIDがスマッシュヒットを当て、全年齢美少女ゲームのトップレベルメーカーとして台頭していくきっかけとなった作品と言える。

「ヒロインが抱えた問題を主人公が背負いやがて結ばれるに至る」という従来の恋愛ゲームのフォーマットにとらわれない、「主人公が背負ったあまりにも重い過去」「グッドエンドでも死亡するような描写が描かれるヒロイン」などの切なく辛いシナリオが特徴で、主に中高生のゲームファンからの支持を得たという。

反面実際にプレイしてみるとシナリオの起伏自体は乏しく、エンディングの際も比較的あっさり終わってしまう点は非難されがちな傾向にある。今プレイしてみると少々古典的すぎる…という感想に至る可能性も否定できない。

一方でネタバレを踏まずに攻略すると巧い伏線構成や衝撃の展開を楽しむことができる。
加えて、メインヒロイン・桧月彩花の担当声優・山本麻里安が歌唱するドリームキャスト移植版以降のエンディングテーマ「This may be the last time we can meet」は歌詞含め大変見事な出来となっている。是非プレイ前に曲を聴かず、歌詞も調べずにEDで聴いてみて欲しい。

余談だが、後に「Ever17」「EVE new generation」「AI:ソムニウムファイル」などを手掛けたシナリオライター・打越鋼太郎のデビュー作としても知られる。当時KIDに所属していた打越はネットで度々話題にもなる「ペプシマン」のグラフィック制作などを担当した後、本作以降はシナリオを手掛けている。

2作目:「Memories Off 2nd」

かけがえのない想いと引き換えに……

オリジナル版発売:2001年

前作の人気を受けて発売された作品。
前作とは趣を真逆に、「既に恋人がいる主人公の恋愛の“乗り換え”」という攻めたテーマを描いており、リアリティとそれに関連するシリアスさが大幅に増した。

クオリティは様々な面で前作から大幅に向上している。スチルのクオリティは勿論のこと、シナリオはただ過激なだけに留まらない。
前作よりもキャラクター造形は比較的抑えめとなっており、攻略可能ヒロインはわかりやすい萌え要素が他の美少女ゲームと比べても少なくなっている。また設定もリアリティを重視しており癖はそれほど多くない。
そんな中でも、そのような癖の少ないキャラクターから魅力を引き出して、「恋愛アドベンチャー」として極めてハイクオリティな物語を形作っている。
サスペンス風味の強い先の読めない展開も多く、シナリオの起伏が少々乏しかった前作と比べてもプレイに飽きが来にくい。

テーマの都合上確実に好き嫌いは分かれる作風ではあるが、取り組みの先進性や質の高さは現代でも通用するのではと感じるレベルの作品。興味があれば是非触れてみて欲しい。

3作目:「想い出にかわる君 ~Memories Off~」

かけがえのない想い…そして、また

オリジナル版発売:2002年

まず断っておかねばならないことは、この作品はシリーズの中でもとりわけ不人気として取り上げられがちなタイトルであること。
しかしながら、ここで自分が申し上げたいのは、この作品はただの不人気作品で片付けるのは勿体無いということだ。

本作は「Memories Off」がサブタイトルに格下げされていることからもわかるように、マンネリ化を嫌ってか多くの新基軸を投入した作品である。
これまでの作品の主人公が高校生だったところ今作では大学生になっている点、学校ではなく仲間内が集まるカフェを中心に物語が展開すること、男性サブキャラクターの充実など、様々な狙いのもと多くの新要素が含まれるほか、スタッフ面を見ても前2作がシナリオライター複数制だったところを今作では単独ライターを採用した(と思われる)点が目につく。
その影響もあり、今作はテキストの雰囲気もシリーズ他作品とは大きく異なっている。読んでいる感覚はギャルゲーを遊んでいるというよりかは、トレンディドラマを視聴しているのに近かったと思う。
個人的にはそれは決して悪いことではないと感じている。例えば登場人物の掛け合いなどテキストのテンポの良さはかなり良い。加えて名台詞の類は非常に多く、とくに主人公の年齢からしてもゲームのメインターゲットと思われる大学生や近い年齢のプレイヤーには刺さるであろうセリフもある。

また、本作の登場人物はヒロイン・男性サブキャラクター、主人公に至るまで、簡単に言うと手放しで完全な好人物と呼べるような者が少ない。いわゆる「アクの強い」キャラクターが多いのが特徴的だ。
だが、そんな癖の強いキャラクターから魅力を引き出したり、そこで生まれる人間関係の変化や軋轢の機微を巧く描いた場所もあり、とくに当初攻略可能なヒロインを全員クリアした後に突入可能なトゥルールートではその真髄が発揮されている。

