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隣のおじさんのお通夜

昨日、実家にいると母親から伝えられた。

「○○さんが亡くなって、明日お通夜やけどいける?」

僕は祇園花月で出番をいただいていたが、16時には京都を出られるので、

「いけるよ。」

と伝えた。

お通夜の準備をしとこうと、黒のスーツを引っ張り出したが、僕サイズの白のシャツと黒の靴下がないことに気づいた。母親にその旨を伝えると、

「ほな明日、コープさんで買うとくわ。」

と言ってくれた。買いに行く時間がなかったので助かる。お任せすることにした。

そして今日、普段は電車で京都に向かうが、のちの動きやすさを考えて、自慢のBMWで劇場入りした。ほぼ『師匠』の出勤である。

※横のナイスガイはヘンダーソンの子安。写真はナダルが撮ってくれたもの。もちろんナンバー丸出しだったので、自分で処理しました。

出番を終え、実家に戻り、スーツに着替えようとすると、お願いしていたものすべてが無い。母に、

「あれ?俺の白シャツと黒靴下、コープさんで買ってきてくれた?」

と尋ねると、

「え?そんなん約束したっけ?ごめんな。最近お母さんアホなってんねん。」

そうか。アホなってんねやったらしゃあない。駅近くのユニクロで揃えればなんとか間に合う。急いでもう一度自慢のBMWに乗り込んだ。

※数行ぶり2度目の登場

母と徒歩で会場に向かう。父は家から徒歩5分のところにある会場に、軽トラで向かうと言っていた。車で行くと遠回りになるので10分かかるのだが、そんなこと言いがちな人なので、僕も母も声を揃えて、

『気をつけてね。』

と見送った。母と歩いている最中、僕は、

「○○さん、何歳やったん?」

と聞いた。すると母は、

「お父さんの3つ上やから、80か81ちゃうかな?」

と答えた。なので僕は、

「へぇ。早すぎでも遅すぎでもないね。」

と答えると、

「いや、けっこう早かったで。入院してから1ヶ月経ってないんちゃうかな?もともと去年に○○病院に入ったんやけど、そこで肺がんが見つかって、✗✗病院に移ってん。ガンは小さかったからちゃんと取れたらしいねんけど、そのあと元気なかったわ。ほんで、3月くらいにもう一回入院しはったんよ。そこからは早かったみたい。」

と言った。

『いや、急にけっこうな情報量が飛び込んできたな!ただ、その『早い・遅い』とちゃうねん!あと、けっこう細かいこと覚えてるよね!?なんでコープさんは忘れたん!?』

と思ったが、お通夜前にするツッコミではないと思ったので堪えた。

会場に着き、記帳をすませると、おもむろに歩を進める母。後ろをついていくと目の前に現れた文字。

『親族様控え室』

思わず僕が、

「え?ここ?」

と尋ねると、母が、

「あ!お父さん待っといたほうがええか。すぐお父さん忘れるねん。最近お母さんアホなってんねん。」

と答えた。

「いや、自分の旦那をコープさん扱いしてるやん!ほんで「最近おかあさんアホ」っていう便利なワードいつ覚えたん!?ってか、そんなことより親族なん!?」

これは、会場で普通に声が出た。

「そうやで。奥田家の母屋やもん。」

とサラッと答えた母。僕が次の疑問を投げかえようとすると、

「あ、あかんで。細かいことはお父さんに聞いて。最近お母さんアホやから。」

僕の出鼻を、必殺技で完璧にくじかれた。どこがアホなん。こっちの心読んでるやん。もうエスパーやん。

エスパー母と共に父を待つ。父、15分後に到着。予定より10分オーバー。もしかしてやけど、サッと飯食ってきた?

早速父に、

「おじさんってどういう関係?」

と尋ねると、

「うーん、どこかでどうかなってるんやわ。○○さんがよう知ってるんやけどな。」

と答えた。

『いやこっちはこっちで!今日はその○○さんのお通夜やねん!なんや!?とんでもないブラックジョークか!?ホンマに親族か!?いや、親族すぎたらそういうジョークも許されるんか!?』

結局、おじさんと我が家との関係性はよくわからないまま、親族側に座った。

我が家との関係性はよくわからないが、僕とそのおじさんの関係性は、大人になってからよく会うようになったイメージ。おそらく、定年退職されて、家にいる時間が増えたのだろう。会うといつも声をかけてくれた。

芸人になってからは、

「最近、テレビで見たで。がんばってるか?」

と聞かれ、

「ありがとうございます。もっと見てもらえるようにがんばります。」

と答えるのが、いつもの会話の始まりだったと思う。

お通夜がひととおり終わり、棺の中にいるおじさんに挨拶をさせてもらった。

『いつも声かけてくれて、気にかけてくれて、ありがとうございました。』

と、心の中でお礼を言った。

会場を出ると、参列していた近所のおじさんたちがいた。

「最近、テレビで見たで。がんばってるか?」

と誰かが言った。僕は嬉しくなって、

「ありがとうございます。もっと見てもらえるようにがんばります。」

と答えた。

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