野球の神様⑦
「いやー今日の試合はすごかったんだよ!俺の大活躍でさぁ!今日一点も取られてないんだよ!ねっママ!」
「そうよ。お母さんもびっくりして感動しちゃった」
「そうかぁ、お前はすごいなぁ。お父さんも惚れ惚れするぞ」
試合後、ウォールくん家の夜の家族団欒。話題はウォールくんの初完封勝利で持ち越しだ。
「ほんとすごいわねぇ。また来週の試合も楽しみだわ」
次の日の放課後、先週までのウォールくんなら壁あてをしていた時間だ。しかしこの日のウォールくんはお昼寝タイム。よほど昨日の疲れが残っているのだろう。
火曜日の放課後、友達と公園で遊ぶ約束をして遊んでいる。家に帰ってからはゲームを始め、ご飯を食べてお風呂に入って眠りについた。
水曜日。
「昨日・今日と連続で宿題を忘れた人の名前を黒板に書いておきました。必ず明日までに持ってくること」
先生が書いたその中にウォールくんの名前もあった。
放課後、帰宅早々ゲームを始め、それが3時間も続き、それからまたご飯を食べてお風呂に入って、そのまま眠りについた。
木曜日。またこの日も宿題を忘れた、、、
こんな日々が続き、週末を迎えた。宿題もやっていないが野球の練習もこの日まで一切やっていない。
「あぁ、そういえば明後日試合かぁ。まぁこの間の感じで投げれば楽勝でしょ」
ウォールくんの中に気持ちの緩みがあるのは明らかだ。
金曜日の夜。神様はウォールくんのもとへと久しぶりにやってきた。
いやぁ、なんか錆び付いた臭いが強烈じゃったのぉ。なんじゃろ、なんじゃろ?
神様は、野球を熱心にやらない人から放たれる、腐ったような錆び付いたような臭いにつられてやってきたらしい。
というのも、神様は実は特定の人のところに取り憑くということはせずに、日々の中で野球をやっている人から放たれる独特の臭いを嗅ぎ取って、その臭いを放つ人にとり憑くという性質をもっているのである。
野球の神様は、人一倍の努力をしている人と、野球をバカにしていたり舐めたりしている人のところに特に取りつきやすい。それはそれらの人が放つ臭いを普通の野球人よりも強烈に感じられるからである。
今回ウォールくんにとりついたのは、1週間の行動で身体が錆び付いて、あまりにも野球を舐めてる臭が強烈になってしまったからなのであろう。
おぉーおぉー、ウォールくん。かなり野球を勘違いしているようじゃなぁ。あの感じじゃ、どうも「次の試合も俺の力で余裕で勝てるんだ」とか努力もせずに思っているみたいじゃなぁ。実はあの完封勝利はわしがあげた一つの天罰であったのにそれに気づいていないようじゃ。
神様はいつものニコニコ笑顔で、ウォールくんをしばらく見つめ、去っていった。
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