一方でこれらの魅力はプレイヤーの感性によって簡単に低評価点に化けてしまう脆さがある。
それだけでなく歴代最多の7人の攻略可能ヒロインがいる影響からかヒロインの魅力を描ききれなかったと感じたルートも存在した。

結論として。最も賛否が分かれる作風である一方で、それで食わず嫌いするのは勿体無いと言うのが筆者の主張だ。
シリーズ他作品との繋がりが非常に強い面もあるので、興味があれば怖がらずに食指を伸ばして欲しい。

4作目:「メモリーズオフ 〜それから〜」

かけがえのない想いを乗り越えて

オリジナル版発売:2004年

シリーズ屈指の人気作品にして、「メモリーズオフシリーズ」の特徴も色濃く出ていると感じる作品である。

前2作では主として夏が舞台となっていたが、本作は晩冬となる2月から春にかけてが舞台となっている。
本作は高校最後のバレンタインデーに突如として恋人でもあるメインヒロインから別れを切り出される…という衝撃のシーンから始まり、最初からひどく重いシナリオが展開されるが、その雰囲気を巧みに活かしヒロインを魅力的に描写することに成功している。
そんな魅力的なヒロインのキャラ造形であるが、以前の作品ではあえて避けられたこともあった「わかりやすい萌え要素」が今作では積極的に用いられている。
少々挑戦的だったかもしれないが、その新機軸は空回りしておらず、元々巧みだったシナリオ作りをさらに読みやすく昇華させている。
一方個別ルートのシリアスさは手加減を知らず、特にとあるヒロインのルートは遠慮なく精神疾患に関する話題まで突っ込むほど攻めている。

欠点を挙げるならメインヒロインのルートの出来があまり良くなかった点だろうか。少々駆け足気味の印象が拭えなかった。しかしそのメインヒロインは他のヒロインのルートでも重要な役割を持って登場するので、魅力を描くこと自体は失敗しておらず、寧ろシリーズの歴代メインヒロインの中でも人気を得ていると感じている。

シリーズに初めて触れる人にも強く勧めたい名作がこの「メモそれ」である。このベタ褒め(?)を通じて興味を持っていただけたらこれ以上の喜びはない。一緒に藤原雅を推そうぜ!

5作目:「メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム」

想い続ければ、
願いはきっと叶うんだよな

オリジナル版発売:2005年
5作目にして、シリーズ最後のKID発売作品である。この作品発売後同メーカーは2006年に倒産し、5pb./MAGES.に版権が引き継がれている。

本作では再び主人公を大学生に戻し一部男性サブキャラクターも投入して、また作品を代表とするテーマとして「映画制作」を導入。あまり「美少女ゲーム」然としない青春群像劇的な作風が展開される。
「想い出にかわる君」と似た戦略ではある一方で、今作はそちらほどの賛否を呼ぶことはなく、シリーズの中でも人気な作品に仕上がった。
シナリオライターが続投したことでシナリオやテキストの雰囲気が逸れていないこと、主人公がそちらと比べても好人物であること…など一部作風はシリーズの特徴をなぞったり、万人受けするところから大きく外れていないことが理由だろうか。

ヒロイン各個別ルートのシナリオの出来自体は佳作という評価に落ち着きがちだが、ルート後半の見せ場はどれもスチル含め大変出来が良い。
そして一定条件を満たすと突入可能なグランドルートではヒロイン視点によるストーリーの伏線回収などの要素もあり、非常に楽しいプレイ体験が待っている。

6作目:「メモリーズオフ6 T-wave」

かけがえのない想い……すぐそばに

オリジナル版発売:2008年

副題の読みは「トライアングル・ウェーブ」。
本作より5pb./MAGES.開発発売に移行。
メーカーを移して新開発体制最初の作品となった本作は「原点回帰」を謳い、舞台となる高校・季節を初代に合わせたり、王道をなぞるシナリオ展開などが特徴となっている。
一方、前作で好評だった一部マルチサイトシステムなどは続投している。

作品自体の評価だが…あまり芳しくない。
原点回帰を謳った本作は攻めたシナリオが少なくなっており、特にメインヒロイン二人のルートはマルチサイトシステムを導入した割にはその特性を活かせておらず空回りしている感じも否めない。

ただ、サブヒロインのうち嘉神川クロエと春日結乃のシナリオは単純なシナリオの出来の高さや攻めた部分の多さなどが印象に残る。この二人のヒロインとしての人気は非常に高く、現在に至るまで公式ヒロイン人気投票の上位常連にもなっている。
また、FDが全2作同様きっちりと出ただけでなく、それらと異なり全ヒロインとのアフターシナリオが収録されている点からも、本作が単なる駄作ではないことをわかっていただけるのではないかと思う。

7作目:「メモリーズオフ ゆびきりの記憶」

繋いだ指をほどく勇気、ありますか?

オリジナル版発売:2010年

原点回帰を謳った前作と比較して、多くの新機軸やシリアスな作風を導入した作品。
3作目から4作連続でメインキャラデザを担当していたイラストレーターが降板したほか、科学アドベンチャーシリーズのトリガーシステムに少し近い「ゆびきり分岐システム」なる選択肢システムを一部採用しているなどの特徴があるが、何よりの特徴は極めてサスペンス性の高い、以前のシリーズ作と比較すると最もシリアスなシナリオ。
シナリオによっては殺人未遂が発生、分岐次第で死人も出る。

シナリオの評価は佳作〜優秀作といったところ。
キャラクターの魅力や人間関係の変化の機微は概ねかなりうまく描けており、ミステリ要素や伏線回収などの見せ場はしっかり用意されており、プレイしていて楽しかった部分は非常に多い。
しかし、一部設定面の練りが甘過ぎると感じる部分があり、あまりに都合の良すぎる設定や考察の余地がない重要な部分がぼかされているなどの問題があり、要所要所で物語に入り込めないと感じる残念な部分もあった。

最後に。
佐賀亨というコメディリリーフがめっちゃ面白いので悪評だけ見て手出ししないのは勿体無いぞ。
次作でちょい役でしか出てないのホンマ許せん

8作目・「最終作」:
「メモリーズオフ -Innocent Fille-」

これは、かけがえのない

そして負けない
想いコイゴコロ

オリジナル版発売:2018年

メモリーズオフ最後のタイトルとして制作された、文字通りシリーズ20年の歴史の「集大成」といえる傑作。

全体的な作風として「徹底的な温故知新」と表現できる。
設定面やシナリオ展開・シチュエーション、さらにスチルの構図に至るまでシリーズ過去作のオマージュと思われるものを多く含んでいる一方で、シナリオは前作以上の攻めたサスペンス性を持っている。特に一度グッドエンドをクリアした後に突入できる、物語全体の謎に迫るシナリオ「ヘヴィサイド」ルートでその傾向は顕著で、雰囲気や作風はそれまでのメモオフシリーズのそれからは大きく逸脱している。
しかし空回りしていると感じた箇所は非常に少なく、一貫してシリーズで問われ続けた離別や選択、自己犠牲といったテーマを突き詰めた結果であると受け入れることができた。
ネタバレになってしまうので詳しくは言えないが、序盤からあるトリックを使った伏線も仕込まれており、クリアした際に初めて気がつく代物になっている。具体名は伏せるが他の著名なKID作品をプレイした経験がある人なら感嘆したりニヤリとしてしまうようなものなので、少しでも心当たりがある人は是非プレイして確かめてほしい。

シリーズ全作からキャラクターが客演しており、さらにそれに伴ってオリジナルキャストと原画スタッフが集結しているのも魅力。また、シリーズ全体を締める内容の「アナザーエンド」や「エピローグ」も用意されている。シリーズ作品に触れた数が多いほどそこで感じる感慨は深くなるはずだ。

最後に

可能なら「Innocent Fille」からプレイするのは避けて欲しい。
単体でのクオリティも勿論高いが、一方シリーズ過去作ありきの部分も非常に多い作品である。
過去作を経験せずに突っ込んでしまうと楽しめなさそうな部分も多く、だいぶ勿体無く感じる。
是非、他の作品も併せて楽しんで欲しい。
「1st」「2nd」「それから」はシリーズの「らしさ」がよく出ており、また手放しでオススメできる面白さにもなっている。PS2などが遊べる環境であればそちらの中古ソフトは非常に安く手に入るので、そちらも検討して欲しい。

かなり長くなってしまったが、シリーズの魅力は1万字なんて量で語れるほどの大きさではない。興味を持ったなら、是非1作品でも触れてみて欲しい。


あがらない雨はない

(文責:ウオハゲ)

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